14話 案外いい奴?
「隠の国の客将になったそうだな」
無表情仮面の美女が目の前に現れた。
ああ、もちろんヴァルキュリア隊の隊長、マイナの事である。
「はい。いざとなればイグザガルードで戦うことになると知らされています」
「そこまでわかっているなら話は早い。
ダイスケ、お前は神器持ちと争うことを考えているか?」
あっ。
「……神器持ちは、同じ神器持ちに対しての抑止力として使われる。
故にお前のような素性の知れない者でも、神器を扱えるというだけで客将という地位を得られるのだ」
マイナの言う事は筋が通っていた。
俺は自分の想定が甘かったことを思い知らされることになり……。
「神器持ち同士の争いで肝となるのは、神器のない状態での強さ。
つまり素の強さが、神器を扱うお前を支えるだろう。
よって、今からお前を鍛えてやる」
勢いで鍛錬されることになってしまう。
マイナも暇ではないはずだ、どうしてそこまでしてくれるというのだろうか。
「マイナさん、何でそこまでしてくれるんですか?」
純粋な疑問だった。
とはいえ、予想していた答えは、ユリネ王女に頼まれただとか、そういうものだと思っていたが。
「私たちにとって、お前が必要になったからだ」
何とも現実的な答えが返ってきた。
「それと、お前に死んでほしくない」
と、どこかのゴリラのような言葉も付け加えて。
* * *
「始めよう」
お互いに簡素な木の槍を構え、基本となる扱い方を教えてもらう。
「まずは構えてみろ」
言われて思い出すは西遊記の孫悟空だ。
後ろ手に槍を構え、ビシッと決めポーズ。
──フッ、キマったな。
「全然ダメだ」
うん、知ってた。
この流れは今までの経験から予測していた。
だが、ダメ出しの速度が速すぎる。泣きそうだ。
「まず、長く持ち過ぎだ。必要でない時は、短く持て」
リーチが長い方が有利だろうと安易に下の方──石突付近──を握っていたら、真っ先に注意された。
「それから、なんだその構えは。先端が明後日の方向を向いている。
槍はその長さと細さを利用し、視覚的な錯覚をもたらすことで、相手との間合いを操作する武器だ。
──このように」
言うが早いか、遠くに居たはずのマイナが、いつの間にか俺の槍の間合いを封じ込めるほど近くに来ている。
首の横をマイナの槍の先端が通り抜けたことで、実体験を持って扱い方を知れた気がした。
──間一髪でかわせたが、これが強者との戦いか……。
このままではまずい、そう焦っていたのだが。
「……」
マイナの方が驚愕した顔をしていた。
いつもの無表情は崩れ、驚きでいっぱいの表情だ。
いや、見慣れてきたからそう見えるだけかもしれないが。
「ダイスケ」
「はい」
「一度手合わせを願おう」
はい?
今の力量差でなぜそうなる。
「な、何言ってるんですか」
「構えろ」
「わ、わかりませんよ」
「私と同じ構えでいい」
言われるがまま、槍を構える。
おっと、基本は短く持つんだったな。
「今から五段突きという技を見せてやる。かわせるならかわしてみせろ」
いかにも威力の高そうな技名を告げると、マイナは瞬時に間合いに飛び込んできた。
──殺気を感じる! 寸止めの気配がない、刺しにくる!
一段目の突き!
眉間を狙っている。
思わず後ずさりそうになるが、距離感がつかめないため、かがむ。
──えっ、早。
眉間への攻撃が失敗したと判断したマイナはすぐさま槍を退き、手首を狙ってきた。
手首を狙うということは、打ち返させる狙いがあるのだろう、これは読める。
……いや、待て!
手首だって?
いつの間に"近づかれた"んだ!?
危険を感じ、すぐさまバックステップ。
俺の手首があった場所をマイナの槍の先端が通過する。
マイナの表情はその能面のような無表情さから、正確に伺い知る事はできないが、これは間違いなく本気の目だ。
バックステップした俺の体勢をくずすように突き込まれる三段目。
だが、これは本気の突きではない、故に早いが、軽い。
必死で手を動かし、マイナの槍をはじく。
両手で槍を持っていたマイナが、片手に変わる。
──チャンス。
なんてものはなかった。
弾かれた槍をあえて片手に持ち帰ることで、反動を身体の回転に利用したのだ。
えぐるように打ち出される四段目の突き。
「くっ……!」
さすがに際どい。
紙一重でかわしたものの、マイナから目線を外せない。
──ウソだろ。
今、突いたばかりなのに、もう退かれている槍。
片手だったはずなのに、しっかりと両手に握られ、俺の心臓部を狙って正確に突いてくる。
「ごっ……だんめぇぇぇっ!!」
命の危機を感じ、夢中で槍を突いた。
一瞬、ガツンと大きな衝撃があり、肘・肩までつながってくる。
か、肩がはずれる。
「どうやら……お前に教える事は何もないようだ」
あれほどの殺気を放っていたマイナが、くるりと背を向けた。
「ど、どういう……」
──ピキッ。
問いに答えるようにどこからか響く音。
その出どころを探る前に。
バキッ。
俺とマイナの槍が、先端から同時に裂けて折れた。
「先端を合わされ、威力を相殺されるとはな。
"見"えていなければ出来ない芸当だ」
見えている……?
あんな早い技を、俺が見切っているということか?
そういえば、この異世界では身体能力の向上や低下は感じられない。
かと言って、視力がよくなったとか、そういう直接的な影響はない。
しかし、今までの異世界のように何か影響があるとしたら、まさか、この世界では……。
「それだけの力があれば、いざという時も神器の能力に頼らず戦う事ができるだろう。
覚えておけ、神器使いは神器の能力に頼った戦い方をしてはならない」
神器の能力に頼らない、戦い方か……。
「強すぎる力には、必ず相応のリスクがある。
それは、どの神器も同じだ。
だから各国は、おいそれと神器を争いに持ち出さない」
「なるほど」
「イグザガルードは元々は……砂の国の神器だった。
それを光の国である我々が、奪ったものだ」
神器持ちが優遇されるこの世界において、神器を奪われるということは……。
「砂の国には今、神器がない。
もし隣接している国、光の国や火の国が神器を持って攻勢に出れば、滅亡はまぬがれまい」
改めて神器の重さを知った気がする。
神器という存在は、この世界においてのバランスブレイカーだ。
国ごとにひとつずつ存在していたから、パワーバランスが保てていたにすぎない。
「神器って、複製や量産はできないんですか?」
「残念ながら、古代の遺物すぎて解析不能というのが昨今の見解だ」
しかもオーパーツときた。
──俺、砂の国に行くべきなのでは。
そう口に出そうとしたが、言葉にすることは憚られた。
「そろそろ戻ろう。近々、ユリネ王女様とルドルフ王子様の結婚式が執り行われるぞ。
お前は客将という身分ゆえ、便宜も図ってもらえよう」
マイナに手を引かれ、歩き出す。
そうか、ユリネ王女は政略結婚で──。
って、おいおいおいおい。
手だ。女の子と手を繋いでいる。
なぜだ、なぜこうなった。
人間の女の子と手を繋ぐことに免疫のない俺は、異様に焦って興奮していた。
俺の手を引き、前を歩くマイナの表情を伺い知る事はできないが、黒髪の隙間から覗く耳は、若干赤みを帯びているような気さえしたのである──。




