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2度目の転生に関する報告書  作者: トール
第四章 ロマ帝国との戦い

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92/124

第92話 タブリ伯爵の決断

最終章の第1話です

スタンピートから4年後 王歴28年9月 

タブリ伯爵領都タブリ 伯爵家会議室


「それではイスタン子爵からの回答を聞こうか」

タヒテ・タブリ伯爵が渉外担当の家臣に問う。

「はい。先ず、密輸の取り締まりについて。

 我が領に対するイスタン領から毛織物製品の密輸、ならびにイスファ領からの小麦の密輸が急増していることに対して厳重に抗議をし、密輸取締を要請しましたが、

 『当方は領内での販売を行っているだけ。貴領に密輸をしているのは貴領の商人であり当方が取締を行うことは不可能』

との回答でした」


現在、タブリ伯爵領は、イスタン・イスファ統合領に対して小麦は50%、毛織物に至っては300%の関税をかけている。これにより、統合領からタブリ伯爵領に対する正規ルートでの輸入はほぼゼロとなっているが、そのかわりに密輸品が急増している状況にある。


「次に当領からイスタン領・イスファ領への住民の流出について。

 これについても厳重に抗議の上、当領からの住民受入れを即時に中止するよう要請しましたが、

 『当方は冒険者ギルドに対して人員斡旋の依頼を行っているだけ。本件は、

 当方と冒険者ギルド間の問題であり、貴家が関与する問題ではない』

旨の回答でした」


「つまりは両案件とも完全に拒否ということだな」と伯爵。

「はい、残念ながら。さらにイスタン子爵からは関税の完全撤廃ならびに住民移動の完全自由化を求められました。

イスタン子爵は『比較優位』という論の主張をしていまして---」


小麦生産と毛織物生産では、絶対優位、すなわち単純な生産力の優劣では、どちらもイスタン領がイスファ領を上回っていた。しかしながら、小麦生産はイスファ領にとって「相対的にマシな分野」であることから、小麦生産はイスファ領が、毛織物生産はイスタン領が担うこととした。

その結果、各領が相対的に得意な分野へ生産を集中させたことで、統合領全体での総生産量が増えた、という論である。


「イスタン子爵はこの論に基づき、関税の完全撤廃ならびに住民移動の完全自由化、これを自由貿易と言っておりましたが、この自由貿易を寄子を含めた辺境伯領のみならず、王国全体に取り入れ、王国全体の総生産量を増加させるべきであると主張しております」

「辺境伯は自由貿易を了承したのか」

「はい。そもそも辺境伯領と寄子領との税率は従来から極めて低く。特に小麦は、ほぼ税率ゼロでしたので抵抗もなく」

「馬鹿なことをする。時代は変わったのだ。あの、『蒸気機関車』によってな」


昨年の王歴27年にイスタン・イスファ間の鉄道が開通した。これにより両領の物的・人的移動が、以前と比較して飛躍的に伸びた。そして現在はイスファと辺境伯領都であるシバスとの間での鉄道敷設を計画中である。


「鉄道がなければ、距離が障壁になっていた。馬車で運ぶのであれば時間もかかるし量も知れている。だが、鉄道を使うとそうではなくなる」


つまり、これまでは距離と時間が非関税障壁として機能していたが、鉄道によってその障壁が急速に低くなる、ということだ。

「そうなると、辺境伯領の産業が壊滅する。安い製品がなだれ込んでくるからな」

「ですが、イスファから当領まで鉄道は通じていませんが」

「イスファから当領まで馬車で5日。それにも関わらず小麦は30%、毛織物は300%の関税をかけて、ようやく当領の商品と同等の価格になる。それだけイスタン・イスファ領の生産力が優れているということだ。自由貿易にしたならば、あっという間に当領の産業が壊滅して、経済的に従属することになるぞ」

「ですが---このままではじり貧です」と家宰。

「そのとおりだ。関税障壁を設けている間に、産業を育成する必要があるのだが---残念ながら上手くいっていない」

「申し訳ございません。あの『農法工(ノーホーク)』という方法を当領で導入しようとしたのですが、農民たちの抵抗が思ったより激しく」と産業担当官。


タブリ領の農法は三圃制。土地の1/3が小麦生産に使用できる。

対してノーホーク方式では、土地の1/4しか小麦生産に使用できない。そのため農民たちは、作付け面積が減るにもかかわらず小麦生産量が増加するという説明を信じることができない。


「また、じゃがいもの生産は『悪魔の植物』といって忌諱されております」

「農業分野での育成は難しいな。毛織物産業はどうだ?」

「はい、イスタン領の方式をまねて家庭内ではなく工房で毛織物を生産することにより毛織物の生産量は大幅に増加したのですが---イスタン領の自動紡績機と自動織機はまねをすることができず。生産量の差は拡大する一方です」

「さらに鉄の大量生産と蒸気機関か。これは勝負にならんな」

「それでは---彼らの配下に入ることとするのですか」

「冗談じゃない。たかが子爵の配下になるなど。しかもあのトールという人物は孤児院出身、一説によると開拓村の農民の子だというではないか。そのような者の下につくなど考えられぬ」


しばらくの沈黙の後、伯爵は問う。

「軍団長、イスタン・イスファ領の兵力は?」

「はっ、常備兵1,000、予備兵2,000の計3,000程度かと考えられます」

「我が領の兵力5,000であれば勝てるか」

「申し上げにくいのですが、勝てません。我が軍5,000の内訳は常備兵1,000、予備兵3,000、傭兵1,000。

 傭兵1,000については、正直、信用できません。奴らは少しでも戦況が苦しくなると逃げ出す」

「それでも我が軍の数が上回っているではないか」と家宰。

「攻めるには守る軍勢の3倍の数が必要です。奴らが我が領に攻め込んできたのであれば撃退して見せましょう。しかしながら奴らの領に攻め込むとなると兵力が足りません。

 それに---奴らの魔術隊と三聖女の存在、さらにはドラゴンバスターであるイスタン子爵をあなどってはなりません」


再びの沈黙。

「やはり---ロマ帝国の力を借りるしかないか」と伯爵。

「伯爵様、それはあまりにも危険です!」と軍団長。

「ロマの力を借りれば、国王と辺境伯が黙っているはずがありません。特に辺境伯は必ずやイスタン・イスファ軍に援軍を出すでしょう。場合によっては王国軍とも敵対する恐れがあります。それに---」と軍団長が続ける。

「ロマの力を借りることによる影響が計り知れません。下手をすると当領が、いや、当領のみならずバルト王国がロマ帝国の支配下に入ることになる可能性が---」


「時間の問題なのだよ。バルト王国がロマ帝国の支配下におかれることは」

「伯爵様!!」

「今、ロマ帝国はカタゴ諸国と戦闘中だ。カタゴ諸国軍は善戦しているが地力が違いすぎる。

 あと10年、いや5年もすればカタゴ諸国が降伏することになる。

 そうなると次はバルト王国の番だ。バルト王国の力ではロマ帝国には勝てぬ」

「---」

「地理的にロマ帝国が最初に攻め込んでくるのは我が領だ。我が領は---壊滅する」

「しかし---」

「幸いにもロマ帝国は降伏した者には寛容だ。特にロマ教徒に対してはな」

「---」

「であれば、我が領は積極的にロマの側に立つべきだ。それが我が領、我が領民を守る唯一の方法だ。違うか?」

「---」

「我がタブリ伯爵家は、ロマ帝国に軍事的支援を求める。同時に、辺境伯ならびに王国に対する工作を行い、イスタン・イスファへの援軍派遣を阻止する。よいか、これは決定事項だ」

「---御意」


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