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隣の部屋にはお姫様が住んでいる  作者: 満月すずめ
第一章・一学期

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「何故だか、世界で一人ぼっちになってしまった気がした」

 スマホに表示された数字は、バイトが終わった日からもう三日が経ったことを知らせていた。


 ベッドに寝転がってスマホを見つめる。何度見ても日付は変わらないし、時間は一秒ずつ刻まれていく。小さくため息をついて、深夜は身を起こした。


 あれから三日。本当に隣の部屋からは人気がなくなった。

 念の為にチャイムも鳴らしたが、誰も出て来ないどころか気配もしない。だとしたら、彼の言う通り実家に帰ったのだろう。


 一応姉にも言ったのだが、「そっかぁ」と何やら訳知り顔で頷くだけで、心配する妹をよそにあっけらかんとしたものだった。


 あの日聞いた話は、今も鮮明に思い出せる。

 中学時代の嫌な思い出が染みついた地元には帰りたくないと、そう言っていたのに。どこか裏切られたような、置いていかれたような気持ちでベッドに身を沈める。


 何もやることがない。

 課題はもうとっくに終わっているし、姉も出社しているから世話を焼く相手もいない。洗濯も掃除も済んだし、相川達の課題の手伝いも昨日までで一区切りしている。


 お昼過ぎの太陽は元気いっぱいで、外を歩く気にもならない。そういえば昼ご飯を食べていない。やる気もでないし、まぁいいかと寝返りを打った。

 普段なら今頃は隣に弁当箱を回収に行って、課題が残っていたら一緒にやって、晩ご飯と明日の朝ご飯の為の買い出しに行って、明日の予定を話しているはずだ。


 隣に直也がいる生活が、もう当たり前になっていた。

 居なくなって実感する。お弁当箱を洗わない日は、なんだか調子が出ない。


 勉強でもしなきゃと思うが、もう体を起こすのがだるい。昨日までは相川達と約束があったからまだマシだったのに、なんで今日に限ってなんにもないのか。


 スマホを見る。

 さっきから5分しか経っていない。

 日付は相変わらず、さっき見た時と何も変わっていない。


 二日くらい、と彼は言った。

 もう帰ってきているだろうか。


 バイト終わりの翌日からだから、今日で実家に戻って三日目になる。もう帰ってきていいはずだ。向こうで二日過ごすと考えれば、計算は合う。

 もしかしたら、今にも帰ってきているのかもしれない。

 ちょうど階段を上っているところかも。


 がばりと起きて、姉と似たラフな部屋着に薄いカーディガンだけ羽織って玄関から出る。

 誰もいない。


 階段まで早足で向かう。

 誰もいない。


 ため息をついて、とぼとぼと部屋に戻る。

 暑い。少しだけクラクラする。


 後ろ手に玄関を閉じて、息を吐く。

 何故だか、世界で一人ぼっちになってしまった気がした。


 着信音が鳴った。

 肩がびくりと震え、慌ててサンダルを脱いで自分の部屋に入る。

 ベッドの上に置き去りにされたスマホが着信を知らせるメロディを奏でながらぶるぶると震えてうごめいている。


 表示された名前は、『柏木直也』。

 通話ボタンを押して、耳に押し当てる。


『あぁ、急に悪いな。今大丈夫か?』

「うん、平気。どうしたの?」


 久しぶりに聞く直也の声に、何故かやたらと安堵する。

 ベッドに腰かけて、耳を澄ませた。


『あのさ、今日暇だったらでいいんだけど、』


 そう言って、言葉を呑み込む気配がする。


『いや、できれば時間とって欲しいんだけど。今日の夜は空いてる?』

「うん、空いてるよ」


 夕食を作る以外の用事はない。

 今日何もなくて良かった、と独りごちる。



『今日、夏祭りがあるだろ。一緒に行かないか?』



 一瞬、息を呑んで。


「うん」


 迷うことなく頷いた。


 待ち合わせの時間と場所を決めて、通話を切る。

 すぐに押し入れに飛びついて、どこかにしまったはずの浴衣を探し始めた。


 お小遣いの残りも確認しなくては。タイムリミットまであと数時間。


 時間の無さに焦りながら、深夜は着付けの仕方を必死に思い出していた。

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