第58話 スタンピート8
4月11日 17時
シバス辺境伯軍第一大隊第一中隊第一小隊は、同第二・第三・第四小隊に周辺を囲まれながら行進中であった。
疲労の色は少なく、出迎えた第二・第三・第四小隊よりも歩調がそろっている。
小隊はシバス北門に到着。
「小隊止まれ!」とトール。
「中隊長殿、指揮権を返還します!」
「了解、小隊長は今後の指揮をとれ」
「了解です。トール、ご苦労だった。第一小隊は今回の恩を決して忘れない。必ず借りを返す」
「第一中隊長としても、だ。トール、クレア嬢、ティナ。今後のこともあるが、まずは第一中隊宿舎でゆっくり休んでくれ」
「お言葉に甘えます」
「おう、できる限りのもてなしをする。それにしても、だ。こうして全員無事でシバスに帰れるとはな。あのときはもうダメかと思ったぞ」
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ロトが目にしたのは、その場で蹲って動けなくなったトールの姿であった。
ロトが即座に指示を飛ばした。
「全隊、シェルターに待避!小隊長!指揮をとれ!俺はトールを連れて行く!」
「了解!副官!クレアを頼む!」
「了解!」
「第一分隊はしんがり、第二第三分隊は側面を防御!第四分隊とティナから退却する!訓練どおりに動け!」
サムエル小隊長の指示のもと、退却する第一小隊。
先ずはトールをシェルターに入れ、次にクレアを入れる。
「第四分隊、攻撃準備完了!」
弓隊がシェルター入り口前で戦列を組む。
「了解、第二分隊、シェルターに待避!続けて第三分隊、第一分隊の順!第四分隊長、任せた!」
「了解、射撃開始3秒前、2、1、今!続けて第2射!3秒前、2、1、今!」
第四分隊の援護射撃のもと、第二分隊が待避完了。続けて第三分隊、第一分隊も待避。
「残矢無し!」
「こっちもだ!!」
第四分隊員から矢切れの声が上がる。
「第一分隊、前へ!入り口を槍衾で防ぐ!第四分隊、シェルターに待避せよ!」
次々とゴブリンを葬っていく第一分隊。だが、魔獣の群れは尽きることがない。
「第二分隊、出撃準備!第一分隊とスイッチする!よし!前へ!第一分隊は待避!!」
無事にスイッチを完了する第二分隊。
「第三分隊、出撃に備えよ!以降、スイッチを繰り返す!入り口を死守せよ!」
「トールお兄様!」シェルター到着後すぐにトールに駆け寄るティナ。
ティナはトールと両手をつなぐ。
「ティナの魔力、お受け取りください!」
ティナは右手から魔力を注ぎ、左手から魔力を回収することにより魔力を循環させる。注入量は多く、回収量は少なく。
みるみるうちに、ティナの顔色が蒼白になっていく。
「ありがとう、ティナ」まだふらつきながらもトールが立ち上がる。
「小隊長、入り口を塞ぐ!合図を願う!」
「わかった!第一分隊長!俺が出るので援護を頼む!俺とお前で第三分隊の撤退を支援する!背中は任せた!」
「了解!」
「行くぞ!」
サムエルの武器は槍ではなく剣。剣舞とも思える動きで次々とゴブリンを葬る。
第一分隊長はその槍裁きで小隊長の死角をカバーする。
「第三分隊、撤退完了!」
「よし!戻れ!!」
サムエルと第一分隊長がほぼ同時にシェルターに飛び込む。
「今!」
「(ストーンウオール!)」
「これでしばらくは持ちます。僕は、僕とティナは魔力の回復に努めます。しばらくの間、話かけないでください」
結跏趺坐をするトールとティナ。
「わかった。各自、休憩。水分補給---は、無理か」
「少量ですが、水を出します。あまり得意ではないのですが---」
とわずかながらも魔力が回復したクレアが瓶に水を注ぎ込む。
「おお、ありがたい。っと、顔色が悪いぞ。いったん終了だ」
「いえ、私にはこのくらいのことしかできないので---」
「そうか---って、本当にもう十分だ。ありがとうクレア嬢。各自、水分補給せよ。その後は---寝てろ」
全員で横たわる第一小隊。時折、壁を叩く音がする。魔物がシェルターを攻撃しているようだ。
「保ちますかね、この壁」
サムエルがロトに小声で話す。
「あいつが保つと言うのだから保つのだろう。ここで心配して何かいいことあるか」
「---ありませんな。では、寝ます」
明かり取りの隙間から外の様子を見ていた兵がロトのそばに近づき小声で話す。
「報告、オークを視認。スタンピート本隊が到着した模様」
「おう、わかった。なかなか痺れる状況だな」
その時、今までよりも大きな壁を叩く音。オークの攻撃のようだ。
「保つかな、この壁」
「今、心配すると何かいいことでもありますか?」
「---ないな。寝るか」
「オーガを視認」
「わかった。奴らを刺激しないよう、声を出すな」
ドガン!今までの音よりも格段に大きい。それが複数箇所であり、シェルター
全体が揺れている。
「オーガの攻撃か!?トール、さすがにやばいぞ!!」
トールが結跏趺坐を解き立ち上がる。
「待たせた!これより小隊を収納し、上空に離脱する!全員、起立!!」
ティナを除く全員を収納した時、壁にひびが入り、小さな穴が開いた。
「ティナ、行くぞ!」
「はい」トールの背中に飛び乗るティナ。
土魔術で天井に穴を開け、上空に飛び出す!
オーガがなだれ込んできたその時には、シェルターには誰もいなかった。
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第一小隊は北門から入場した。そこには第一大隊長をはじめとする軍関係者。
さらにその外側を民衆が取り巻いていた。
小隊長サムエルが中隊副官アンナに敬礼。アンナはそれに答礼。
「中隊長代理殿、報告します。第一小隊総員35名現在員35名異常なし。
冒険者ギルド派遣の協力者、総員3名現在員3名異常なし。以上」
「了解、ご苦労!大隊長殿、第一小隊、無事帰還!」
その時、一人の少女が隊列に飛び込んできた。
「おにいちゃん!」
「ユメ!」
ユメはトールに抱きつく。それを受け止めるトール。
「おにいちゃん、あのね、あのね、ユメ、がんばったの」
涙を流しながらトールに訴えるユメ。
「お、おにいちゃんが、帰ってくるって、し、信じてたから」
「うん、帰ってきたよ」
「おにいちゃんが---が、がんばって、いるって、思ったから」
「うん、僕もがんばったよ」
「だから、だから、ユメも、がんばったの!」
ユメはいつもの無表情ではない、泣き顔でくしゃくしゃになっている。
「そうか、ユメ、がんばったんだね。えらいな、ユメは」
「ワア~ん!!」
ユメは号泣し、トールの胸に顔を埋める。トールはユメを強く抱きしめた。
「ライバル出現、手強い相手ね」
ティナがつぶやく。
「ユメのやつ、いつの間に---」
クレアもつぶやく。なお、クレアの顔色は魔力枯渇をおこした時のように、いや、それ以上に蒼白となっている。
「妹属性で攻めていたけど---この属性ではユメが1枚上手。特にあの『おにいちゃん』攻撃が---あなどりがたし!」
「いかん、このままではトール様をユメに---」
「そうなると---明るい娘属性を全面に出すか?ユメとの差別化が図れることだし」
「わ、私はどうしたらいいんだ?」
「さあ?ご自分でお考えくださいまし、クレアお姉様」
姉属性がなかなか有効だと思うけど---敵塩なんてするわけないじゃん。
トールはユメを抱きしめながら、不安な思いでいっぱいとなった。
民衆からの声が漏れ聞こえたからだ。
「聖女さまが---」
「あの娘が氷の聖女さま---まだお小さいのに」
「あの男、許せん!」
「いや、待て。おにいちゃんと言っていたぞ。聖女さまの兄上ではないのか」
「兄上か---ならば許す!」
ユメ、お前はいったい何をやらかしたんだ?




