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隣の部屋にはお姫様が住んでいる  作者: 満月すずめ
第一章・一学期

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26/44

「去年とは正反対の夏」

「うおりゃぁ~~っ!!」


 雄叫びを上げて目いっぱいに腕を伸ばしてダイブする西村。

 頭から砂浜に突っ込んだ彼の拳の先で、ビーチボールが地面にぶつかって跳ねた。


「はい、松田・原下チームのストレート勝ち」


 審判である相川がゲームセットを告げる。

 総当たり戦であるチーム対抗ビーチバレーにおいて、唯一男子のみで構成される西村・直也チームは見事に全敗した。


 彼らの名誉の為に言っておくと、別に運動音痴というわけではない。西村は卓球部だけあって反射神経は中々のものだし、直也とて体育の授業で周囲の邪魔にならない程度の活躍はできる。

 相手が悪いのだ。


 今戦った松田・原下チームはとにかく松田が強い。バリバリの運動部所属である松田は、西村によると中学ではそれは有名な選手だったそうで。バレーでもその身体能力を如何なく発揮してほぼ一人で二人を沈めた。

 相川・飯島チームは二人とも運動神経が良く、特に相川は松田相手にも引けを取らない。部活もしていないのに、とんでもない才能の持ち主である。


 残りの女子三人チームには深夜がいて、直也がほぼ役に立たなかった。西村もちょこちょこ深夜に見惚れていた為、役立たずが二匹コートにいるだけとなって敗北した。

 どうにもならない。これが宿命だったのだと思う他はなかった。


「あー……しんど……」


 滴る汗を拭って、直也はレジャーシートの上に座り込む。松田との身体能力の差がこれほどとは思わなかった。西村と二人がかりでさえ抑えられないとは。


「お疲れ様。飲む?」


 先に座っていた深夜にスポドリを差し出され、内心の動揺を悟られないよう受け取る。


「助かる」


 蓋を開けて煽るように飲み、大きく息を吐く。

 まだ海に入ってもいないのに全身が濡れている。今やっている一位決定戦が終わったらすぐ海に入ると決めた。ちなみに、対戦カードは松田・原下チーム対相川・飯島チームだ。一進一退の熾烈な攻防を繰り広げている。


「にしても、手も足も出なかったな」

「松田君、すごいね。バスケ部なんだっけ?」

「そう、中学の頃は有名な選手だったらしい。それと渡り合える相川も凄いが」

「そうだね」


 にこやかに頷く深夜の横顔を見ながら、もう一度ペットボトルを傾ける。

 朝陽の名を出したときの変な余韻は完全になくなっていた。いや、そう見せているだけかもしれないが、少なくともそういう素振りは一切ない。


 ペットボトルから口を離し、中の液体がちゅぽんと音を立てる。聞きたいことは幾つかある。けど、聞いてはいけないことだとも思う。

 海を楽しもうと決めたのに、そんなことを考えている自分に苦笑する。


「柏木くんも頑張ってたよ」

「最下位だけどな」


 直也の苦笑を何かと勘違いした深夜が慰めの言葉をかけてくる。

 何でもないように返せば、彼女は眉を寄せて微笑んだ。


「そーなんだよー! 最下位なんだよオレ達ぃ! 姫様、慰めてください!」

「えっ? あっ、西村君も頑張ってたと思うよ?」

「っかー、優しさが沁みるなぁ!」


 何故か拳をぐっと握りしめる友人に冷めた目を向けてしまう。

 女子に絡みたいのは分かるが、もう少しソフトにできないものか。


「はいはい、そこまでー。ミヤちゃんにあまり近づかないでくださーい」

「えぇっ!? なんで!?」

「目つきがやらしーんだよ西村くんって」

「そんなことないよ!? このつぶらな瞳を見て?」

「下心丸出しです! 失格!」


 びしりと人差し指を突きつけられ、ショックのあまり西村が砂浜に沈む。

 そのあまりの無様さに、指を突きつけた当の女子が笑っていた。


「西村くん、リアクション芸人みたい!」

「良く言われます!」

「ダメじゃん! はーもーお腹痛い。ていうかさー、松田くん応援しなくていいの?」

「あいつはオレの応援なんかなくても勝つさ!」


 何かいいこと言ってる風に見せて、女子と絡むのを優先しているだけである。

 あまりにも分かりやすいその態度に、またも女子が笑い転げた。


「えーでも沙穂(さほ)が負けるのヤダなー」

「あ、じゃあオレ相川さんの応援するよ!」


 沙穂、とは相川の名前である。直也も今日初めて知った。


「えーそれもヤダー。ミヤちゃん、沙穂の応援行こ?」

「はい」

「えぇっ!? なんで!? オレも連れてって!」


 手を繋いでビーチバレーの試合に向かう二人の後を西村がこけつまろびつついていく。

 直也はどうしようか迷ったものの、荷物番代わりにその場に残ることにした。


 スポドリを飲みながら、やいのやいのとビーチバレーを楽しむ友人達を眺める。西村の応援に相川が妙な顔をし、野次を飛ばされた松田がバカの顔にビーチボールをぶつけた。

 周りに促され、深夜も相川も応援する。タイミング良くスパイクが決まり、相川が深夜に向けて親指を立てた。


 遠目に見てもかっこいいその姿に笑みが漏れる。

 水着姿の深夜は相変わらず注目を集めているが、団体の効果か幸いにしてナンパされることは今のところない。

 夏空の下に相応しい光景に、直也も思わず空を仰いだ。


 暗く沈んだ去年の夏とは正反対の、明るく心が浮き立つ夏。

 たった一年でこんなに変わるなら、来年はどうなるのだろうか。

 その頃には、中学最後の夏を思い出すこともなくなっているのだろうか。


 熱気を孕んだ空気を吸って吐く。噴き出した汗が腕を伝ってシートに落ちた。

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