第90話 王歴24年スタンピート2
「お互いの戦力を把握しておきたい」
ひとしきり昔話を行った後、親衛隊特別顧問がこう発言した。
「先ずは当方の戦力をお見せする。親衛隊長」
「はっ、第一分隊、正面に展開せよ」
王国魔術親衛隊の第一分隊が正面に展開。人数は8名、うち4名が女性だ。
「目標、100m先の敵集団。『ふたりがけ』発射用意---発射!」
ファイアボールは4つ。それがウインドパレットに乗り、距離と威力を高める。
目標周辺の敵集団は全滅。
「お見事です、特別顧問殿、親衛隊長殿」とトール。
「子爵殿からその言葉を聞きたくて日夜訓練に励んできたのだ。一個小隊32名で16ペアとなっている。それが三個小隊。すなわち48発の『ふたりがけ』が一度に発射可能だ」
「よくぞそこまで。尊敬の念しかありません」
「ペアの組み方に一番苦労したぞ。どうやら男女の、それも、何というか、そう、恋仲のペアが一番マッチすることがわかってな」
「そうですか。それは知りませんでした」
「さて、次は子爵殿の番だ。ご自慢の魔術部隊の力を見せてくれ」
「いや、親衛隊殿との力の差があまりにもありますので、お恥ずかしい限りですが。
統合領軍第一分隊、配置につけ!配置につき次第、各々の判断で敵を攻撃せよ」
統合領軍の少年少女たちは、50~60m先のゴブリンを一匹ごと個別に撃破。
「ふむ、無詠唱のストーンパレットか。まあ、悪くはないが---子爵殿、この攻撃はオークやオーガに通じるのか」
「理論上は通じます。ですが、今の彼らではオーガに通じるかどうかは微妙です。練度が低いので」
「練度が低い?彼らは軍に入って何年たつのだ?」
「1か月です」
「1か月---だと?」
「はい。軍に招集し、訓練を開始したのは1ケ月前。20日間の訓練を行い、10日間でシバスまで来ました。彼らの大半が学生、まあ、学徒動員というやつです。あとは土木作業員」
「---なるほど、それで土魔法か」
「はい、統合領の魔術使いは基本的に土魔術しか使いません。それが今の統合領に必要な魔術なので」
「---まあ、わからんでもないがな」
「オーガに全く通じないというわけではないと思います。あとひとつご覧いただきたいものがあります。姉上、ティナ」
トールはクレアとティナを呼ぶ。
「目標、150m先の敵集団。『ふたりがけ 青』発射用意---発射!」
青い色をしたファイアボールが、150m先の敵集団に着弾。通常のファイアボールより遙かに大きな爆発を起こし、敵集団は全滅。
「---青い炎だと?」と特別顧問。
「はい、青い炎は赤い炎に比べて遙かに高温です。先ずはその認識を持つことが大切です」
オリジナル世界のガスコンロやガスバーナーのイメージだ。
「すさまじい威力だな」
「はい、ただし魔力消費量がものすごく多いです。姉上でも2回連続して使用すると魔力が枯渇します」
「う~む。使い勝手が難しいな」
「今回のスタンピートは例年より3年遅れ。そのため規模が大きいとのことですが、最後に出てくるドラゴンもその分強化されているのではないかと危惧しています」
「なるほど、対ドラゴン用最終兵器ということか」
「最終兵器、というほどのものではありませんが、対ドラゴン専用という運用がよろしいかと思います」
「それでは、そのことも含めて作戦会議を行おうではないか。大隊長、よろしいか」
「承知しました」
作戦会議の結果、以下のとおりとなった。
・統合領魔術小隊はトールの指揮のもと緒戦から戦闘に参加。
・王国軍魔術親衛隊はオーガ出現以降に戦闘に参加。
・ティナ、クレアはドラゴン出現まで待機。魔力の温存を行う。
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どこかに油断があったのかも知れない。
ドラゴンの出現は、翌朝以降だという思い込みが間違いなくあった。
スタンピート襲撃初日16:00 スタンピート第6波が発生。
王国魔術親衛隊の圧倒的な火力に加え、統合領魔術小隊の攻撃もオーガに通じたことから、ものの30分でこれを撃破。
辺境伯軍第一大隊第二中隊が場外に打って出て撤退する魔物を追撃、敵勢力被害の拡大をもくろんだところで、それが出現した。
「12時方向上空、飛行物体!あれは---ドラゴン!?」
「第二中隊に帰還の合図を!」
見張りからの報告を受け、即座に指示を飛ばすロト大隊長。
しかしながら、ドラゴンは急速に接近、第二中隊正面上空にホバリングすると、
「ブレス攻撃だと!?」
ホバリングしたまま、ドラゴンは地上の第二中隊へブレスを放った。広範囲に浴びせられた炎が、隊列をのみ込んでいく。
「魔術小隊、ドラゴンを攻撃せよ!」
統合領魔術小隊がストーンパレットで攻撃するもダメージは通っていない模様。
それでもヘイトを取ることには成功し、ドラゴンがトールたちへ向かってくる。
「こんなこともあろうかと!」
どこかの技師長のようなセリフ。
「バレットM82 対物ライフルぅ~」
どこかの猫型のようなセリフとともに、『収納』から取り出したのは、長さ150cmほどのライフル銃だった。この時のためにトールが自ら作り上げた至高の一品。
三脚で対物ライフルを固定、発射準備を完了。
「魔術小隊、防御姿勢!親衛隊、僕らが仕留め切れなかった際に攻撃を!
姉上、ティナ、『ふたりがけ 青』至急!!」
青い炎は狙い違わずドラゴンの胸部に命中、爆発。
ドラゴンは痛みを感じたのか、大きな咆吼をするが大きなダメージにはなっていない模様。
トールたちの前面上空でホバリングしたドラゴンがブレスを発するべく口を大きく開けたその時、
ドラゴンの頭部が爆発した!
ズシンという音と少しの衝撃。ドラゴンが城壁の外に落下した。
静寂。
その静寂を打ち破ったのは---
「トール・イスタン子爵!汝はドラゴンを討ち取れり!!バルト王国魔術親衛隊特別顧問、伯爵 エステリ・カイセリがその証人となる!!」
特別顧問の芝居がかった声。
静寂が小さなざわめきに、小さなざわめきが大きなざわめきに、そして大きなざわめきが歓喜の叫びに。
そしてその歓声はトールに対して向けられたシュプレヒコールになった。
しかし---
トールはその歓声に応えることはなく、笑顔を向けることもなく、能面のような無表情で前を見つめるだけだった。




