第7話 開拓村3
「ナオさん、こんにちは」
「おや、ジローさんのところのサブローじゃないか。いったいどうしたのかい」
サブローは村はずれにあるナオさんの小屋を訪ねた。
ナオさんは、おおよそサブローの母親と同年代の女性。
ナオさんの家はサブローの家から大人の足でも5分ほどかかる。なぜ、わざわざ訪ねたのか。
「ウサギ捕まえた。料理して」
「サブロー、おまえ、一体どこでどうやって捕まえたんだい」
差し出された一角兎(大人)を見て、ナオさんが驚きのあまり目を見開く。
「あっちのほうへちょっと行った先で。石をぶつけた」
「石をぶつけたって---まあいいか、あんまり危ないことをするんじゃないよ。
今から料理するからちょっと待ってな---なんてことになると思うかい?」
やはり疑われてしまったようだ。
「---思ってた。母さんがそれで納得したから」
「はあ、全くエルザのやつは---。それに、これはウサギじゃないよ。魔獣だよ。一角兎」
「---」
「ほう、驚かないということは魔獣だってことを知ってたのかい」
「---」
「だんまりかい。ってことは知ってたんだな」
「---」
「サブロー、もしやお前、魔力持ちかい?」
「---そのようなお考えに至った理由をお聞かせいただければ大変ありがたいのですが」
「なに、簡単なことさ。
第一に4歳児に魔獣は倒せない。それこそ魔力持ちでもない限りはな」
「僕じゃなくて、誰かほかの人が倒したということは---」
「第二に、おまえは一角兎をお前の家から、まあ実際はもっと遠くで一角兎を獲ったんだろうが、そこからここまで全く疲れをみせずに持ってきた。4歳児には無理だね」
「---」
「多分、身体強化を使ったか、あるいは---まさかと思うが収納持ちか」
「---」
「両方かい?」
「---」
「だんまりってことは両方なんだな。ああ、これはえらいこった」
「---」
「あたしが考えるにこういうことなんだろう。
ジローの息子のサブローは、なぜか知らんが魔力持ちで魔獣を倒せる魔術と身体強化と収納魔術が使える。この一角兎の傷をみると攻撃魔法の種類は---」
「石を作ってぶつけました」
「石を作ってって---ストーンバレットかい。土属性だね。ずいぶん素直に言うようになったじゃないか」
「なんだか、全部ナオさんに当てられるのがイヤになったんで---」
「それで家に持って帰ったんだが、村の掟のせいで親と兄さんたちにとられ、自分にはあてがわれなかった」
「少しはあてがわれたんですが---」
「ちょっとだけだろ。村の掟のことはいつ知った」
「村にサブローが僕の他にわずかしかいないことと、ちょっとしか獲物の肉をあてがわれなかったこと。あと母さんが『村の掟だ』と言ったのを聞いたから、まあ、そういうことかなあと」
「ああ、そういうことだ。それでおまえはあたしに---人付き合いが少なく、村の掟を気にしない節があるあたしに目をつけたということだね」
「秘密を守れて、4歳児のためなら村の掟にも縛られない、親切な方にお願いしようとしたのです」
「よくまあ、そんな風に言えるもんだね。で、どうだい、あたしの考えは。当たっているかい」
「親切な方だからお願いしたという以外は、全部あたっています」
「やれやれ、ちょっと私の手には負えないね。事が大きすぎる」
「---ダメですか」
「なんであたしのとこに来たんだい。村長の家に行って『僕は土属性の魔術もちで、身体強化と収納が使えます』と言えばいいじゃないか。重宝されるぞ」
「それも考えたんですが---村の掟とのからみがちょっと不安で。あと、一生村長にこき使われるか、どこかに売り飛ばされる未来しか見えなくて」
「ふうん、確かに村の掟とのからみは不安材料だね。あと、村長はまあ、一生こき使おうとするか、奴隷としてどこかに売りとばそうとするか、だろうね」
「ですよねえ」
「よくそこに気が付いたね。お前本当に4歳児かい?」
「はい、4歳児でちゅ(2転世界では)」
「いきなり幼児言葉を使わなくてもよろしい。まあ、おまえが生まれた時から知っているからお前が4歳児だということはわかっているさ」
「僕はナオさんがこんなに論理的思考ができるとは、失礼ながら思っていなかった」
「ロンリテキシコウ?ああ、筋道をたてて考えることか。まあ、理屈の化け物に雇われていれば---うん、やはりその手しかないな」
ナオさんが邪悪そうなほほ笑みを浮かべる。サブローは、ちょっと腰が引ける。
「サブロー、何とかなるかもしれないよ」
「本当ですか?」疑わしそうなサブロー。
「まあ、おまえ次第だな。あの理屈の化け物をお前が説得できるかどうか」
「まさか」
「そう」
「まさか偏屈じいさん---トーマスさんのところへ行けと」
「そう。心配すんな、あたしもつきあってやるよ。もっとも、じいさんの説得には手をかさない、
いや手をかせないがな。あたしじゃあのじいさんを説得できない」
「---4歳児に説得しろと」
「さあ、きりきり行くぞ。なに、説得できなかったとしても村長の奴隷として生きていく道筋が残っている。まあ、村の掟のせいで命を取られる可能性はあるがな。そんなに心配する ことじゃない」
「不安材料ばかりじゃないですか!」




