約束・その二
約束その一は人物の解像度が低くありました、すみません。
カチャカチャとコントローラーの音とスピーカーから出る小さなゲーム音が鳴るリビング。
家族との誕生日会が終わり、ソファーでくつろぐ形で凛香にもらったクッションを胸に抱くあたしと、その隣で胡坐をかいた凛香。あたしたちはテレビに映るゲーム画面にかじりついていた。
時計の針が十一時を回った頃、ママの声が背後から聞こえてきた。
「ママ寝るからね~、二人とも早く寝るようにねー」
「お!や!す!み!」
ママへの返事に合わせて、凛香の動かすキャラクターをコンボ技で画面外に吹き飛ばす。それと同時に試合終了を知らせる演出が出てきて、両手を掲げガッツポーズをする。
「シャー!」
「だあー」
同じソファーに座っている凛香の肩下まで伸びた癖のある麦色の髪が、うちと同様のシャンプーの匂いと一緒にふんわりと舞う。そして、凛香の体は危機を感じた亀のようにうずくまった。
「うーるーさーいー」
「ごめんなさい!」
リビング外からのママの指摘に反射的に謝る。隣からは「ううんううーう」と、唸るような籠った声がママへと謝意?を伝えていた。
早く寝なさいよと言い残してママは、リビングを去っていく。パタンと扉の閉まる音とともに、兄ちゃんもパパも居ない、あたしと凛香のみになった静かなリビング。お泊り会の本番が始まったと胸が躍り、気分が高揚していく。
「あたしのかちー」
亀の甲羅のように丸まった凛香の背に、煽り口調で投げかける。
「ううあいー」
凛香の低い籠もったその声に、その恰好に、どこのツボを押されたのかニヤニヤが止まらない。
「はいはい、もう一回やる?まあ、次もあたしが勝つけど」
そんなあたしの言葉にピクリと体を震わせ、凛香は体を凄い勢いで起こした。
「やる」
凛香の両手にはあたしが貸したコントローラーが掴まれている。
本当に負けず嫌いだな〜。凛香のそういうところが、あたしは好きだよ、アホで。
自前の切れ長のきつい目でテレビ画面に向かう凛香の真剣な横顔に、口角を抑えながら言う。
「いいよ、やろ」
瞬時にキャラクターが選ばれる。それを見てあたしもキャラクターを選ぶ。
時計の針とコントローラーのスティックをぐるぐると回す音が鳴る部屋に、音のない対戦相手のカットインが入った。その時、凛香の弱々しい声が聞こえてきた。
「……、ねえ紗代」
その声は、凛香からあまり聞かない声だからか、自然と意識が凛香のほうを向いた。
「この勝負でわたしが勝ったら、このまえ約束の誕生日プレゼント無くしていい?」
誕生日プレゼント?このクッションは違うのだろうか。ていうか、約束自体覚えがない。
いや、運が良かった。貰えるものはなんでも貰う。それがあたしのモットーだ。凛香、プレゼントが何かは知らないけど、ありがとう。
吊り上がった口角をそのままに言う。
「いいよ」
「本当!?」
もちろんと言いたいところだけど、凛香のやる気度合いを見ているとミスった気がしてしまう。ダメと言って、タダで貰ったほうが良かった?いや、勝てばいいだけ。凛香はこのゲームが弱い。
「紗代は高校、何か目標とかある?」
コントローラーを動かしながらの凛香の質問。それに気を取られて、一機失った。
「いきなりなにさ」
「いや、何となく。中学のようにボッチで居るのかなーと思って」
嫌味だろうか。凛香の何気ない言葉のような言い方に、コントローラーを持つ手に力が入る。
「わざと一人でいたわけじゃない。あんたはどうすんのさ」
「わたしは、─いつも通り、気ままにやるかな。たまにサボったり、たまにマジメにやったり。とか?」
「…そう」
カウンターのつもりで聞いたのだけど、あまりにもスラッと答えられて、少し驚いた。
「それで?紗代は」
「…………」
逃れられなかった。凛香も言ったんだしあたしも言うか。
「普通に女子高生やりたいな〜、友達とかつくってディズニーとか行ってみたり、できれば、彼氏とかつくりたい。いや、つくる」
断言する。一度の青春と言われるほどの大事な高校生活を謳歌したい。
「紗代にできるかな~」
ぽつりと落とされる、凛香のいつも通りの心外な言葉。それをあたしは予測していたし、待っていた。正直、言いそびれて遅くなったけれど。
「あたし、八方美人になるから」
「バカっぽ」
嘲笑の含まれた言葉にカチンときた。
「バカじゃないし!」
「それでも、無理でしょ紗代には」
「────っ!!」
はあーー!!何それ!イラつくんだけど!!
叫びかけ、親が降りてこないように慌てて口をチャックして押し殺す。口の中が少しかゆい。そんな感想が出る間もなくあたしのキャラクターが場外に落とされた。
「紗代、ちゃんとやらないと負けちゃうよ」
「危なかったー」
勝利したのはあたしだった。3ストック制とは良いものだ。三タテを喰らい、意気消沈した凛香の様子を笑いながら拝めるのだから。
コントローラーを膝に落とし、戦績画面をぼーっと見つめる凛香。それを横目で眺めるあたしの口は吊り上がる。
にしても、卑怯な手段を使ってまで取り消したがった約束とは何なんだろう。さて、さっそく貰うとしよう、二個目のプレゼントを。
ソファーの背もたれにクッションごと落ちるように身体を預ける。そして、凛香のほうに手のひらを上にして腕を伸ばす。
「あたしのかちだよ、ほら」
「……分かってる」
凛香は口をもごもごと動かし、正座し直して体ごとあたしのほうに向けてきた。そして、俯いた顔であたしの腕の上に片腕を乗せてきた。
「え?なに?」
腕?あ、思い出した。
「何って、わたしの血を──」
そこまでを言って凛香は、バッと顔を上げ、切れ長の目から覗かせる黒い瞳を丸くして、信じられないと言いたげに告げてきた。
「もしかして、忘れてた?」
「いや全く。覚えてたよ、当たり前じゃん」
図星をつかれ、凛香の言葉に被せてまくしたてる。病院の時は、次に飲まなければいけない血のことで頭がいっぱいで。だから、ノリに乗ってくれなかった凛香のこと以外は、うろ覚えだった。
先週の血液は、月曜の昼にシェイクアイスを混ぜて飲んだ。意外といけて、栄養剤より少しだけ安いし、これからもそれでいこうと思っていた。けど
「克服の機会だよ?忘れるわけないじゃん」
ひっこめそうな凛香の腕を強く掴む。瞬間、その腕がピクリとはねた。
「っ、なんか紗代、力、強くない」
「そう?ごめん」
いつもと同じ、力は全力なのだけど。
読んでくださりありがとうございます。
面白いと思ってくださったなら次も読んでもらえたらなと思います。
誤字脱字や分かりにくいとことがありましたらら、コメントで教えてれたらうれしいです。誉め言葉なら十倍うれしいです。
次は、約束・その三、です。




