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16話 大輔、出陣

「ハーッハハハハ!」


 笑いが止まらない。

 これぞ、無双の高揚感。


 神槍イグザガルードは、俺の手に吸い付くように馴染み、膨大な闇を放出していく。

 辺りは夜よりも昏い闇に包まれ、阿鼻叫喚の中、迫りくる大軍をちぎっては投げ、ちぎっては投げ!


 強い。


 神器がいかにオーパーツであり、バランスブレイカーであるか、身を持って体現しているといってもいい。


 今は俺が、俺こそがイグザガルードだ!

 槍から闇が大量に噴き出る。


 戦場はもはや暗黒の地獄。

 敵を探すも、敵となるべき敵が見当たらず。


「あれ? もしかして俺なんかやっちゃいました?」


 満面の笑みで言うセリフではない。


 辺り一帯に広がるねっとりとした闇が、全てを飲み込んでいく。

 心地よい全能感に満たされ、闇を操る練度がみるみる上がっていく。

チートを得た主人公とはまさにこういうものなのだろう。


 しかし。


 違和感がある。

 闇が、削られている。


 辺り一帯に広がった闇から感じる、少しずつ闇が削られていく感触。


「……何だ?」


 心を支配していた心地よい全能感が消え、子供のように不機嫌になる。


「くそっ!」


 ああ、俺はこんなにもガキっぽかったのか。

 こんなにも、異世界にストレスを抱えていたのか。


「お前が、イグザガルードの使い手か」


 俺の闇をひたすら削り取って現れたのは、すらりとした見た目の細身の女だ。

 一本の細剣を軽やかに構え、俺を一直線に見つめている。


「誰だってんだよ、せっかく、いいところだったのに……!」


 いらいらして仕方がない。


「私は月の国、大隊長、マリエル=サンダー。

人呼んで一騎当千。これから刃を合わせる者同士、名を名乗れ」



 * * *



 ──話は少し遡る……。


 その日、一人の斥候が隠の国にもたらした情報は衝撃をもって迎え入れられた。


「月の国からの……侵攻が確認されただと!」


 驚愕した声の主は、隠の国の王、ゲッフェン=オルテリウスである。


 彼は諸外国に賢王として名を馳せている猛者だ。

 それは政治的手腕のみならず、権謀術数の数々から戦に関する戦況眼に至るまで、王として、時に将として非常に優秀であることから称えられたためである。


 そんな彼が、この状況を読めていなかった。

 度肝を抜かされていると言ってもいいだろう。


「閣議の用意! 議席持ちは集まれ!

 同時に第一級戦闘準備!

 念のため、神器を出す、ルドルフを呼べ!」

「ゲッフェン様! ルドルフ王子は婚姻の儀の準備をなさっておられますが……」

「準備は中止だ!

 婚姻……そうだ、合わせて、光の国へ援軍申請を出せ!」


 慌ただしく下知がくだされ、王の住居が騒然となる。


「今から光の国へ向かいますと援軍到着までに3週間はかかるかと……」

「緊急の伝令につき失礼します!光の国より使者が到着しました!」

「して、何と?」


「月の国、新興国に怪しい動きあり、留意されたし!

我が国は砂の国の脅威にさらされており、断腸の思いではあるが援軍は出せず!

神器イグザガルードの適合者を急ぎ見つけられたし! 以上です」


「何いっ……!」


 この時、賢王ゲッフェンは己の才覚を恐れ、恨んだという。


 この状況が()()()()()()()事に気付いてしまったからだ。


 だが、かの国にも予想外の勝算がひとつあった。


「父上!」

「ルドルフか! エトランゼを持ち、出撃の準備をせよ!」

「抜かりなく! 我が国の客将、イグザガルード殿にも出陣を要請します!」

「善きに計らえ!」


 そう。

 大輔の持つ、神器イグザガルードである。


 * * *


「号外! 号外!」


 街中を駆け回り、投げ捨てるようにして新聞をばらまくブン屋。


 ──月の国の鋼鉄軍、侵攻開始。


「マイナさん、鋼鉄軍とは、なんなのですか?」

「6国最強の軍隊だ。洗練された強固な鉄の鎧、切れ味の良い鋼の剣、それらで武装した軍隊が鋼鉄軍」


「強そうですね……

あれ、そういえば神器は7つあるのに、なぜ6国しかないんです?」

「今更その話か。

半年程前の話だが、鉄の国と水の国は、合併して新興国バジャーとなったのだ。地理的には月の国より南方だがな」


 ……ということは、光の国からは対角線になるぐらい離れているのか。

目先の脅威ではないってことなんだな……って、ちょっと待て。


 合併したということは、ひとつの国に神器がふたつある状態ではないだろうか?


 この世界は、一国一神器によってバランスが保たれている。

国がひとつになり、神器がふたつになれば、パワーバランスは一気にその国に傾く。


 これでは、国同士のパワーバランスが……。

 ああ、だから光の国は砂の国から神器イグザガルードを奪ったのか。


 いや、それならなぜ奪った神器を隠の国に持ってくる必要がある?

 下手をすれば、隠の国にパワーが集中し、光の国が吸収される恐れもあるというのに。


「戦争が始まるのですね」

「ユリネ王女!」

「王女様、今は出歩いてはなりません!」


 思わず俺とマイナがユリネ王女を諫める。


「大丈夫だ、私がついている」

「ルドルフ王子……」


 ユリネ王女の影から、静かに姿を現したルドルフ王子。


「戦争となれば、きっとマイナやダイスケも行くのでしょう。

だから、無事を祈らせてほしいの」


 両手を組み、強く祈りを捧げる王女。

 不思議と背筋がまっすぐに伸び、誇らしい気分になってくる。


「ダイスケ殿」


 いつの間にか接近していたルドルフ王子のイケボが耳をくすぐる。


 くっ、なんだこの何ともいえない良い香りは。

 イケメンは匂いまでイケスメルだというのか。


「貴殿にお伝えしておくが……」


 ルドルフ王子からもたらされた事実は、俺に覚悟を決めさせるには十分な衝撃をもたらした。


 敵はもうすぐそこまで迫っており、隠の国が戦争の中心地となるのは避けられないというのだ。

 そこで、ユリネ王女を守るようルドルフ王子に依頼されたが、俺は。


「ダイスケ殿、客将としての出番に期待する」

「待ってください」


 俺は。


「俺は、この隠の国に深く感謝しています。よそ者の俺を客将という身分で厚遇してくれ、ユリネ王女とルドルフ王子という、お、お似合いのお二人を見て……」


 なんで、こんなに。


「俺の役目は多分、ユリネ王女を無事に結婚させることだ!!

その為に、この隠の国を守ることだ!

きっと、その為に俺は召喚されてきた!」


 熱くなっているのだろう。


「ダイスケ……」


 ユリネ王女とマイナが驚いている。

 ルドルフ王子は俺の気持ちを察してくれているのか、何も言わない。


「ダイスケ殿、敵は南から進軍してきている。

信じて……いいんだな」


 信じるな、異世界はいつも俺を裏切ってきた。

 安請け合いするな。異世界は常に厳しい。


 だが。


 俺が異世界を裏切ったことはない!!


「任せてくださいっ!」

「ダイ……ッ!」


 イグザガルードから闇を放ち、闇の上を滑るように高速移動する。

 ユリネ王女が俺の名を呼ぶ声が一瞬で遠くなる。


 この闇は、泥のように沈めるだけでなく、泥のように滑らせることも可能なのか。 

 バランスをくずせば、即転倒大惨事となるであろうが、異世界によって強化されている俺は決してバランスをくずさない。


 この異世界は『集中力』を強化しているんだ!


 思えば一番最初、マイナに剣を突き付けられた時もそうだった。

 剣が来たと認識した瞬間、超集中を発揮していたに違いない。

 だからあんなに鋭い攻撃を紙一重で回避できたんだ。


 ただ、反応できるから全てを回避できるわけではない。

 基本的な体の動きは日本と大差はないし、紙一重で"しか"回避できなかったことも運が良かったというだけだ。


 超集中と神器の力、油断の要素としては大きすぎる隙だ。

決して油断してはならない、と心に決め、スピードを上げる。


 背丈程もある草の表面に闇を張り付かせ、角度を整える。

 スピードをそのままに草を滑り上がれば……!


「よぉぉぉし!」


 大ジャンプ成功!


 そして、眼下に広がる鉄の一団!


「見敵必殺!」


 両手に持った神槍イグザガルードは、俺の言葉に応えるように、深淵なる闇を辺りに広げ、この世界最強の軍団を飲み込んでいった。



 だが、俺の無双は、そう長くは続かない。



 * * *



「私は月の国、大隊長、マリエル=サンダー。

人呼んで一騎当千。これから刃を合わせる者同士、名を名乗れ」


 いやいや、イカれてるのかこの女は。

 冷静に考えて名乗るより先に殺す、殺せば全て終わるのだから。


 イグザガルードよりさらなる闇を引き出し、敵を、マリエルを襲わせる。

 最強の軍であろうと、このイグザガルードの前では無双の餌食にしかならない。

 たった一人の女など、物の数ですらない!


「異世界転移常連でしたけど、神器に選ばれたので無双しますッ!」


 どうだこのテンプレのようなタイトルは。

 まさに今の俺に相応しい……。


「やれやれ、神器を持つ者がこの程度とはな」

「な……に」


 闇が、女に近づけない!

 なぜあんな細い剣で闇が斬れる?

 闇が散らされている?


 おかしい、理解できない。

 俺の闇は、最強なのに。


「わからないか?」


 マリエルは細剣を振り、風を切る音を出す。


「私が、月の国の神器・鏡剣ミラージュロードの使い手だからだ」



本日二話更新です

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