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ブラックベイン―狂暴×悪辣―  作者: 平行月
第2章 夢蝶はそこにいるか
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第25話 ツバキと歌留多



「次」


 鷹宮の視線は、ツバキに移る。


 ツバキが壁際から肩をすくめた。


「私は戦闘向きじゃないわ」


 軽く言う。


「自分の影の縁から、別の影の縁に移動するだけ。それだけよ」


 一拍。


「使えない状況も多いし、制限もある」


 余計な説明はしない。そこで止める。


 恭介が顔を上げた。


「……ああ、見たな。倉庫で火の玉ヤローとやりあってるとき」


「嘘じゃねえと思う」


 ツバキがわずかに笑う。


「信用してくれて嬉しいわ」


 だが、その笑みはすぐに薄れる。


「だから、鷹宮さんに“安全は保証する”って言われた時は素直に従ったのよ」


 理屈は通る。自然な選択に見える。


 そして、わずかに首を傾げる。


「……試す?」


 軽い。まるで本当に“それだけ”の能力みたいに。


「次」


 鷹宮の視線が、海へ向く。


「お前も提示しろ、海」


 短い。


 海はわずかに肩をすくめた。白石の少し後ろから前へ出る。


「……僕ですか」


 一拍。


「大したものじゃないです」


 先に予防線を張る。


「背中から羽を生やして、少し飛べるだけの能力です。偵察用、ですね」


 言い方は軽い。


「……ほら」


 その背中に羽が生える。


 白い。半透明。霧に溶けるような質感。


 だが、それ以上のことは起きない。ただ、それだけ。


 鷹宮が短く頷いた。


「情報収集には重宝している」


 評価は簡潔だった。それ以上は踏み込まない。


 レンがわずかに目を細める。


(……やけに簡潔だな)


 説明が薄い。だが、不自然ではない。“弱い能力”としては筋が通っている。


 恭介が口を開く。


「それ、食えるのか?」


 歌留多が続く。


「掴めるのか?」


 方向が違う。


 海が慌てて一歩下がる。


「やめてくださいよ!」


 声が少しだけ上ずる。


「普通に怪我しますって!」


 三人を無視して、その横に鷹宮が視線を向ける。


「副隊長」


 短い呼びかけだった。


 副隊長が前に出る。姿勢は崩さない。


「……分岐夢です」


 一拍。


「未来の“結果”を、夢として観測します」


 簡潔だった。それ以上は言わない。


 恭介が眉をひそめる。


「未来が見えるってことか?」


「違うよ」


 副隊長が即座に否定する。


「過程は見えないし、原因も分からないんだ。見えるのは、あくまで“結果”だけ」


「しかも一つしか。夢を見る前にテーマを決めて、ね」


 そこまで言って止める。


 レンがわずかに目を細める。


(随分便利そうだな……)


 嫌なタイプの能力だと口走りそうになる。


 副隊長はそれ以上説明しなかった。あとは解釈に任せる、とでも言いたげに。


 鷹宮が頷く。


「十分だ」


 それだけで終わる。


 レンが口を開いた。


「……じゃあさ」


 一歩踏み込む。


「それ、使えば犯人分かるんじゃねえのか?」


 当然の疑問だった。


 副隊長は即答しない。一拍置いてから言う。


「……使う」


 短い。


「だが場所は変える」


 鷹宮が引き取る。


「貴様らは信用していない」


 はっきりと言う。


「発動中は無防備になる。ゆえに、管理下で行う」


 合理的だった。隙はない。


 レンはさらに踏み込む。


「じゃあ今回のこれ」


 死体を指す。


「予知できなかったのか?」


 一瞬、空気が止まる。


 副隊長が答える。


「できない」


 即答だった。


「さっきも言ったけど、分岐夢は事前に“問い”を設定する必要がある。一つだけだ」


 そこが制限。


 さらに続ける。


「今回は、全員使用済みだ」


 淡々としている。だが、内容は重い。


「戦闘前に」


 鷹宮が補足する。


「最適行動の選択に使った」


 副隊長が続ける。


「戦闘用の運用が基本だ」


 ここで具体に落とす。


「不知火は戦闘に使用した。対象の選択に」


 一拍。


「恭介か、歌留多か」


 レンの目が動く。


 さらに続く。


「そして隊長は、別件で使用済みだよ」


 鷹宮は否定しない。


「昼の時点でな」


 静かに言う。


「未知の能力者に対する勝算を取った」


 恭介を見る。


「……お前だ」


 恭介が顔をしかめる。


「はあ!?」


 副隊長は続ける。


「白石と海は回避に使用。戦闘を避けるための選択に」


 そこで止める。


 レンが小さく舌打ちする。


「……つまり、今は使えねえってことか」


「そうだ」


 副隊長は頷く。


「現時点ではな」


 だが、一拍置いて続けた。


「次は使う。そのために、場所を変えるということだ」


 視線が動く。


「ツバキ。お前は同行しろ」


ツバキが目を細める。


「……私?」


「出入り能力を持つ。閉鎖された場所で、もっとも監視の優先度が高い」


 鷹宮の視線が、歌留多へ移った。


「それに、お前たち二人を同じ場所へ置く理由もない」


 歌留多が、わずかに目を細める。


「分断か?」


「監視だ」


「同じだろ」


「ならば、そう受け取れ」


 鷹宮は次にレンを見た。


「レン。お前はここに残れ」


「俺が?」


「同じWFAの人間だ。外部の者だけに監視を任せるつもりはない。恭介、紗希、歌留多。この三人を離すな」


 レンは舌打ちした。


「……面倒な役を押しつけやがって」


「適任だ」


 そして鷹宮は、歌留多を見る。


「そう構えるな、歌留多。安心しろ。命の保証はする」


 一拍。


「余計な真似をしなければな」


 ツバキが息を吐く。


「いいわ。行く」


 歌留多の視線が動く。ビー玉のような瞳で、鷹宮をじっと見る。


「ツバキに何かあったら」


 一拍。


「……その先は、言わなくても分かるよな?」


 静かな声だった。だが、重い。


「問題は起こさせない」


 鷹宮はそれだけ答える。


 配置は決まった。


 分断は完了した。


 全員が、それぞれの位置へ向かう。


 その配置は合理的だった。正しかった。誰もが、そう思っていた。


 だから――


 誰も疑わなかった。


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