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第4話 冷徹公爵は、光を値切る

灯石店の見積もりには、金貨十八枚と書かれていた。


私は紙を裏返した。

裏には何も書かれていない。

表に戻しても、十八枚だった。


「星空を舞台全体へ投影するのですから、当然です」


店主が胸を張る。

灯石は魔力を蓄え、光にする道具だ。私にも小さな一つを点けることはできる。

けれど何百もの星を動かすとなると、技師と大きな術式が要る。


前世なら、安い照明器具と黒い板でできたことが、この世界では高価だった。

知っているやり方を、そのまま持ってくることはできない。


「二枚分しか、用意していません」

「それなら月を一つ。動かない月を」


私の劇場に、月が一つ昇るらしい。

台本の題名を『靴屋と月の王子』へ変えるべきだろうか。


「その見積もりには、常設の費用が入っている」


後ろから声がした。

黒い外套の男性が、店主の示した品を指している。


「この劇場は、稽古を含めて、ひと月だけ借りるのでは?」

「ですが、エインズ公爵閣下――」


私は、背筋を伸ばした。


ルーカス・エインズ公爵。

交渉の席では一度も笑わず、王都の商人が「冷徹公爵」と呼ぶ人。

二十八歳で広い領地を治める彼を、夜会で遠くから見たことがある。


「買う話は、していない」


短い言葉だった。

怒鳴り声でもないのに、店主は書類をめくった。


結局、二枚の金貨で借りられる灯石が四つ見つかった。

明るさは十分。ただし色を変えられるのは二つで、光を細かく分ける術糸は別途、自分たちで用意する。


トビ君は、袋の中を確かめて目を輝かせた。


「これなら、星を一つずつ増やせます!」

「先に、四つとも点くか調べましょう」


店を出てから、私は公爵へお礼を言った。


「あなたの領地でも、灯石をお使いですか?」

「坑道で。新しい設備を売りたい業者は、借用品の棚を見せたがらない」


なるほど、舞台の知識ではなかった。

私と違う場所で、同じ困りごとを知っている人だ。


「星灯座を開けると聞いた」

「まだ、開けられるかどうかを調べている途中です」

「見ても?」


見学を望まれるとは思わなかった。

私は彼の磨かれた靴を見て、それから劇場の埃を思い出した。


「作業中です。床が汚れています」

「靴は洗える」


公爵は、たいへん短い会話をする人だった。


劇場へ連れていくと、エダさんが彼の顔をじっと見た。

それから小さく頭を下げ、客席の扉を開ける。


公爵は最前列へ座らず、最後列に立った。

舞台の横幅を見て、天井の星飾りを見て、そのまましばらく動かなかった。


「ここを、ご存じなのですか」

「子供のころに」


それ以上は話さなかったので、私も尋ねなかった。

トビ君が灯石を点ける。

四つ目が点いた瞬間、一つ目が消えた。


「あれ」

「術糸を繋ぎすぎたな」


公爵が、舞台の下から言った。

トビ君はしゃがみ込み、糸の結び目をほどき始める。


私が知っている照明では、線は電気を運ぶ。

ここでは、術糸が光を導く。しかも、物を吊るほどの強さはない。

光る糸に飾りを吊ろうとしていた案へ、私は大きく取り消し線を引いた。


「劇場を開けたら、お席をご用意します」


帰ろうとする公爵へ、私は言った。


「お礼に、初公演へ」

「切符を買う」

「ですが――」

「客を増やしたいのだろう」


断られたのに、嬉しかった。


「では、良い芝居をご用意します」


公爵は、ほんの少しだけ口元を動かした。

笑ったのかどうか、判断するには短すぎる。


「楽しみにしている」


扉が閉まってから、トビ君が囁いた。


「監督。公爵って、芝居を見るんですね」

「私も、そう思っていました」


私は黒板へ、初めてお客様の数を書いた。


一人。


まだ切符を売ってもいないのに、その数字は、ずいぶん心強かった。

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