第56話 ユメ独白
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よろしくお願いします。
私の名はユメ。
シバス孤児院の孤児。
以前の名前はユーメリア・イスパルタ。
そう、私はイスパルタ伯爵家次女だった。
幼いころはそれなりに愛されていたと思う。
周りの者達から「人形のようにかわいい」と言われ、家族・家臣それに領民からマスコットとしてもてはやされていた。
そんな幸せな時間は長く続かなかった。
私は、文字が読めなかった。
目が悪いというわけではない。ただ、何というか---文字を文字として認識することができなかった。
5歳になった時、私が文字を読めないことを知られると、私の周りから人がいなくなった。
お父様も、お母様も、お兄様方も、お姉様も。
そう、私は家の一室に軟禁されたのだ。いわゆる座敷牢というやつだ。
食事等の最低限の世話はされたが、その際に一切の会話はなく、家族が面会に来ることもない。
私は「いない子」になってしまったようだ。
軟禁生活が1年を超えたある日、私は家から出された。
私は自分がどこへ連れて行かれるのかも知らされなかった。
馬車での十数日の旅の後、シバス孤児院に着いた。
同行していた者は私に何も言わずに去って行った。
孤児院に着くと、院長は私を見下ろし「さて」と告げた。
「これから君は新しい人生を送ることになる。ユーメリア・イスパルタではなくシバス孤児院の孤児ユメとしての人生だ」
新しい人生、と聞いても私には何の感慨もなかった。
私をいない子として扱った家族には何の思い入れもない。孤児としての人生に何の期待もない。
文字を読めない私は疎ましく思われるだけだろうから。
私の心は氷のように固まってしまっていた。
案の定、私は孤児院でもひとりぼっちだった。
それはそうだろう。何があっても何を言われても笑いもしなければ泣きもせず無表情のまま、言われたことだけを淡々と行うだけの子が疎まれないはずがない。
だんだんと私に話しかける者はいなくなってきた。
唯一、私より1歳年長のティナという女の子だけが私に声をかけ続けていたが私はそれを煩わしいと思うだけだった。
トールお兄様が孤児院を訪れ、私たち孤児に魔術の手ほどきをするようになった。
体内魔力循環の質がいい、とトールお兄様は私のことを特別にかまってくれた。
ただ、私は何も期待していなかった。なぜならば---
「トール兄ちゃん、こいつ、文字が読めないんだぜ」と、孤児からの一言。
トールお兄様に知られてしまった。
遅かれ早かれいつかは知られることだ。これでトールお兄様も私を避けるようになるだろう。
「ユメ、ちょっと一緒に来て」
トールお兄様は私をお姫様だっこすると、大きくジャンプし、孤児院の屋根の上。
ここから突き落とされるのか。それならそれでいいけど。
「目が悪いの?」
目は悪くない。文字が読めないだけ。だから家族からも皆からも嫌われた。
「識字障害---か」
トールお兄様は私の頭をくしゃくしゃ、と撫でこういった。
「つらかっただろうね」
そっか---私、つらかったんだ。
あれ?目から涙が---私、泣いているんだ。
トールお兄様はそんな私を強く抱きしめてくれた。私はトールお兄様の胸に顔を埋め涙を流し続けた。
私が泣き止んでしばらくした後、
「ユメ、よく見てて」
トールお兄様が小さなナイフを取り出し、自分の腕に浅い傷をつけた。
「魔力を傷口に降り注ぐんだ、傷が元通りになるようにイメージしながら---『ヒール』」
傷はなくなった。
「わかった?」
わかった。なんとなく、だけど。
「できそう?」
できそうな気がする。たぶん、だけど。
「じゃあ、やってみて」
ちょっとまって、魔力を循環させてから---今ならいい。
トールお兄様は再びナイフで自分の腕に傷をつける。
魔力さん、元通りにして。『ヒール』。
傷はなくなった。
「1回目で!すごいなユメは!!もう一回だ!」
ヒール。
「もう一回!」
ヒール。
トールお兄様が自分の腕を傷つけ、私がヒールをかける。
それを数回繰り返した後、トールお兄様が言った。
「もう大丈夫だね。できるようになったね」
ん、できるようになった。
「この力があれば、ユメはみんなから嫌われなくなる。文字が読めるかどうかなんて関係ない」
文字か読めなくても---いいの?
「もちろん」
私の目から再び涙が。そして今度は私からトールお兄様に抱きついた。
トールお兄様の胸に顔を埋めながら私は誓った。
これから私はトールお兄様のために、トールお兄様のためだけに生きていこう、と。




