表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/51

14話 案外いい奴?

「隠の国の客将になったそうだな」


 無表情仮面の美女が目の前に現れた。

 ああ、もちろんヴァルキュリア隊の隊長、マイナの事である。


「はい。いざとなればイグザガルードで戦うことになると知らされています」

「そこまでわかっているなら話は早い。

ダイスケ、お前は神器持ちと争うことを考えているか?」


 あっ。


「……神器持ちは、同じ神器持ちに対しての抑止力として使われる。

故にお前のような素性の知れない者でも、神器を扱えるというだけで客将という地位を得られるのだ」


 マイナの言う事は筋が通っていた。

 俺は自分の想定が甘かったことを思い知らされることになり……。


「神器持ち同士の争いで肝となるのは、神器のない状態での強さ。

つまり素の強さが、神器を扱うお前を支えるだろう。

よって、今からお前を鍛えてやる」


 勢いで鍛錬されることになってしまう。

 マイナも暇ではないはずだ、どうしてそこまでしてくれるというのだろうか。


「マイナさん、何でそこまでしてくれるんですか?」


 純粋な疑問だった。

 とはいえ、予想していた答えは、ユリネ王女に頼まれただとか、そういうものだと思っていたが。


「私たちにとって、お前が必要になったからだ」


 何とも現実的な答えが返ってきた。


「それと、お前に死んでほしくない」


 と、どこかのゴリラのような言葉も付け加えて。


 * * *


「始めよう」


 お互いに簡素な木の槍を構え、基本となる扱い方を教えてもらう。


「まずは構えてみろ」


 言われて思い出すは西遊記の孫悟空だ。

 後ろ手に槍を構え、ビシッと決めポーズ。


 ──フッ、キマったな。


「全然ダメだ」


 うん、知ってた。


 この流れは今までの経験から予測していた。

 だが、ダメ出しの速度が速すぎる。泣きそうだ。


「まず、長く持ち過ぎだ。必要でない時は、短く持て」


 リーチが長い方が有利だろうと安易に下の方──石突付近──を握っていたら、真っ先に注意された。


「それから、なんだその構えは。先端が明後日の方向を向いている。

槍はその長さと細さを利用し、視覚的な錯覚をもたらすことで、相手との間合いを操作する武器だ。

──このように」


 言うが早いか、遠くに居たはずのマイナが、いつの間にか俺の槍の間合いを封じ込めるほど近くに来ている。


 首の横をマイナの槍の先端が通り抜けたことで、実体験を持って扱い方を知れた気がした。


 ──間一髪でかわせたが、これが強者との戦いか……。

 このままではまずい、そう焦っていたのだが。


「……」


 マイナの方が驚愕した顔をしていた。

 いつもの無表情は崩れ、驚きでいっぱいの表情だ。

 いや、見慣れてきたからそう見えるだけかもしれないが。


「ダイスケ」

「はい」

「一度手合わせを願おう」


 はい?

 今の力量差でなぜそうなる。


「な、何言ってるんですか」

「構えろ」

「わ、わかりませんよ」

「私と同じ構えでいい」


 言われるがまま、槍を構える。

 おっと、基本は短く持つんだったな。


「今から五段突きという技を見せてやる。かわせるならかわしてみせろ」


 いかにも威力の高そうな技名を告げると、マイナは瞬時に間合いに飛び込んできた。


 ──殺気を感じる! 寸止めの気配がない、刺しにくる!


 一段目の突き!

 眉間を狙っている。


 思わず後ずさりそうになるが、距離感がつかめないため、かがむ。


 ──えっ、早。


 眉間への攻撃が失敗したと判断したマイナはすぐさま槍を退き、手首を狙ってきた。

 手首を狙うということは、打ち返させる狙いがあるのだろう、これは読める。


 ……いや、待て!

 手首だって?

 いつの間に"近づかれた"んだ!?


 危険を感じ、すぐさまバックステップ。

 俺の手首があった場所をマイナの槍の先端が通過する。


 マイナの表情はその能面のような無表情さから、正確に伺い知る事はできないが、これは間違いなく本気の目だ。


 バックステップした俺の体勢をくずすように突き込まれる三段目。

だが、これは本気の突きではない、故に早いが、軽い。


 必死で手を動かし、マイナの槍をはじく。

 両手で槍を持っていたマイナが、片手に変わる。


 ──チャンス。

 なんてものはなかった。

 

 弾かれた槍をあえて片手に持ち帰ることで、反動を身体の回転に利用したのだ。

 えぐるように打ち出される四段目の突き。


「くっ……!」


 さすがに際どい。

 紙一重でかわしたものの、マイナから目線を外せない。


 ──ウソだろ。


 今、突いたばかりなのに、もう退かれている槍。

 片手だったはずなのに、しっかりと両手に握られ、俺の心臓部を狙って正確に突いてくる。


「ごっ……だんめぇぇぇっ!!」


 命の危機を感じ、夢中で槍を突いた。

 一瞬、ガツンと大きな衝撃があり、肘・肩までつながってくる。


 か、肩がはずれる。


「どうやら……お前に教える事は何もないようだ」


 あれほどの殺気を放っていたマイナが、くるりと背を向けた。


「ど、どういう……」


 ──ピキッ。


 問いに答えるようにどこからか響く音。

 その出どころを探る前に。


 バキッ。


 俺とマイナの槍が、先端から同時に裂けて折れた。


「先端を合わされ、威力を相殺されるとはな。

"見"えていなければ出来ない芸当だ」


 見えている……?


 あんな早い技を、俺が見切っているということか?


 そういえば、この異世界では身体能力の向上や低下は感じられない。

 かと言って、視力がよくなったとか、そういう直接的な影響はない。


 しかし、今までの異世界のように何か影響があるとしたら、まさか、この世界では……。


「それだけの力があれば、いざという時も神器の能力に頼らず戦う事ができるだろう。

覚えておけ、神器使いは神器の能力に頼った戦い方をしてはならない」


 神器の能力に頼らない、戦い方か……。


「強すぎる力には、必ず相応のリスクがある。

それは、どの神器も同じだ。

だから各国は、おいそれと神器を争いに持ち出さない」

「なるほど」


「イグザガルードは元々は……砂の国の神器だった。

それを光の国である我々が、奪ったものだ」


 神器持ちが優遇されるこの世界において、神器を奪われるということは……。


「砂の国には今、神器がない。

もし隣接している国、光の国や火の国が神器を持って攻勢に出れば、滅亡はまぬがれまい」


 改めて神器の重さを知った気がする。

 神器という存在は、この世界においてのバランスブレイカーだ。

 国ごとにひとつずつ存在していたから、パワーバランスが保てていたにすぎない。


「神器って、複製や量産はできないんですか?」

「残念ながら、古代の遺物すぎて解析不能というのが昨今の見解だ」


 しかもオーパーツときた。


 ──俺、砂の国に行くべきなのでは。

 そう口に出そうとしたが、言葉にすることは憚られた。


「そろそろ戻ろう。近々、ユリネ王女様とルドルフ王子様の結婚式が執り行われるぞ。

お前は客将という身分ゆえ、便宜も図ってもらえよう」


 マイナに手を引かれ、歩き出す。


 そうか、ユリネ王女は政略結婚で──。

 って、おいおいおいおい。


 手だ。女の子と手を繋いでいる。

 なぜだ、なぜこうなった。


 人間の女の子と手を繋ぐことに免疫のない俺は、異様に焦って興奮していた。

 俺の手を引き、前を歩くマイナの表情を伺い知る事はできないが、黒髪の隙間から覗く耳は、若干赤みを帯びているような気さえしたのである──。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ