第91話 王歴24年スタンピート3
トールは歓声に応えることはなく、笑顔を向けることもなく、能面のような無表情で前を見つめるだけであった。
それに気づいた兵たちが歓声を静めた時、
「第一大隊総員!出撃!スタンピート残党を排除しつつ負傷者の収容を行う!急げ!!」
「魔術親衛隊!辺境伯軍第一大隊を援護する!出撃!!」
ロト大隊長とテトス親衛隊長の命令が飛ぶ。
トールは無表情で前方を見つめたまま。統合領軍魔術小隊に指示を出すこともしない。
「トール様?」
「トールお兄様?」
異変に気がついたクレアとティナが呼びかけるが反応せず。
「トール様!」「トールお兄様!!」
妙な胸騒ぎを感じたユメがトールたちのもとに駆けつけた時、クレアとティナがトールに呼びかけているところであった。
トールは無表情のまま。呼びかけに応えていない。
「おにいちゃん!」
トールの腕に抱きつくユメ。体が震えている?あ、これはそういうことね。それなら、戻す方法はひとつ。
ユメはトールの耳元で囁いた。
「おにいちゃん、おっぱい揉む?」
「---もむ」
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死ぬところだった。いや、あれは確実に死んでいた。
僕が対物ライフルで狙ったのはドラゴンの胸部。
狙いはずれ、弾丸はドラゴンの口腔内に命中した。ブレスを放とうとして口を開けた、その瞬間だった。その直後に、ドラゴンの頭部がはじけ飛んだ。おそらくは対物ライフル弾命中によりブレスが中途半端にキャンセルされ、ドラゴン口腔内で爆発したのだろう。
完全なまでの、まぐれだった。
もしも命中していなかったらば、あのブレスを浴びていた。絶対に死ぬ。それも姉上とティナを巻き込んで。
いや、狙い通りに胸部に命中したとしても、ブレスを阻止できたかどうかはわからない。
僕は恐慌状態に陥っていた。ただ、この場で泣き叫ぶのはまずいという意識だけはあり、その場に立ちすくんでいた。
体の震えが治まらない。
その時、僕の左腕にやわらかいものが押しつけられた。混濁していた意識が、ほんのわずかに現実へ引き戻される。むっ、この感覚は---。
「おにいちゃん、おっぱい揉む?」
「・・・もむ」
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王国軍魔術親衛隊長執務室。
応接ソファでトールは、エステリ特別顧問とテトス親衛隊長と向かい合っていた。
「ご心配をおかけしました、特別顧問殿、親衛隊長殿」
トールはその後、特別医療室(個室)に入室。かなりの時間が経過した後に回復した。
「心配したぞ、子爵殿。やはり、魔力欠乏症だったのか」と特別顧問。
「まあ、そんなところです。今はすっかり回復しました」
「それは重畳。それにしてもすさまじい威力の攻撃だったな、ドラゴンの頭部を粉砕するとは。あの攻撃は一体どのような---」
「---まぐれです」
「そのように謙遜せずとも良い。あの時に使用した魔道具は一体どのような---」
「まぐれです」
「---我らに対してもあの魔術は明かせないということか」
「いえ、そのようなことは」
「仕方あるまい。子爵殿ほどの者が一度発動しただけで魔力切れを起こすほどの大魔術。それを秘匿するのは当然のこと」
「---」
「イスタン卿、折り入ってお願いが」と親衛隊長がトールに言う。
「卿の大魔術について知ろうとは思いません。知ったところで魔力不足で発動できないでしょうから。
しかしながら、『ふたりがけ 青』については、是非とも習得させていただきたい。バルト王国のために」
親衛隊長が恐れていること。それは王国軍と辺境伯軍のパワーバランスが崩れることだ。
現在のバランスとしては王国魔術親衛隊の存在もあり、やや王国軍優勢となっている。
それが、仮に辺境伯軍が魔術部隊を組織し、『ふたりがけ 青』を習得した場合、辺境伯軍のパワーが国軍を勝る可能性がある。
そうなった場合、何らかの政治的な動きがあるかもしれない。
「承知しました、親衛隊長殿。全面的に協力させていただきます」
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同じ頃、イスタン子爵休憩室。クレア、ティナ、ユメの3人。
「納得できない」不満を述べるクレア。
ドラゴン撃破直後、ティナは統合領軍魔術小隊を率いて辺境伯軍第一大隊を支援。
本来ならクレアが担う役割だった。しかしトールの異変に激しく動揺した彼女は、小隊を指揮できる状態ではなく、代わりにティナがその役割を引き受けた。ユメはドラゴンプレスによる負傷者を治療するべく衛生隊に合流。
残ったクレアが特別医療室でトールのケアを行った。
トールとクレアが特別治療室に入室する直前、ユメがクレアにおっぱ---体の一部を、もま---接触させるよう指示、クレアはその指示どおりの行動をトールに行わせたがトールの異常は治まらず。
負傷者の治療が一段落し、トールの様子を見に来たユメのおっぱ---体の一部を接触したことにより異常状態から立ち直ることができた。
「納得できない。私だってないわけではないんだ」
「うん、まあ---いいんじゃないんですか、可愛くて」
ティナがクレアを慰めている。本当に慰めになっているのか。
「可愛いとか言うな!そもそもユメがおかしいのだ。どうしたらそんなに大きくなるんだ」
「気合い」
「は?」
「気合いで大きくした」
「そんなことあるか、気合いで大きくできるのならば私だって」
「クレアお姉様は気合いが足りない」
これで第三章は終了です。
また、内政編も終了します。
第四章は、戦闘編。
一番怖い敵は---人間です。




