第50話 スタンピート2
第一小隊が集合している。各兵はいちおう背嚢を背負っているが、中身はほぼ空だ。糧食や矢だけでなく、戦闘に使用しない荷物はすべてトールが収納している。
「トールのやつ、本当に全部収納しちまいやがった」とロト。
「本当に、どれだけの収納能力があるのでしょうね。ぜひとも軍にほしいですな」とサムエル。
「輸送能力目当てにリクルートするのは難しいらしいぞ。何でも嫁さんと心中するらしい」
「なんですか、それ」
「そこ!私語は慎め!!それでは、第一小隊、出発する。全隊、駆け足、進め!」
トール・クレア・ティナを先頭に、ロトがそれに続く。その後ろに各分隊。しんがりはサムエルが務める。
「ご武運を!」ドロシーの声が響いた。
サムエルはその声に右手を軽く上げて応える。
「おい、このペースで走り続けるのか?」
しばらく走ったところで、ロトがトールに話しかける。トールはそれを無視。
「---わかったよ。指揮権はお前にあるんだったな」
「ご理解、感謝する」とトール。妙に偉そうな口調だ。
「全隊、止まれ!」とトール。
「姉上、よろしいですか」
トールはクレアの肩に触れ、
「(収納!)」
唖然とする第一小隊員。
「見てのとおりだ。これからお前らを収納し、目的地まで運ぶ。全員、二列縦隊!」
指示が出たものの小隊員は動けない。驚きすぎているのか、あるいは二列縦隊の意味がわからないのか。
「---まあ、いいか。全員、気をつけ!その場を動くな!」
隊員に触れ、次々と収納していくトール。その場に残されたのはロト・サムエル、そしてティナの三名だけになった。
「中隊長殿、小隊長殿。あなた方も収納し目的地、地図で示した3箇所のうち一番遠い地点、今後A地点と称しますがそこまで運びます」
兵の目を気にする必要がないため、丁寧な言葉で話しかけるトール。
「---ティナは収納しない、ということは---飛ぶのか」
「はい、飛びます」
「ちょっと待て!生きているものは収納できないんじゃないのか!お約束だろう!!」
お約束ってなんのこった?
「ご覧になったとおり収納できます。なので、本当はこの能力だけは隠したかったのですが」
「他にもいろいろやらかしているが、この能力だけは---とは?」
「---トール、兵員をどのくらい収納できる?」とサムエル。
「2個小隊は可能かと」
「---2個小隊を収納して、王宮に上空から直接侵入。王宮内部で2個小隊を展開し1個小隊で周辺確保、もう1個小隊で王を殺害もしくは拉致。その後、再度2個小隊を収納し撤収。可能だな」
「可能です。ですから隠したかったと」
「やばいな」
「やばいですね」
「軍に囲い込まれるのは当然として、下手すりゃ不安定要素として消されるか」
「---それを危惧しています」
「よくわかった。このことは辺境伯軍の限られた者だけにとどめるよう努める。今は時がおしい。作戦を継続してくれ」
「了解です。では、お二人を収納させていただきます」
目的地到着後、収納していた全員を放出。
「各員注目!現地点に見覚えがあるだろう。そうだ、シバスから4日の地点だ。僕がお前らをここまで連れてきてやった。感謝しろ!」
再び偉そうな口調のトール。
「敵前哨隊との会敵は明朝になると想定される!僕は、簡易的陣地構築を行う。中隊長・小隊長はそれに同行せよ!---復唱!!」
「はい、指揮官殿。中隊長と小隊長は司令官殿の陣地構築に同行します」
ロトが復唱。トールを上官とする設定に沿っている。なかなかノリがいい。
「よし!次に小隊副官!!」
「はっ!」
「小隊の規律訓練を実施せよ!」
「はい、指揮官殿。規律訓練とは何でしょうか!」
小隊副官もノリがいい。
「目的は収納を行う際の時間短縮!方法は2列縦隊を素早く行うこと!」
「はい、指揮官殿。2列縦隊とは2列で縦に並ぶということでよろしいですか!」
「そのとおりだ」
「はい、指揮官殿、完全に理解しました。小隊副官は規律訓練を実施します!」
「よろしい、では解散!---あ、姉上とティアも僕についてきてね」
「指揮官殿、なかなか手慣れてるじゃないか」とロトがトールに話しかける。
「からかわないでくださいよ、中隊長殿。兵が見ていないときはいままでどおりトールと呼んでください。小隊長殿もそうしてください」
「いやいや、そうはいかないだろう、指揮官殿」ロトはニヤニヤしながら返答、完全にからかっている。
「ところで」とロト。笑い顔は消え、真剣な口調。
「手慣れている、どころじゃないな。どこかで士官訓練を受けたのか」
「いいえ、見よう見まねですよ」
「見よう見まね---で、出来るものではないだろうが、まあいい。それで陣地構築はどうする?」
「はい。次のように考えています」
・戦闘正面の中心にクレアとティア。その両脇に第三分隊と第四分隊の弓隊を展開。第一分隊と第二分隊の槍隊はその後方に配置。戦闘正面の横幅はおおよそ30mとする。
・戦闘正面の両脇に堀を作る。堀は長さ30m・幅3m・深さ2m。堀の手前側に高さ1mの壁を設置し、敵勢力が堀を乗り越えることを防ぐ。
・堀は斜行させ、敵勢力を戦闘正面まで誘導する。
「こんな感じで如何でしょうか」
「出来るのか、そんな堀を作るのを」
「明朝まで時間がありますから、まあ、なんとかなると思います」
「前哨隊はゴブリンが中心だ。ちょっとオーバースペックじゃないのか」
「魔狼が怖いんです。堀を乗り越えられたらば小隊が崩壊します」
「---わかった。小隊長、意見は?」
「ありません」
「では、そのように頼む。作業中の周辺警戒はどうする?」
「必要ありません。あえて言うならば中隊長殿・姉上・ティアの3名で僕の護衛を。小隊長殿は規律訓練の確認、それが終了したら夜営準備を。申し訳ないのですが、兵が寝泊まりする小屋設置は無理かと思います」
「了解だ」
「ちなみに、姉上とティアの体力温存のために、僕たち3名分の小屋は作りますが---後ろから射らないでくださいね」




