第55話 スタンピート6(シバスにて)
時は遡り、4月10日12時ごろ。
シバス孤児院に冒険者のドロシーが駆け込んできた。
ただならぬ様子に、院内にいた者たちの視線が一斉にドロシーへ向けられる。
ドロシーは孤児のユメに面会することを要求。
「君がユメか。私はドロシーだ。トール達と行動を共にしていた。
先ずはトールからの伝言を伝える。僕たちは必ず帰ってくる---と」
「トールお兄様は今、どこ?」ユメは無表情のまま尋ねる。
「まだ町の外だ。周辺住民が避難するのを助けている。クレアとティナも一緒だ」
「ん、わかった」
「それと、これはトールから言われたわけではないが---手を貸してほしい」
「なに?」
「怪我人が多い、ああ、避難民にだ。トールから君は治癒魔術が使えると聞いた」
「ん、手伝う」
「助かる!急いで集会所へ!」
集会所には怪我人が多数集められていた。
治癒魔術が使える冒険者と辺境伯軍衛生隊が治癒魔術による治療にあたっているが、とても手が足りているとは言えない状態。
「ユメ、それでは治療を---どうした?何を揉めている?」
「ドロシー!こいつらが、軍の奴らが---」
冒険者の1名がドロシーに何かを訴えようとした時。
「貴殿がドロシー嬢か、第一中隊長ご令嬢の」と40歳前後の女性隊員。
「はい」
「貴殿が難民の世話役と聞いているが---」
「正式に拝命したものではありません。成り行きでそのようなまねごとをさせていただいております」
中堅冒険者として冒険者ギルドに顔が利き、父親の関係で軍にも知り合いがいるというドロシーは、自然と難民の世話役という立ち位置になっていた。
「そうか。私はマリアンメ。第一大隊衛生隊を率いている。ドロシー嬢、すまんが軍はここを退去する」
「なっ!」
「正式な命令が出た。辺境伯軍衛生隊は今後兵士の治療に専念せよと」
「そんな!ここにいる怪我人達は!」
「妥当な判断」とユメ。大きな声ではないが、何故かその声は多くの者まで届いた。
「これから魔物が町を襲う。町を守る兵士様たちを治療することが必要」
「しかし---」
「町を守れなければ、また魔物に襲われる。ここで治療しても無駄になる。だから軍の衛生隊は、兵士様たちの治療のため、魔力を温存するべき。トールお兄様ならばそう考えるはず」
「そのとおりだが、君は?」と衛生隊長。
「ユメ。シバス孤児院孤児。治癒魔法を使える。隊長様にお願いがある。魔力は必要ない」
「何だ?」
「トリアージをしてほしい」
「鳥味?」
「---怪我人のうち、手の施しようがないものを黒、今は治療の必要のないものを青とする。
残りのうち、急ぎ治療が必要なものを赤、その次を黄色とする。
この区分けをしてほしい。私は赤から治療していく」
「わかった。お安いご用---というわけではなさそうだが、協力する。ダニエル班長!聞いていたな。この場に止まりトリアジ?を実施すること!」
年の頃は五十に手が届くかどうか。がたいのいい男性兵士がこれに応じる。
「了解!ダニエル班長はこれから避難民のトリアジ?を実施します!」
「よし!衛生隊集合!この場を退去、大隊本部に合流する!ダニエル、後は任せた」
「ユメ、だったな。早速だが赤だ。胸部負傷、肋骨がいかれている」と班長。
「(ハイヒール)」
無表情のまま中級白魔法ハイヒールを無詠唱で発動するユメ。患者は瞬く間に治療される。
「なっ!おい!何人いける!?」
ユメの魔術効果の高さに驚き、治療可能人数を確認する班長。
「20」
「20人もいけるのか!っと、驚いている場合じゃない。次はこの子だ。腹部裂傷!」
「(ハイヒール)」
班長の指示に従い、次々と怪我人を治癒していくユメ。表情は無表情のままだ。
「おい、そろそろ休んだほうがいいのじゃないか」
20名を超えたところで班長がユメに声をかける。魔力不足のためか、ユメの顔面は蒼白。
「まだいける」とユメ。
「トールお兄様が守った避難民の命。ここで失わせるわけにはいかない」
無表情のまま、ふらふらになりながら治癒魔術をかけ続けるユメ。
「---聖女様」
その姿を見た避難民の一人がつぶやいた言葉が避難民の中に広がっていく。
無表情でいることとあいまって、ユメはこのように言われることとなる。
『氷の聖女』と---。




