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19話 幕間:救えなかった世界

 やぁ、みんな!

 オレの事、覚えてるかな?

 大輔の友人、木村(キムラ) 頌路(ショウジ)くんだ!


 今日はびっくりな話があるから、ぜひ聞いてくれ。


 大輔が目の前で消えた、あの勉強会から、約二カ月ぐらい。


 間借りしている茶道部の部室で、一人、囲碁の棋譜を並べていた時だ。

 青い光が走ったかと思えば、パイプ椅子に座り込む大輔を発見。


「!?」


 君なら何て声をかける?

 異世界転移してたと思われる友達が、数カ月ぶりに目の前に音も無く姿を現した時の第一声。


 オレの答えはひとつ。


 わかんねー、だ。


 言葉にならねー。

 聞きたい事は山ほどあるが、まず聞きたいのは。


「泣いてんのか──?」


 * * *


 ──ピーンポローン・ピーンポローン・ポローン……。


 うちの大学の気の抜けたチャイムが鳴った。

 18時か……。


 無言の時間は続いていた。


 大輔は戻ってきたかと思えば、憔悴しきった顔で、涙を流し、そのまま俯いて喋らなくなった。


 色々話しかけるのも気が引けて、コイツが話してくれるのを待ってる。

 最初の10分ぐらいは待ってたけど、お茶を出してみたり、異世界小説を取り出してみたりして反応を見たが、何の反応もなかった。


 仕方ないので、棋譜を並べ直し始め、待つこと数十分。


「……悪い」


 ぽつりと漏らした謝罪の言葉。


「悪かねーよ、えらく疲れてんじゃん」


 冷めたお茶を入れ直し、お茶菓子を用意。

 大輔が話し始めるのを待った。


 前回もこんな感じだったな、あの時はもっとすっきりした顔してたけど。

 少なくとも、こんな落ち込んだ顔じゃなかった。


「失敗したんだ、俺……」


 少しずつ漏らし始めた話によると、こうだ。


 神器が支配するとかいう絵に書いたような面白そうな世界で、大輔はイグザガルードとかいう槍に選ばれたけど、王女の結婚を守れず、送還された、と。


「まー、帰ってこれたならいいじゃん?」


 オレとしては励ましのつもりだった。

 だけど。


「いいわけないだろ!! 一体どれだけの時間を無駄にした?

俺がいない間に、勉強はどれだけ進んだ?

せめて異世界で何かを成さないと、俺の時間は、価値は、全くの無駄じゃないか!!」


 堰を切ったかのようにあふれ出す大輔の感情。

 怒り? 哀しみ? 後悔、諦念。 色々な感情が混ざり合った本音をオレは初めてぶつけられて知った。


 コイツ、こんなに悩んでたのかって。 


「でもさ、やっぱ、無事に帰ってきたのは、良かったよな」


 オレも色々言いたかったけど、お前はここに居ていいんだって、オレは伝えたかった。

 あいつ、すげー泣いてたけど。


 * * *


 あれからまた数週間が経った。


 またいつものぼーっとした表情に戻り始めた大輔を見て、いつも通り絡んでいく。


「だぁいすけクゥゥゥン!」

「うげ!」


 スリィィパァァァホォォォォルド!


「決まったー! テンカウントです! カンカンカーン!」

「お、お前な……」


 おっと、いつもの絡みに文句は無粋だぜッ。


「留年免れたんだろ、良かったよな~」

「……ああ、助かったよ、ありがとうな」


 たっぷりと残った追試を猛勉強によって何とかこなしたのだ。

 勉強への打ち込み方は、見ていて痛々しいほどだったけどな。


「だけどサー、やっぱ異世界羨ましいよ」

「……またその話か」

「当然だ! 日本にいたってラノベ読むぐらいしか楽しいことがないし、いずれは会社員になって日々の通勤ラッシュが……」


 ちらりと大輔の様子を見れば、いつものうんざり顔。

 どうやら前程の傷心ではないようだと判断し、もう少し話を振っていくことにする。


「今回お前が行った世界、なかなか理想的だよな!

神器に選ばれた戦士なんて、かっけーじゃん!」


 しまった、ちょっと一気に聞き過ぎたか?

 ほんの少し遠慮が足りなかったと思い反省したが、当の大輔は。


「いや、使ってわかったけど、神器はやばいものだったし、人が死ぬのも殺すのも、やっぱりいい気分じゃない」


 と言うではないか。

 しかも、いつもより真面目な顔で。


"殺すのも"って部分で、背筋に悪寒のようなものを感じた。

 なんつーか、言葉の重み?みたいなものが全然違う。


 こいつ、マジで人を殺したことあるんだろーなっていう、ちょっとした恐怖を感じてしまったぜ。


「やっぱさ、人、殺すのって……やばい?」

「倫理観がぶっ壊れるけど、そういう異世界もあるんだが、聞く?」

「お、おう!」


 …………。


 おう!じゃねーんだよ。

 過去に戻れるなら、この時のオレをぶん殴りたい。


 素面の大輔が自分から話してくれるなんて、と舞い上がっていた自分に腹が立つ。


 蓋を開けてみれば、とんでもなくえげつない話だった。


 大輔の話を要約すると、小学6年の頃、クラス全員が召喚されたらしい。

 いわゆるクラス転移ってやつだ。


 そこで行われたのは、「今からクラス内で殺し合いをしてもらいます」っていうめちゃくちゃ聞いたことのある話だった。


 しかも自由意志での殺し合いとかなんじゃなくて、ゲームの駒として強制的に殺し合いをさせられたらしく、嫌でも骨肉の争いに参加させられたらしい。


 殺らない奴は死ぬ、殺った奴も死ぬ、泣いても喚いても自分の意思とは関係なく殺し合う。

 最後に生き残ったのは大輔ともう一人のクラスメイトだったらしいけど、そいつは心が壊れてしまって廃人になってしまったらしい。


 さすがに作り話だろうと思って調べてみたら、確かにあったんだ。



 小学生集団失踪事件──。



 名前は書かれてなかったけど、無事に生還した生徒二名のうち、一名が心身に障害を負ったとしっかり記録が残っている。


 あいつ、やべえ。

 ガチモンじゃねえか。


 異世界のアタリハズレなんて、漠然と好みの問題だと思っていたけど、そうじゃないってことを改めて知った日だった。



 * * *



 あれからアイツが失踪することもなく……。

 また、桜の花が咲き乱れる季節がやってきた。


 オレはもちろん、大輔も無事二年生になり一安心だ。


 アイツ、自分がよく失踪するの知ってて授業出なくていい単位とってやがんだもんなー。


 約一年前のあの時、偶然同じ講義を取って、隣にならなかったら、アイツとの縁もなかったかと思うと、感慨深いものがあるぜ。


 おっと、いつもの中庭にて桜まみれの目標、発見!

 突撃しまーす!


「よー、大輔! 今日もクダ巻いていこうぜ!」


 軽いタックルでいつものスキンシップ。


「意味がわからん」


 こいつの嫌そうな顔もすっかり見慣れたもんだ。


「次の異世界はどこなのかねー?

どこがいいよ?」

「いや、どこにも行きたくない。日本は平和でいいぞ頌路(ショウジ)


「付き合い悪いなー。もっと楽しい異世界話をしようぜ、どんな異世界で、どんなチート欲しいかとかさ」

「経験に勝るチートはないぞ」

「何それ、なんかかっこいいじゃねえか……」


 ──ピーンポローン・ピーンポローン・ポローン……。


「おっ、チャイムが鳴ったぞ。

知ってるか、大輔。異世界転移ものでは、こういう何気ないキッカケが転移のタイミングになるんだぜ」


 ……。


「ってー、副部長が言ってたけどな?」


 ……。


「おおい、大輔ー。

どーこ行ったんだー……」


 

三章へ続く

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