第59話 スタンピート9
4月12日 早朝
第一大隊は第二大隊と入れ替わりシバス北面城壁に展開した。
北面城壁は、夜間は第二大隊、昼間は第一大隊が守備をする模様である。
北面城壁のなかで、最大の弱点である北門付近には第一中隊が展開していた。
その第一中隊の中にはトール・クレア・ティナ、そしてユメの姿があった。
トール達は引き続き第一中隊に雇われる形で行動を共にすることとなった。
なお、衛生隊はユメの力を借りたい旨申し出たが、
「や!おにいちゃんといっしょにいる!」とのユメの希望により、ユメも行動を共にすることとなった。
なお、ユメはトールの片腕を、がしっと両手で握り離れない状況。
「トール、クレア嬢、それにティナ。魔力量は大丈夫か」とロト中隊長。
「はい、昨晩はゆっくりと休ませてもらいましたから」
「まあ、あんまり無理するなよ。今度は城壁もあれば、味方の数も多い」
「わかりました。まあ、できることだけをやります」
「---おまえさんのできること、ものすごく多いからなあ---」
「はは、っと。来ましたよ」
城壁から1000mほど離れた丘の稜線から魔物の群れが出現、丘を埋め尽くさんばかりに続々と続いてくる。
「伝令!大隊本部に報告せよ!北面防壁から魔物の群れを視認、スタンピート本隊と判断する。合戦開始はおおよそ10分後、復唱必要なし!行け!」
「了解」
「各小隊、合戦準備!」
各小隊長から了解の声。
第一小隊の布陣は、全隊弓装備。
城壁の高さは5mほどあり、槍の出番は当面ないとの判断からだ。
「大隊長、入ります!」
大隊長が十数名の人数を引き連れロトのもとへ来る。
「中隊長、ご苦労!」
「はっ!」
「時間がない、手短に進めるぞ。こちらが王国軍魔術親衛隊長エステル・カイセリ殿だ。魔術親衛隊長殿、こちらが第一中隊長です」
「シバス辺境伯軍第一大隊第一中隊長ロト・カイマクルです」
「ご苦労、エステル・カイセリだ」
40代後半の男性。貴族家出身だろうか、態度が傲慢だ。
「親衛隊の出番はまだ後---スタンピート主力が出現してからとお聞きしておりましたが?」
「ああ、今回は試し打ち---親衛隊魔術攻撃の効果確認のためだ。今回は1個分隊のみを率いてきた。中隊長、場所を借りるぞ」
ロトは大隊長がうなずくのを確認した後、第一小隊に対して1個分隊分のスペースを開けるよう命令。
「親衛隊、配置につけ!」
親衛隊長の指揮の下、展開する親衛隊。
「各自、攻撃開始!」
親衛隊員は、各自詠唱後、ファイアボールを40~50m先のゴブリンに向けて発射。
1発につき2~3匹のゴブリンを無力化する。
「おお~」と歓声が上がる。
親衛隊長は満足そうに笑みを浮かべながら数度頷いていたのだが---
「---しょぼい」
漏れ聞こえた声に気色立つ。
「誰だ!今言ったのは!?」
沈黙。沈黙ではあるが辺境伯軍の一画、20~30名の様子が他の者と違うことを感じる。
そういえば、「しょぼい」の他にも「あれ?」とか「あんなもんか?」という声も聞こえた気が---
「何だ、貴様ら!」
沈黙のまま。
「王国軍魔術親衛隊を愚弄するのか!」
プライドの高い親衛隊長はえらくご立腹の様子。
「親衛隊長殿、魔術のことをよく知らぬ兵が言ったこと、何卒ご寛恕いただきたく」
大隊長がとりなすものの、
「大隊長、このことは正式に報告させていただく」
正式な報告となると、魔術親衛隊長-親衛隊総隊長-国王のルートでの報告となる。
正規ルートで国王まで報告がいってしまうと、関係者の処遇を含めていろいろと厄介なことが発生してしまう。
「トール、すまんが---頼む」ロトがトールに向けて小声でささやく。
「はあ---しょうがないですね」トールが大きくため息をついた後、
「姉上!ティナ!!『ふたりがけ』発射願います!目標、100m先の敵集団!」
クレアとティナはそれに頷き、
「ファイアボール!」「(ウインドバレット!!)」
距離・威力・スピードとも格段に勝るファイアボールが敵集団に命中、10程度の敵を無力化。
「おお~!」と歓声。先ほどの歓声より数倍は大きい。
「なっ!」
親衛隊長はしばらく黙ったままでいた後、つぶやき始める。
「ただのファイアボールではないな。『ふたりがけ』と言っていたな。そういえば、ファイアボールと同時に、もう一人の娘が魔力発動をした様子があった。ファイアボールを支援する魔術---火魔術ではなかった、となると風魔術か?そうか!ウインドバレットでファイアボールを運べばあのスピードと距離が出る!」
「さすがですね」とトールが小声でロトにささやく。
「ああ、腐っても魔術親衛隊長だ」とロト。
親衛隊長の独白は続く。
「威力もそれだ!火に風を送り込むと火力が増す。ウインドバレットに間違いない!
だが、どうやってウインドバレットでファイアボールを運ぶ?
ファイアボール発動と同時にウインドパレットを発動---無詠唱であればできなくはないか。
しかし、だ。ウインドパレットのスピードとコントロールが必要。無詠唱で それを行うとは---しかもあの年齢の娘が」
「本当にすごいです。1回見ただけで『ふたりがけ』の本質まで見抜いている」とトール。
「ああ、いけすかない野郎だがな。魔術に関しては一流なのだろう」
親衛隊長はぎこちない笑顔を顔に張り付かせ、ティナのもとに歩み寄る。
「あ~、お嬢ちゃん。名前と年齢を教えてくれないか」
「ティナ、10歳です」若干引きながら答えるティナ。
「ティナ---ちゃんか。どこの家の娘なのかな」
「---シバス孤児院、です」
「---なるほど。魔術は誰に教わったのかな」
ティナはトールを見る。トールが頷くのを確認した後
「トールお兄様に、です」と答えた。
「ほう、君がトールか」
「はい。シバス孤児院孤児、冒険者見習いのトール。11歳です」
「---なるほど」
親衛隊長は一瞬のうちに考えた。
ファイアボールを発した娘を姉上と呼んでいた。トールの腕をつかんで離さない小さい娘、この娘の特徴はシバス住民で噂されている『氷の聖女』と一致する。
さらには風魔法のティナ。あの娘もトールのことを兄と呼んでいた。
であれば---
「トール、いや、トール殿。どうだろう、我が王国軍魔術親衛隊に身を寄せてみないか。
ああ、もちろん君のご家族、姉上と妹君も一緒に---だ」
「親衛隊長殿、それは---」と大隊長が口を出そうとしたとき、トールが応えた。
「ご厚意ありがとうございます、王国軍魔術親衛隊長殿。しかしながら、先ずはスタンピートを撃退することが優先されます。お話はその後で、ということで」
「おお、もちろんだとも」
「では---姉上、ティナ!随時ふたりがけを!長丁場になるので、無理をせずに!」
「第一中隊!攻撃開始!!指揮は各小隊長に任せる!」
続けてロトは指示を出した後、トールに小声で尋ねる。
「行くのか、王都に」
「選択肢として、ないわけではありません。ただ、貴族社会のあれこれがあります。ティナとユメは連れて行けないでしょう」
「貴族社会のあれこれ、か。トール、お前さんは大丈夫なのか」
「僕と姉上は開拓村の出身ですから」
「ああ、そういうことになっているらしいな。開拓村出身者が高い布施をはずんでシバス孤児院に入る理由がよくわからんがな」
「あはは、あれは見栄のためですよ」
「見栄?」
「はい、シバス孤児院出身って、なんか、かっこいいじゃないですか」
「---そういうことにしておこう」
「はい、先ずはスタンピートから生き残るということで」




