第94話 ロマ帝国 作戦要綱
作戦要綱
1.戦略目的
バルト王国イスタン・イスファ領を軍事的・経済的に制圧し、講和条件を通じて帝国の影響下に置く。
2.敵情評価
①イスタン・イスファ領軍の兵力は4,000と見積もる。上記兵力は歩兵部隊を主力とし、騎兵ならびに弓兵は僅少である。
ただし、1個中隊程度の魔術兵が存在することに注意が必要。
②シバス辺境伯軍兵力数は5,000(寄子領軍を含む)。
ただし、寄子領軍の即応性は低いと考えられることから、本作戦に影響する辺境伯軍は3,000程度になると想定される。
③王国軍15,000(諸侯軍を含む)
ただし、諸侯軍の即応性は低いと考えられることから、本作戦に影響する王国軍は6,000程度になると想定される。
3.同盟軍評価
タブリ伯領軍5,000
内訳は常備兵1,000、予備兵3,000、傭兵1,000であり、練度・士気とも 高いものではないと想定される。
4.帝国軍動員兵力(案)
総動員数15,000
内訳:重騎兵 500、軽騎兵 500、歩兵14,000(魔術兵100を含む)
5.作戦構想
(1)第一戦線(主攻)
帝国軍10,000をもってエリコ(イスファ北山脈トンネル南入口)を占拠、トンネル封鎖を行う。
その後、イスファ領都イスファを占領する。
なお、エリコ占拠に至るまでの間に、敵軍との会戦があると想定する。
会戦地点はアフラ平原と想定し、敵勢力は、イスタン・イスファ軍4,000、辺境伯軍3,000 計7,000程度と想定する。
(2)第二戦線(防御)
タブリ伯爵領に侵攻すると想定される王国軍に対してはタブリ伯爵軍5,000と帝国軍歩兵5,000が防御する。
6.イスファ占拠後の戦略
イスタン・イスファ間の交通ルートであるイスファ北山脈トンネルの封鎖を継続し、イスタンを経済封鎖する。
これにより、食糧不足となったイスタンから講和の申し出があるものと想定し、その際には帝国の軍事的優位と交通路支配を講和条件に組み込み、イスタン・イスファ領を帝国の影響下に置く。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「以上が作戦要綱となります」
ロマ帝国皇帝会議室で、パトキン将軍のプレゼンが終了した。
「当方戦力が過大すぎるのではないか」と宰相。
「辺境伯軍と王国軍は参戦の兆しなし、との報告を受けているが」
「確かに辺境伯寄子ならびに王国諸侯軍が参戦する可能性は少ないでしょう。
しかしながら辺境伯軍本隊と王国軍本隊については、参戦する可能性が否定できません。そうである以上、それに備えた編成とするのが当然と考えます」
「それでもだ。騎兵ならびに魔術兵を動員するのであれば、第一戦線でそれほどの兵数は必要ないのではないか」
「確かに騎兵、魔術兵を考慮すれば質は我が軍が圧倒するでしょう。しかしながら 数はほぼ同数。兵数を減らすわけにはいきません」
さらにパトキン将軍は続けて、
「戦いは数だよ、あに---」
「軍務卿、この兵力を動員するのは可能なのか」
何故か、あわてて将軍の言葉を遮るかのように軍務卿に問いかける宰相。
「---動員可能です」
軍務卿は苦虫をかみつぶすような表情で答えた。
軍務卿をはじめとする軍首脳は、パトキン将軍が常に過大な戦力を要求することに、以前から強い不満を抱いていた。
「無敗の将軍というが、あれだけの戦力を与えられれば負けるほうが難しい」
「あれだけ臆病な軍人は帝国軍史上で初めて」
そのような陰口を言われており、その陰口はパトキン将軍の耳にも入っていたが、
「戦端が開かれる前に、勝利を確定しておかねばならない。それが将のなすべきことである」
「不安材料を把握し、その対応を行うことが臆病というのであれば、臆病の何が悪い。これを行わない者は単に蛮勇であるだけだ」
と、全く意に介することはない。
また、パトキン将軍はある一点において非凡な才能を持っていた。それは「どれだけの兵力を動員することが可能であるか」を正しく把握することができるという才能である。
軍首脳はパトキン将軍が要求する兵力を与えざるを得なくなり、パトキン将軍はその兵力をもって「負けるのが難しい」戦いを行ってきた。
「大変僭越ですが」と外務卿。
「戦のことは軍部におまかせするべきであることは重々承知してりますが、
主攻である第一戦線にタブリ伯爵軍が不在となれば、後々問題になろうかと。
名目上、この戦いはあくまでもタブリ伯爵領とイスタン・イスファ領の内戦
ということになっておりますので」
「第一戦線にタブリ伯爵軍を使うつもりはない。そのような不安要素を戦場に
持ち込むのは危険だ」
「しかし---」
「とはいえ、外交上の都合もあるだろう。どうだろう、外務卿、タブリ伯爵に
供回り---1個小隊程度の兵を率いさせ、本営付近に置いておくというのはどうだ。当然、タブリ伯爵家の旗印は掲げていただく」
「旗印が掲げられるというのであれば否はありません。後はこちらがいかようにでも」
「他に意見はないか、ないな。では皇帝陛下よろしいでしょうか」
「うむ、そうせい」




