15話 ユリネの迷い
隠の国の客将となり一週間ほどが経過した。
街はルドルフ王子の婚儀を控え、準備と前祝いで活気に満ちていた。
祭りは準備期間が一番楽しいというが、そういうものかもしれない。
街中明るいムードだが、俺はもどかしさでいっぱいだった。
広場にある水汲み場に座り、ぼーっと人の流れを見る。
こうして働いている人達も、夜になれば帰る家があるのだ。
なのに、俺は……。
帰る方法がわからない──。
不安の全てはこれに尽きる。
通常、召喚は何かをやらされるために行われるものだが、ユリネ王女にその意思はない。
それどころか、召喚の魔法陣であることを知らずに使用していた。
魔法陣を作った大賢者なる存在も、今では……という話。
つまり、誰もあの魔法陣を読み解けないのだ。
送還条件は不明、召喚主も不明。
神器に選ばれたという特別感は高揚するが、帰れないかもしれないという不安は拭えない。
「「はぁ……」」
ため息がふたつ、重なる。
自分以外のため息に、ぎょっとして横を見れば、フェイスヴェールから見た事のある横顔が見えた。
「ユリネ王女」
「えっ、ダイスケ……」
なんでこんなところに。
当然の疑問は置いておいて、気になるのは、いつもの柔らかなほほ笑みが隠れていることだ。
一応断っておくが、別にフェイスヴェールのせいではない。
「どうかなさったんですか?」
聞いたところで解決できるとは思えないが、聞くだけならタダだ。
「何でも……いえ、聞いてくださるかしら」
俺は肯定の意を示すと、少しだけユリネ王女に近寄った。
「あなたには失礼な話になってしまうかもしれないけれど……
私の故郷、光の国について気になっていたの」
ユリネ王女の前置きは、ちょうど帰れない事で落ち込んでいた俺にクリティカルヒットした。
「噂によると、砂の国に攻め込まれたらしいの。
やっぱり、神器を奪ったりしたからだわ……」
何だか俺まで責められている気分だ。
ここは神器持ちとして、確固たる意見を言っておきたい。
「でも、光の国には神器があるんでしょう?
それなら大丈夫、神器は強いですから」
「……光の国の神器、オートマディーンは効果がよくわかってない神器のひとつなの。
イグザガルードやアルメティアのように目立った戦果を挙げられるわけじゃないみたい」
用途不明の神器。
そうか、全ての神器が攻撃用というわけじゃないのか。
今までの異世界経験上、どうしても偏った思い込みをしがちだ。
少しずつ修正していく必要があるだろう。
「アルメティアとおっしゃいましたが、他にはどんな神器があるんですか?」
この機会に他の神器についても情報を得ておこう。
「そうですね……」
と、話を振ってみたものの、やはり光の国が気になるのか、乗り気ではない様子。
くっ、こういう時、どうすればいいかわからない。
全国の陽キャよ、オラに力を貸してくれ!
陽キャ、陽キャ……!
──オレは頌路……!
そうだ、頌路だ、俺は頌路になるのだ。
こういう時、あいつなら!
「ユリネ王女、街を散策しましょう!」
「え?あ、はい」
頌路ならきっとこうするだろう。
気分転換の散策、買い物、映画館、食事……あれ、これ本当にあいつがやるかな……?
とにかく言い出した以上は仕方がない。
覚悟を決めて、多少ぎくしゃくしながらも、二人で散策を開始する。
服飾店に入り、様々な服を試着してみたり、隠の国の名物と珍味を両方ついばみ、露店の物色に勤しんだ。
「まあ、綺麗なアクセサリー。色々なものがあるのね」
「うちのは逸品モノばかりだよ」
すっかり機嫌のよくなったユリネ王女と、軽快に売り込んでくる露店のおじさん。
アクセサリーを見ていると、とても気になるものを見つけた。
十字を模っているが、先端は丸く、後部には縦に突起がついている。
これは……。
「ひ、飛行機?」
「おう、兄ちゃん。お目が高いね!
そいつは変な形だが、人気のある商品だよ!」
いや、逸品モノって言ってただろ。と心の中でツッコミつつも、飛行機の造形をしたアクセサリーに見入る。
あまり詳しくはないが、全面の丸みを帯びたレドームと垂直尾翼は見事に再現されているが、どこか違和感がある。
しかしエンジンらしきものはなく、車輪もない。
主翼についているはずのウィンウィン動くアレ──ウィングレットというらしい──もない。
飛行機のようなアクセサリーに夢中になっていると、隣でこちらを見ているユリネ王女と目が合った。
「ふふ」
──かっ……!
ユリネ王女の気分転換の為に始めた散策だったのに、いつの間にか俺が夢中になっているとは。たかが飛行機っぽいアクセサリーに。
ええい、恥ずかしい。忸怩たる思いというやつである。
「す、すみませっ……!」
「いいえ、何かに夢中になっている男性は、意外と素敵だなと思いましたわ」
「あっ、な、何か、気に入ったのありましたか? 買いますよ!」
何と恥ずかしい事を言うユリネ王女に、勢いに任せて言ってしまった。
これはプレゼントというやつではないか。
「どれも素敵で……ダイスケ、よろしければ選んでくださらない?」
「で、では、失礼して……」
改めてアクセサリー群を見る。
くっ、プレゼントと考えるとどれもこれも微妙に思えてくる。
飛行機もどきなんてもっての外だ。
「お」
ピンとくるものがあった。
他のアクセサリーが被さっていて、全体像が把握できなかったネックレスだ。
三日月型の飛行機のようなものが模ってあり、周りを円で囲ってある。
──いや、これイルカだろ!
イルカショーっぽいイルカだ!
またも日本で見た事のある存在を発見し、興奮する俺。
はたと我に返れば、にこにことしたユリネ王女の顔がこちらを見ている。
あばばばばば!
「こ、これ! くだしゃい!!」
* * *
気が付けば夜の帳は下り、人通りもすっかりと少なくなっていた。
「ユリネ王女、今日はお時間をいただいてすみません……」
特にアクセサリー露店では。
「ふふ、とんでもないです。
おかげ様で気分がすっきりいたしました」
「それは良かったです」
「ええ、隠の国は平和で素晴らしい国です。
この国に嫁ぐ身として、私はここを我が国と思い、平和を守っていかねばなりません」
力強い言葉。
しかしそれは、ユリネ王女自身への宣誓にも聞こえた。
「ユリネ王女、よろしければ俺が光の国へ加勢に行ってきましょうか」
俺の提案に、ユリネ王女の目が揺れた。
だが──。
「ありがとう、ダイスケ。
でも、国にはエリカがいます。
ヴァルキュリア隊のセリとラクチャもいます。
何より、お父様もいらっしゃいますから……大丈夫です」
王女の言葉に引っ掛かりを感じなかったわけではないが、本人がそう言うのであれば、もう俺ができることは何もないだろう。
夜空を見上げるユリネ王女の胸には、イルカのネックレスが輝いていた──。
って、これから婚姻しようって人に、しかも王族にプレゼントとか、しちゃっていいの!? ユリネ王女も何受け取ってくれちゃってんの!?
ルドルフ王子、なんか、スミマセン……。
そんなこんなで夜は更け、翌朝、とある一報により、
事態は急転直下の展開を迎える。




