第64話 領主への道
辺境伯執務室
三人の男が打ち合わせを行っている。
「---以上が、今回のスタンピートに関する報告です」
50代のいかつい男性、シバス辺境伯軍団長が報告を終える。
「ご苦労、軍団長」
応じたのは30代前半の男性、シバス辺境伯。
「今回のスタンピートはほぼ被害なしで抑え込んだ。
辺境伯領の歴史上はじめてのことだ。改めて礼を言う」
「はっ、恐縮であります」
「それにしても、だ」
60代とおぼしき老人、シバス辺境伯家家宰。まだ経験の浅い辺境伯を支えており、実務面では辺境伯領の頂点に立つ人物である。
「『ドラゴンバスター』のトールならびに『三聖女』の貢献が目覚ましい。 いや、目覚ましすぎるな」
「はい。小官も報告内容が誇張されていると疑い独自に裏付けを取りましたが、誇張されているどころか、むしろ控えめに報告されている模様です」
「承知した。となると彼らに対する恩賞を考えねばならぬか」と家宰。
「活躍した冒険者は軍幹部に抜擢する、というのが習わしであるが、それではいかんのか」
「いいえ、辺境伯様。軍に抜擢するということだけでは、いささか不足かと存じます」
「辺境伯様、軍団長の言うとおりです。私にも街の噂話が流れてきておりますが、特に『氷の聖女』ユメは庶民に絶大な人気がある様子。ここで正当な評価・正当な報酬を行わないといささか問題が発生することになるかと存じます」
「ふむ。それでは金を多めに与えるか。幸いにも復興資金が丸々余ったのだが」
「辺境伯様、ひとつご報告があります。王軍魔術親衛隊がトールたちをリクルートしております」
「何!?それは本当か、軍団長!?」と家宰。
「はい。第一大隊長ならびに第一中隊長の前で、親衛隊への加入を打診されたとのこと」
「辺境伯様、これは由々しき事態ですぞ。彼らの魔術は王軍魔術親衛隊員を凌駕していることは間違いなく、ひょっとすると宮廷魔術師に匹敵、または上回っている模様です。なんとしても辺境伯領にとどめねば」
「金だけでは不足か」
「はい、もっとこう、強い絆というか、そういったものが必要かと」
「---娘はやらんぞ。まだ5歳だ」
「トールは11歳、年齢的には決しておかしいわけではなく」
「家宰殿、仮に婚姻によりトールを辺境伯領に止められたとしても、三聖女については止められぬかと」
「なぜだ、軍団長。彼らは家族---姉弟、兄妹ではないのか」
「いえ、『炎の聖女』とトールとは、はとこであるとのこと。『風の聖女』『氷の聖女』とは一切の血縁関係はない模様です。それに---三聖女ともトールにただならぬ思いを寄せているとのこと。
仮に、あくまでも仮にでございますが、トールが辺境伯家との婚姻を結んだ場合、三聖女はトールから離れていく、すなわち辺境伯領を去る可能性が多々あるかと」
「なるほど、それでは当家との縁談は、なしだな」
どこかうれしそうな辺境伯。
「それにしてもだ、三聖女のいずれからも好意を寄せられるとは、なかなかの艶色家だな。で、トールはどの者に好意を寄せているのか」
「三人等しく、とのことです。まあ、まだあの年齢ですから」
「はは、まあ、私ならば三人ともと考えるが、平民には許されぬからな---ん?」
「---なるほど、これは少し考えてみるのが面白いかと」
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辺境伯家家宰応接室
「すまん、呼びつけておいて待たせてしまった」
そう言いながら応接室に入室する家宰、後ろには家宰秘書が続く。
「とんでもございません。家宰様にご召喚いただきましたこと、光栄に存じます」
クレアがカーテンシーを、トールが礼を。共に貴族の作法に沿い行った後、クレアが応える。
「ふむ、見事なカーテンシーと礼だ。さぞ研鑽されたのであろう」
暗に開拓村出身であることを認めないかのような言い回し。
「恐縮でございます」
それを受け流すクレア。
「まあ、よい。まずは掛けたまえ」
家宰が椅子に座るのを待ち、席につくクレアとトール。なお、家宰秘書は家宰の後ろに立つ。
「それで、だ」と家宰。
「今日来てもらったのは、スタンピート対応時の報酬について、だ。正式には辺境伯様からの進呈となるが、まあ、内々の通知と思っていただければ結構だ」
「報酬、でございますか。報酬は軍から受け取るものと認識しておりましたが」
「ああ、軍からも受け取ってくれ。これは別口だ。お前たちの格別な貢献に 辺境伯家としても報いたいと考えておる」
「ありがとうございます」
「そうそう、今、お前たちと言ったがクレア嬢、トール殿の他にティナ嬢、ユメ嬢の報酬も含まれている。別途、孤児院長を通じて連絡はするがな」
「承知いたしました」
「それでは、申し伝える」家宰は秘書から受け取った羊皮紙を読み上げる。
「先ずは冒険者見習いトール、貴殿は成人となる日をもって男爵に叙爵し、イスタン領を授ける。
すなわち、成人の後はトール・イスタン男爵と名乗ることとなる。
次に冒険者クレア、貴殿には騎士爵位を授けるとともに、トールが成人となるまでの間、イスタン領の代官に任命する。成人前のトールの保護者としてイスタン領の発展に努めること。
最後に冒険者見習いティナならびに孤児ユメ。両名とも成人の日をもって騎士爵に叙爵する。以上だ」
つかの間の沈黙。
その沈黙をやぶったのは家宰の後ろに立っていた秘書。
「僭越ながら補足説明をさせていただきます。
騎士爵の叙爵は辺境伯名で行いますが、男爵の叙爵は辺境伯の推薦により、国王陛下の御名にて行われます。従いましてイスタン男爵家は、推薦者である辺境伯の寄子となり辺境伯の保護を受けることとなります。さらには、」と秘書が続ける。
「ご承知かも知れませんが、魔力持ちの貴族は最大4名までの妻をもつことができます」
いかなる理由があるか不明であるが、魔力持ちの者の出産率は通常の者と比較して少ない。
魔力が多ければ多いほどその傾向が顕著となる。魔力持ちの貴族が4名までの妻を持つことができるのは、魔力保有者数を増やすためにとられた措置である。
「お話を伺うところ、トール殿と3聖女殿は互いに思いを寄せているとのこと。スタンピートの恩賞としてはこれ以上のものはないかと存じますが如何でしょうか」
「そのように恩着せがましい言い方をするではない」と家宰。
「辺境伯家としても優秀な魔術使いを寄子とすること、さらには魔力持ちになる確率が高いであろうその子孫が、辺境伯家の寄子となることは大いに益があることだ。辺境伯家と貴殿たちの両方に益のある話だ。
クレア嬢、トール殿、この話、受けるということで良いな」
「あ、ありがとうございます」とクレアの声に重ねるように
「お待ちください」とトールが遮った。




