第96話 第一次アフラ会戦2
sideトール
両軍が対峙する中間地点からややイスタン・イスファ軍よりの上空約200m。
そこではトールがティナとともに土魔法『重力低減』を使用し、ホバリングをしていた。
「トールより全軍へ。敵中央部隊騎兵が乗馬の上前進中。突撃態勢に入ろうとしているものと想定される。さあ、始めるぞ」
トールが使用しているのは魔力式トランシーバー。トールの他に中隊長以上が保有している。
「中央軍特殊部隊、全速前進の上、敵騎兵隊に対して射撃攻撃を実施せよ」
魔力量が多く『身体強化』が長時間使える者を選抜した特殊部隊。
通常の歩兵が完全武装で100mを走破するのに20秒ほどかかるところを、
150mを10秒弱で走破、150m先の敵騎兵に対して対峙した。
手にする武器は単発ボルトアクションライフル銃。通称「ムラタ銃」。
約10年をかけて試作・破損・改良を繰り返し量産化に成功。
イスタン・イスファ軍の標準装備となっている。
有効射程300m以上を誇るムラタ銃から150m先の敵騎兵隊に一斉射撃!
「狙い通り敵騎兵は混乱中、このまま放置する。中央軍主力部隊は前進し敵歩兵部隊を射撃攻撃せよ。
特殊部隊へ。1時方向から敵歩兵300程度が前進中。敵魔術部隊ならびにその護衛歩兵と想定される。
当該部隊に射撃攻撃を加えこれを撃滅せよ。この部隊を残して置くと後々やっかいだ」
「右翼軍からトールへ。初撃で敵歩兵に有効打を加えたものの、その後、敵は匍匐。有効な攻撃を加えることが困難」
「了解、こちらでも視認した。右翼軍はそのまま戦線を維持せよ。無理な攻撃を行うな。弾薬の消費を抑えよ」
「中央軍からトールへ。敵騎兵隊は後退した。敵歩兵に攻撃を加えるも有効攻撃ができず。こちらの敵歩兵も匍匐している」
「了解。別途指示があるまで戦線を維持せよ」
「思ったよりもしぶといですね」とティナ。
「ああ、どうするかな」
「案1 現状を維持し敵の動きを待つ。案2 味方左翼軍が前進し、敵右翼軍に攻撃を加える。案3 中央軍が特殊部隊を中核にして、突撃を実施。
案2と案3のハイブリッドが妥当かと思います」
「それしかないか---しかし特殊部隊の被害がなあ」
「兵の指揮を執る際、味方の被害を考えてはいけない。以前トールお兄様から
教えられた言葉ですが---」
「ああ、『損害を恐れて決断を遅らせることは、最大の害悪である』というやつだな。ティナありがとう。
各部隊に命令する!中央軍は特殊部隊を中核にし、敵部隊に突撃せよ。
左翼部隊は前進し敵右翼軍に攻撃を加えよ!」
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11:40 帝国中央軍歩兵部隊
「味方右翼が後退しています!本営も後退している模様!!」
「本営からの伝令は!?」
「ありません!しかし、このままでは我が部隊は孤立します!何らかの事故で
伝令が到着していないのでは!?」
「---やむを得ん、我が部隊も後退する!第一中隊はしんがり、他部隊は後退せよ」
「敵中央軍急速接近中!敵の全面攻撃です!!」
「くっ!このタイミングで!!」
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11:50 帝国軍本営
「敵中央軍、中央防御線を突破!味方中央軍歩兵部隊は潰走状態!!」
「味方右翼軍、敵の追尾攻撃を受け苦戦中!」
報告を受けたパトキン将軍は数秒間沈黙の後、命令を発した。
「再集結地を変更する。ここより後方5km地点を再集結地とする」
「将軍!そこまで引くと一気に崩れます!!比較的健全な右翼軍を中核とし、現地点で防衛線を構築すべきです!!」
「---だめだ、中央が破られている。後方5kmまで後退せよ!」
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sideトール
「全軍へ、敵中央軍が崩れた。中央軍特殊部隊は敵右翼部隊の右側に回り込み
横撃を加えろ!中央軍本隊は敵中央軍を追撃!!左翼軍は特殊部隊横撃と同時に突撃せよ!一気に勝負を決める!!」
「右翼軍からトールへ!彼我の距離50m!敵は遺体を盾にして前進を続けている!こちらの士気が持たない!!」
「了解!すぐに応援に向かう。後10分、いや、5分持たせろ!!」
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12:00 帝国左翼軍
「左翼軍全軍へ!よくここまで耐えた!!これより突撃に移る! 天国で美女と美酒が待っているぞ!」
兵が歓声を上げる。
「全軍突撃!!神は偉大なり!!」
「「「神は偉大なり!!!」」」
喊声とともに兵が立ち上がり、駆け出した次の瞬間、青い炎が辺りを襲った。
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同時刻 イスタン・イスファ右翼軍
「あと5分耐えろ!援軍が向かっているぞ!!」
下級指揮官たちが声を枯らして、兵を鼓舞する。
しかしながら効果はなし。
敵は、僅かな窪地を見つけると、そこに遺体を土嚢のように積み上げ陣地を構築。さらに次の窪地に向けて匍匐前進、新たな犠牲者を積み上げ陣地を構築。
なかには自ら遺体の上に覆い被さり、自らの身を土嚢代わりにする兵もいた。
その狂気じみた、いや、狂気そのものの敵を見た兵は完全に浮き足立っていた。
「敵、突撃態勢に移る模様!!」
敵兵が喊声を上げながら立ち上がり、こちらに駆け出した。
これは持たない、兵が逃げ出す!と指揮官が思った次の瞬間、青い炎が敵の右側面に直撃、敵兵が数秒、ほんの数秒動きを止めた。
その数秒で十分だった。
「青炎だ!クレア様だ、『炎の聖女』様だ!!」
「聖女様が俺たちを助けに来てくれたぞ」
さらに赤い炎が敵を襲う。
「『風の聖女』様もおられるぞ!」
「野郎ども!聖女様が見ているぞ!無様な姿を晒すな!!」
「訓練どおりだ!訓練どおりに撃て!勝てるぞ!!」
イスタン・イスファ軍の士気は完全に回復した。
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同時刻 帝国左翼軍
「敵、火魔術による攻撃!3時方向からか!?」
「構うな!全軍、正面に突撃!!神は偉大なり!!」
「「「神は偉大なり!!!」」
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帝国軍の突撃は及ばなかった。あと、5m、及ばなかった。
アレクセイ・ニコラエヴィチ・クロパトキンさんの得意技:後退
パトキンさんの得意技も後退です。




