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2度目の転生に関する報告書  作者: トール
第二章 孤児(冒険者見習)編

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63/124

第63話 それぞれの「実家」

アンタルヤ伯爵家応接室


そこに集うのは、領主代行であるアンタルヤ伯爵第一夫人と伯爵家家宰。

さらには第一夫人の実父であるニコシア侯爵とニコシア侯爵家家宰。

「伯爵家家宰殿、それでは『風の聖女ティナ』殿はクリスティーナ様であると」

「いえ、侯爵家家宰様。そのような噂が領内に流れているというだけでありまして---」

「ほう、噂ですか」

「はい、はじめはただ単に聖女殿の背格好がクリスティーナ様と似通っているという程度の噂でしたが。

 しばらくしてから、ある吟遊詩人が『お転婆姫の大冒険』なる演目を行い、それ以降---」


『お転婆姫の大冒険』。昔々、とある国の王女が悪の手から逃れ辺境の地へ。そこで知り合った仲間とともに冒険者となり様々な活躍を行い、スタンピート戦では大活躍。

最後は、冒険者仲間の勇者とともに国に巣くう悪者どもを成敗、勇者と結婚しハッピーエンド。

そのような、かなり「攻めた」内容となっている。


「あの娘は領民から人気がありましたから」と伯爵夫人がつぶやくように言う。

「念のための確認だが」と侯爵。

「家宰、聖女ティナは自らの出自については一切語っていないとのこと、間違いないか」

「はい。出自を問われた際に『シバス孤児院』であると語っているとのこと」

「ふむ。では、伯爵家家宰。クリスティーナの死亡届は既に提出済みとのこと、間違いないか」

「はい。『王歴7年11月23日 流行病のため死去』である旨、既に届け出ております」

「それでは、あえて手を出すことはない。このまま捨て置く」

その侯爵の言葉に、伯爵夫人のこわばっていた顔がやや和らぐ。

「ただし」と侯爵。

「家宰、聖女ティナの動向は常に把握せよ。出自を語るようなことがあれば、あるいは出自を語らずとも王都に居住を移すようなことがあれば、その時は---わかるな」

「そんな---」と伯爵夫人。

「それと、伯爵家家宰。その吟遊詩人とやらは如何した」

「はい、既に領外に旅立った、ということになっております。また、別の吟遊詩人が同様な演目を演じることもありましたが、それらについても同様でございます」

「ふむ。抜かりはない、ということで良いか」

「はい、領外でもそのような演目を行うことは決してありません」

「よろしい、それではこの話は終了だ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


イズミール伯爵家執務室


「では『炎の聖女』クレアはミリアムであると」伯爵が伯爵家家宰に問う。

「はい、辺境伯領ではそのような噂が。聖女様本人はアゼル伯領開拓村の出身であるとかたくなに言い続けているようですが、それを信じる者は誰もおらず」

「開拓村出身、か。それは無理があるな」と伯爵は苦笑。

「使用言語、振る舞い等から貴族、しかも上級の貴族階級の出身であることは間違いありません。さらに聖女殿の愛用のレイピアには当家の紋章が刻まれているとのこと」

「なるほど」

「従いまして、聖女クレアの正体は---」

「デコイか?」

「はい、デコイにされた娘。ミリアム様の影武者となっていたクレアと思われます」

「影武者の娘、クレアという名であったか」

「はい。しかしながら本名を隠すことなく使っていることが少し気になります。まさかとは思いますがミリアム様とクレアが入れ替わったということは---」

「ない。俺が確かめた。処刑したのは間違いなくミリアムだ」

「それではこのことは---」

「放置だ。そもそも本人はミリアムであると名乗っているわけではないのだろう。今、ここで聖女はミリアムの影武者だと主張するのは逆に怪しく思われる」

「承知しました」

「いや、少し待て。逆にこれを少し利用するか」

「と申されますと?」

「成人前の姪まで殺すことはなかったと、俺のことを陰で非難する奴らがいる。であれば、暗に俺がミリアムとクレアを入れ替えて、ミリアムの命を救ったと思わせるのも一つの手か」

「---後悔しておいでですか、ミリアム様を殺めたことを」

「全く後悔していない。あのときは混乱のさなか。ミリアムを旗頭にして俺に逆らう奴らが出てくる可能性があったからな」

「おっしゃるとおりです」

「今、情勢は落ち着いている。そもそも俺が兄伯爵を誅したのは兄の暴政が領民を苦しめたため。

 領民や家臣はそれを理解している。今、ミリアムを旗頭にしようとするものなどはいないだろう」

「それでは、ミリアム様とクレアの入れ替えは私と伯爵様のみが知っていることとし、私からごく少数の者にそのことを匂わせるということで如何でしょうか。伯爵様の口からは一切このことは語らないということで」

「ああ、そうしてくれ。あと、心がけることはだな」

「なんでしょうか」

「領民のための善政を行うことだ。ミリアムの亡霊が旗頭になって俺を討伐することがないようにな」

「御意」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


シバス孤児院応接室


ユメの右隣には孤児院院長が座っている。ユメの左隣にはクレア。さらにその隣にはトール。さらにはティナ。

向き合って座っているのは男性2名。40代半ばと30代前半か?服装からして貴族家の者、もしくはその使いか?


「お久しゅうございます」と年長の男性が話を切り出す。

「ユーメリア様。ピラトでございます。今、イスパルタ伯爵家の次席執事を務めております」

「ユーメリア様。お覚えでしょうか。カヤパでございます。執事補を務めております」

次席執事は言葉を続ける。

「ユーメリア様、お父上である伯爵様からお許しが出ました。イスパルタ伯爵家への復帰がかないましたぞ」

ユメは無表情のまま、何も答えず。ただ、「お許し」という言葉にわずかに反応したことがわかる者がいたかどうか。


「復帰、とは、何事ですかな」と孤児院長。

「孤児院長殿」と若い執事補が話しかける。

「前王歴30年5月にラタキア子爵家ご令嬢が10歳の折に、シバス孤児院からご実家にお戻りになられました。前例がないわけではございません」

「もちろん」と次席執事が続けて言う。

「今までユーメリア様を預かっていただいたシバス孤児院に対して、イスパルタ伯爵家は多大な感謝を申し上げる次第です。感謝の気持ちとして、それなりの寄付をさせていただきますぞ」


つかの間の沈黙。その沈黙を破ったのはティナ。

「前王歴30年の件、承知しております」

「君は?」という執事補の問いかけに応えずに

「前王歴28年、当時のラタキア子爵が反逆の罪を問われる。子爵は失踪。一家は王都に幽閉。その際に子爵家長女デボラ様が孤児院へ。しかしながら子爵は自ら冤罪をはらすべく行動。

 前王歴30年4月に冤罪であることが認められ晴れて子爵に復帰。これによ

り子爵家長女デボラ様も子爵家に復帰したというもの。果たしてイスパルタ伯爵家にこのような特別なご事情がおありになったのか」

「それは---」

「そもそも孤児院から連れ戻すのであれば、ご両親が孤児院に引き取りにくるべきところ。それを家臣、しかも家宰ではなく、たかが次席執事を迎えに寄越すとは」

「たかが次席執事とはどういう言い草だ!?私を侮辱するのか!?」

「たかが次席執事を迎えに寄越すとは、今後のご令嬢の扱いも知れようというもの。まあ、貴族家にとって子弟は駒にすぎぬかも知れませんが---あまりに雑に扱いすぎておりませぬか、その駒を」


「ともかく、だ」旗色が悪くなったと感じた執事補が発言をする。

「孤児院長殿、お戻りになるのかどうかはご本人のご意思を尊重するべきと考えますが如何か」

「そのとおりですぞ。さあ、ユーメリア様、お父上、お母上がお待ちになっております。先ずはいったんお帰りになり、ご両親・ご家族とよくお話をするのがよろしいと存じますぞ」


「ユメ」と孤児院長がユメを見る。

ユメは無表情のままつぶやくように言う。

「ユーメリア様とは、一体どなたのことでしょう」

そして力強く言い放つ。

「今の私はシバス孤児院のユメだ、それ以上でもそれい」

「ユメ!それ以上言うのは危険だ!!」

何故かトールがユメの発言をあわてて遮る。

「ということでございます」と孤児院長。

「こちらにはユーメリア・イスパルタ嬢なる方はおりませぬ。お引き取りいただけますかな」

憮然とする二人に孤児院長は続けて言う。

「そういえば、この方々のご紹介を忘れておりました。『炎の聖女』クレア殿と『風の聖女』ティナ殿。それに『ドラゴンバスター』トール殿です。お二方には供の方々が多数おいでと存じますが、努々力ずくで、などとはお考えにならないほうがよろしいかと存じます」


「お転婆姫の大冒険」短編で投稿しました。

こちらもご覧いただければ幸いです。

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