第8話 開拓村4
ナオさんは足が悪い。
昔、左ひざに傷を負ったとのこと。それが原因で跛行している。
そのせいで、歩くスピードが遅い。
とはいうものの、ナオさんの家から「偏屈じいさん」の家まではほんの数メートルしか離れていない。
「じいさん、いるかい。ナオだよ」
「私はナオの祖父ではない。何度も言わせるな」
かなり年配の男性が家のなかから声をかける。
ナオさんはそれを聞いて家の中に入り込む。
「何の用だナオ、っとその子は?」
「はい、ジローの息子のサブローです。トーマスさんにお話しがあって参上いたしました」
「私には君の話を聞く理由がない」
「じいさん、そんなことを言わずに話だけでも---」
「トーマスさんに利があると思われる話をお持ちした次第です」
ナオさんの話を遮り、話をすすめるサブロー。
「ほう、利がある話か。利があるかどうかを決めるのは私だが---まあいい。話を聞こう」
「ありがとうございます」
「なぜ、礼を言う」
「話をきいていただけるということについての謝意を述べました」
「なるほど」
「それでは本論に入ります。先ずはこちらをご覧ください」
収納から一角兎(大人)を取り出すサブロー。
「私にはこの一角兎を捕らえる能力があります」
「その能力とは何か」
「魔術です。具体的にはストーンバレットと身体強化。あとは持ち運びのための収納魔術」
面倒になったのか、ぶっちゃけるサブロー。それでも重力軽減と魔力探知は隠すあたりがセコい---もとい、慎重である。
「なるほど、それで」
「じいさん、普通はそこで驚くところだろう---」
「しかしながら僕にはこの一角兎を調理することができません」
「なぜだ」
「調理する道具と場所がないからです。さらに言えば、調理した経験が(二転世界では)ありません」
「うむ、理解した」
「そこで提案をさせていただきたい。僕が食材である魔獣を提供する。
トーマスさんの使用人であるナオさんがそれを調理する。取り分は別途協議」
「何故だ」
「何に対して何故とお聞きになっているのかをお教えいただきたい」
「何故、私にその話をするのかが知りたい」
「トーマスさんはナオさんの雇用者であるので、先ずは雇用者に話をするのが筋かと思った次第です」
「うむ、理解した」
「それでは、スキームについては合意したという認識でよろしいでしょうか」
「うむ、合意する。ナオも異存ないか」
「スキームって何のことかわからないけど、要はあたしがサブローが取ってきた獲物を料理するということだね。いいよ、料理してやるよ」
「ありがとうございます」
「なぜ礼を言う」
「当方のオファーに同意いただいたことに対する謝意を述べました」
「なるほど」
「それでは、次に協議事項である取り分についての協議をさせていただきたい。
当方からの提案としては半々ということで如何か」
「私、ナオ、サブローの3人でどうやって半々とするのか」
「失礼いたしました。トーマスさんとナオさんを合わせて1とし、僕を1とするという意味での半々です」
「なるほど、だが断る」
「理由をお聞かせ願いたい」
「バランスが悪い」
「あなたがたの取り分が少ないということでしょうか」
「逆だ。なぜ調理するだけで半分も取り分があるのか理解できない」
「---なるほど。それでは追加で麦・野菜等の料理を提供していただくということで」
「改めて確認するが、半々の対象は毛皮と魔石も入るのか」
「入ります」
「それでは、やはりまだバランスしない」
「---」
も―テキトーでいいじゃんか、とサブローがナオさんを見る。
ナオさんはだまって首を横に振る。どうやらテキトーではすまないらしい。
「おっ、そうだ、それではトーマスさんにこの世界の知識をご教授いただくということで」
これでどや!とばかりのサブロー。
「う~む。逆にバランスが悪くなる」
どうやらトーマスさんの知識には相当の価値があるようだ。
トーマスさん的には。
「いや、バランスする程度の知識をテキトーに---ってわけにはいかないよね、うん、知ってた」
「教えるからには全力をもって教える。手加減はできない」
「わかった。それじゃこれでどうだ!」
完全にやけくそになったサブローは、トーマスさんにハイヒールをかける。
さらにナオさんの左足にハイヒール。
「---」
「あ、足が---」
「トーマスさんは呼吸器系に問題があったはず。トーマスさん、大きく息を吸ってみてください」
「お、おおう。苦しくないぞ」
「ナオさん、ちょっと動いてみて」
「足が---直ってる?」
「ナオさん、あまり無理しないで。多分筋力が衰えているからリハビリが必要だよ」
「リハビリ?」
「ええと、足を動かして筋力をつけること」
「な、なんという」
トーマスさん、赤い顔をして身を震わせながらサブローに言い放つ。
「なんということをしてくれたんだ!おまえは!!」
「へ?」「へ?」サブローとナオさんがシンクロする。
「バランスが全く合わなくなってしまったではないか。どうしてくれる!」
「ああ、そっちね。では全身全霊をもって僕への教育をお願いします。それでチャラ」
「う~む」
いったいどういう教育をすればいいのか。何から教えるべきなのか。トーマスさんはひとり、ぶつぶつとつぶやいた。
「サブロー、あんた、大丈夫かい?じいさん、本気でおまえに教育をほどこすよ。耐えられるのかい?」
ナオさんが心配そうにサブローに問いかける。
「---ちょっとやらかしたかもしれません」
「サブロー、ナオ。あと一つ問題がある」トーマスさんは二人を見つめた。その表情は深刻で、まるでこの世界の危機が迫っているかのようだった。
「私とナオの間の取り分をどう決めるべきか、それが問題だ」
「---それはトーマスさんとナオさんの間で決めて下さい。」
「サブロー!」絶叫するナオさん。「お前、逃げる気かい」
「じゃ、僕帰ります。父さんが家に帰るときには家にいないと怒られるから」
サブローは身体強化を発動し、さらに重力軽減を隠すこともなく使って、あっという間に姿を消した。
「---なんだ、ありゃ」呆然とサブローが去っていった方向を見つめるナオさん。
「ふむ。身体強化だけではないな。ストーンバレットを使うということは土魔法使い。となると、上級魔法の重力軽減か---」
「上級魔法だって!?なんであの子がそんな魔術を使えるのよ!」
「確かにそれは謎だ。いずれサブローに確認する必要がある。だが今は目の前の問題を片づけるべきだ」
「そ---それは?」
「そう私とナオの取り分について、じっくりと話し合おうではないか」
「---」
ナオは気が遠くなるのを感じた。




