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17話 前兆

 目の前にいるはずのマリエルが四方八方へと分散する。

 まるで分身の術だ。


「くっ、忍者かよ!」


 だが、こういうものは往々にして本物は一体だけと相場が決まって──!


「うあっ!!」


 右太もも、背筋を同時に貫く細剣。

 ミラージュロードといったか、アレは。


「愚かな。神器を甘く見たな。

その分身は全て本物。本物と同様に思考する、私そのものと言っていい存在たちだ」


「い、イグザガルード!」


 闇をより広げようと、意識を集中させる。


「くだらん」


 細剣が風を斬る心地よい音と共に、闇が切り裂かれる。

 手のひらに剣山を刺した時のようなチクチクとした感覚が広がった。

 この感覚が示す事実──。


 ──こいつは、ここにいる分身以外でも闇を斬っている……。


 一体何体まで分身できるっていうんだ、しかもそれぞれが思考するだって? なんだよ、これこそチートじゃないか!


「戦意の折れた顔をしているな。

ならば、改めて問おう。

私は月の国、大隊長マリエル=サンダー。

人呼んで一騎当千」


 一騎当千……まさか、1000人の分身を出せるってオチじゃないだろうな。


「イグザガルードに選ばれし者よ、お前の名は?」


 冗談じゃない、必ず隙を見つけて……

 (コロ)してやる……!


「俺は……隠の国の客将、スメラギ・ダイスケだ。

人呼んで、異世界転移常連」


 大輔の名乗りに、マリエルはフッと失笑すると、再び剣を構えなおした。


 * * *


 一方、その頃隠の国では──。


「敵襲ーーッ! 敵襲ーーッ!」


 隠の国は大輔が足止めに失敗した鋼鉄軍によって蹂躙されていた。


「マイナ!」

「ギンコ、ナーン、ユリネ様を守れ!!」

「合点!」

「あらあら~、仕方ないわね~」


 光の国王女直属部隊であるヴァルキュリア隊は、たった五人の女性で編成された言わば王女の私兵である。

 しかし、その忠義の篤さ、精鋭中の精鋭である能力の高さは、本国のみならず他国へも伝わっている。


「囲め!」


 6国最強の軍である鋼鉄軍ですら、一人一人の練度はヴァルキュリア隊には敵わない。


「なんだなーんだ、6国最強の軍っても一人一人は大したことないじゃん!」

「ギンコ、油断は禁物だ。私たちはユリネ様を奪われたら負けだと知れ」

「はぁ~い」


「う、うおおおお!」


 勇んだ掛け声と共に、何人かの鋼鉄兵が襲い掛かるも。


「あらあら~」


 兜の僅かなズレを押し上げ、露見した柔らかな肌を一直線に突く。

 槍を退いたかと思えば次のターゲットの兜に槍を引っかけている始末。

 哀れ、次の鋼鉄兵も同様に、ナーンの巧みな槍捌きにて、その剣を振るう事すら許されず絶命させられる。

 この間、わずか3秒の出来事である。


「3人いただき~」


 隣ではギンコが戦果を誇っている。


「あらあら~……」


 腕が鈍ったかしら、と首をかしげるナーン。


「ユリネ様は私がお守りする。ギンコ、ナーン。

ヴァルキュリア隊が誇る二連槍の力、存分に思い知らせてやれ!」


「「ラジャー!!」」



 * * *



「イグザガルードは失敗したか!」


 賢王ゲッフェンは己の勝算が潰されたことに焦りを見せていた。


「父上、私がエトランゼで出ます!」

「すまぬルドルフ、こうも後手に回っては、神器に頼らざるを得ぬ」


 隠の国にも当然神器は存在する。

 魔剣エトランゼ──。

 使い手はもちろん、ルドルフ王子である。


「お任せください、イグザガルードと協力し、月の国の軍勢を追い払ってみせましょう!」


 街から離れた幕舎にて作戦会議を行っていたルドルフ一行は、神器エトランゼを手に戦場へと向かう。


 目指すは、国の民の救出ではなく、イグザガルードの救出である。

 ふたつの神器による強烈なパワーがあれば、戦況を強引に押し返し、月の国を潰すことさえ可能である。


 実際、この時のルドルフの頭には、そういう構想もあったのだろう。

 この時は──。


 * * *


 そして再び大輔とマリエルの戦いへと戻る。


「くっそっ!」


 いくらイグザガルードで闇を生成しても、信じられない速度で闇が霧散してしまう。

 分身の数がさらに増えているようだ。


「フッ、客将とは哀れな奴だ。利用されているだけでなく、その役目すらこなせぬとはな」


 女が何かを言っているが、耳には届かない。

 何せ聞いても無駄だ、どうせ神経を逆なでする話に決まっている。


「気付かないか、周囲の状況に」


 くっ、聞くな聞くな、聞いても無駄……。


 ──。


 周囲の、状況。


 はたと、闇を出す手が止まった。

 目の前のたくさんいる同じ女も、俺に手を出してくる様子はない。


 落ち着け、どういうことだ。

 状況把握は異世界の基本だ、ああ、大賢者(全てを知る者)のスキルが欲しい、トゥルーアンサー(答えを導く)の能力が、 アカシックレコード(星の記憶) リーディング(を読む)の能力があれば……!


「……」


 混乱する俺をよそに、女は決して手を出してこない。


 攻撃してこない、いや、できないのか?

 違う、しないのか、攻撃しなくていいのか。

 どうして──。


「あっ!」

「気が付いたようだな」


 存外に馬鹿ではなさそうだ、とでも言いたげな勝ち誇った顔で女は言う。


「神器持ちは神器持ちが相手をするのが常だ。

相手の最高戦力であるお前を抑えた時点で、私の勝ち、月の国の勝ちは決まっている」


 それ、じゃあ──。


「お前が足止めしていた鋼鉄軍は既に隠の国に攻め入っている頃だろうな。

おっと、動くなよ。お前の足止めの為なら、私は何でもするぞ、何でもな」


 恐ろしい覚悟を感じた。

 だが、ここで動かなければ隠の国は、ユリネ王女が危ない!


「……いらぬことを喋りすぎたか。

その決意を秘めたような目は、今必要ないって言ってるんだ!」


 女の分身が大量に出現する。


「イグザガルードぉぉぉ!!!」


 どろりと濃厚な闇が、槍から吹き出し、辺りを包む。

 細剣で必死に斬ろうとしている女の分身すらも飲み込み、じわじわと周囲を覆い尽くそうとしている。


「しまった、ここまで相性が悪いとはっ……!」


 相性? そうか、パワーバランスを保つには、それぞれが強いだけではダメなのか、ならば神器同士にも相性があるのは、自然だ!


(……光の国の神器、オートマディーンは効果がよくわかってない神器のひとつなの。

イグザガルードやアルメティアのように目立った戦果を挙げられるわけじゃないみたい)


 ユリネ王女の言葉が蘇る。


 恐らく、このイグザガルードと話に出てきたアルメティアという神器は、神器の中でも攻撃的で派手な神器なのだろう。


 対してこいつの神器、ミラージュロードは実体があり思考する分身を生み出すだけ、確かに攻撃にも転用できるが、真っ先に浮かぶのは内政運用だ。


 同じ考えを持つ人間が複数人いれば、ひとつの意思で構成された無駄のない国が出来上がるのではないか?


 そうだ、用途だ、神器は武器としても破格だが、そもそも用途が違うんだ。

 ならば、俺はまだ、イグザガルードを真に扱えていないのでは!?


「うおおおおおお!!」

「っく、闇の速度が速い……!」


 先ほどまでとは違い、手先だけにとどまらず、両肩までもイグザガルードと密着しているような一体感がある。


 これだ、この感覚を強化していけば、イグザガルードの真価を発揮できる!


 殺す、この女を!

 そして、ユリネ王女を救ける!!


「死ねええええ!!!」


 明らかに分身よりも闇が分身を覆う速度が増し、勝利を確信した時、脳内に清涼な風が吹き抜けたような感覚を受けた。


 あれほど闇に満ち満ちていた周囲は、背の高かった草ごと薙ぎ払われ、荒れ地のようになっていた。


「助かったぞ……サクス」

「月の国の戦士は礼儀を知らぬと見える」


 新たな……敵!

 深緑のローブで全身を覆っているが、明らかに体格に見合わぬ大剣を軽々と片手で握っている。


 その大剣もよく見れば剣の形を成してはいるが、刃はなくまるでオモチャのような見た目。


 しかし、そんなちゃちな剣に大きな不安を覚えたのも事実。


「ふむ、キミがイグザガルードの新たな使い手か」


 ぎょろりとした目が俺に向けられる。


「お初のお目にかかる、私は新興国バジャー出身、神器リヤザカリバーの使い手、サクスと申す者。

これでも昔は水の国の王だったのですよ」




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