第23話 犯人はこの中にいる
沈黙が一瞬だけ落ちる。
鷹宮が口を開いた。
「……条件型か」
短く断定する。
白石が静かな声で続けた。
「環境は一致しています」
「高温の水蒸気」
「吸入経路」
「再現性あり」
言葉が揃う。
鷹宮は頷いた。
「任意発動ではない」
「特定条件を満たしたときのみ発動する能力」
紗希は何も言わない。
否定はしない。
だが、同意もしない。
鷹宮は続ける。
「この霧自体が、発動条件の一部」
「もしくは、発動環境」
レンが眉をひそめた。
「……それだと」
低く言う。
「さっき俺らが無事だった説明がつかねえ」
鷹宮は即答する。
「条件が揃っていないだけだ」
切り捨てる。
議論にはしない。
必要がない。
そして、核心へ入る。
「外部からの干渉では成立しない」
一拍。
「この環境は閉じている」
視線が全員をなぞる。
「外から一方的に発動して終わる構造ではない」
ならば。
「内部だ」
空気が一段、重くなる。
言葉は落ちた。
確定したかのように。
「この中に、この現象を成立させられる能力者がいる」
レンが小さく舌打ちする。
「……決めつけ早すぎだろ」
鷹宮は視線すら向けない。
「論理の話をしている」
「感情ではない」
冷たい。
だが、筋は通っている。
白石が補足する。
「死体の状態が一致しています」
「別ルートで確認した遺体も同様です」
ここで初めて共有される。
レンが顔を上げた。
「……別ルート?」
鷹宮が答える。
「五体」
一拍。
「同じ状態の死体を確認している」
空気が凍る。
単発ではない。
再現。
それだけで意味が変わる。
「……マジかよ」
レンの声が低くなる。
紗希もわずかに視線を落とす。
だが、そこで止まる。
まだ結論は出さない。
鷹宮は続ける。
「ここ最近の行方不明事件を追っていた調査班の人間も含まれていた」
情報が積み上がる。
逃げ場はない。
「つまり」
一拍。
「発生には、条件か選別がある」
その言葉に。
ほんの一瞬だけ、紗希の眉が動く。
だが、何も言わない。
鷹宮は結論へ進む。
「この場にいる中で」
「その条件に近い存在」
視線が動く。
ゆっくりと。
意図的に。
そして。
止まる。
ツバキ。
歌留多。
その二人に。
「可能性としては十分だ」
断定ではない。
だが、外しもしない。
空気が張り詰める。
ツバキが先に反応した。
「……は?」
声が低い。
「言ってる意味、分かってんの?」
「分かっている」
鷹宮は動じない。
「だから“可能性”と言っている」
「現時点で排除できない」
冷静だ。
だからこそ、逃げ場がない。
歌留多は、ただ見ている。
面白そうに。
「へえ」
軽く言う。
「私がやったってことか?」
「ならば、こちらが疑いを外せるだけの材料を示せ」
即答。
間がない。
歌留多が笑う。
「無茶言うなよ」
だが否定もしない。
遊んでいる。
それが、余計に疑念を強める。
ツバキが低く吐き捨てた。
「歌留多、こういう時くらい黙ってなさいよ」
「む。怒るところだったか」
「当たり前でしょ」
レンが一歩前に出る。
「待てよ」
苛立ちが混じる。
「こいつらだけじゃねえだろ」
「俺らもいた」
「全員だ」
鷹宮が返す。
「だから“この中にいる”と言っている」
誰も容疑から外さない。
ただ、その中で優先順位をつけているだけだった。
白石が、わずかに眉を寄せる。
「ただ、まだ決め打ちは危険です」
「分かっている」
鷹宮は短く返した。
「優先監視対象だ」
その中で、紗希が口を開く。
「それは違います」
はっきりと言う。
鷹宮の視線が向く。
「能力では説明できません」
「現象としてズレています」
鷹宮は一拍だけ黙る。
「では何だ」
問いは鋭い。
紗希は逃げない。
「現時点では仮説です」
正直に言う。
「ですが」
一歩だけ踏み込む。
「選別ではないと思います」
「条件に反応して、起きているだけです」
鷹宮の目が細くなる。
「同じことだ」
「違います」
即答。
「“選んでいる”のではなく、“起きている”だけです」
空気が揺れる。
理屈は通っている。
だが、噛み合わない。
前提が違う。
鷹宮は結論を動かさない。
「現時点での判断は変えない」
それで終わる。
議論は打ち切られる。
そして。
「単独行動は禁止だ」
命令が落ちる。
「全員、互いの視界内で行動」
「行動は報告制」
拘束ではない。
だが、自由はない。
完全な管理下。
ツバキが舌打ちする。
「……はあ、最悪」
歌留多は肩をすくめる。
「面白くなってきたな」
「歌留多」
「……う。怒るところだったか」
レンは何も言わない。
ただ、視線だけを動かす。
霧。
死体。
鷹宮。
そして。
見えない何か。
恭介が小さく吐き捨てる。
「チッ……面倒くせえ」
苛立ちはある。
だが、従う。
紗希が横にいる以上、今ここで余計な火種を増やす気はなかった。
紗希は、もう一度だけ死体を見る。
重なり。
ズレ。
確かにそこにある。
だが。
まだ言葉にはならない。
霧は、変わらずそこにある。
誰も理解していないまま。
だが。
確実に、全員を巻き込んでいる。




