第49話 スタンピート1
辺境伯領都シバスから徒歩三日の地点で、避難民の荷馬車が道をふさぎ、大渋滞を起こしていた。
「副官、状況を説明せよ」と、ロト。
第一中隊首脳による臨時会議。
臨時会議の出席者は、中隊長ロト、中隊副官アンナ、第一から第四小隊の小隊長に加え、『百合の乙女』リーダーのドロシーと、冒険者見習いのトールだった。
「はっ!状況は次のとおりです」
・3月26日調査隊発信の第一報を速やかに大隊本部に連絡。
・大隊本部からの連絡を受けた辺境伯は速やかに対策会議を開催。
・対策会議の結論は以下のとおり。
1)周辺村に対して「避難準備命令」を発布。
2)第一大隊に対して「出動準備命令」を発布。
・4月2日調査隊発信スタンピート発生報を受け、辺境伯は周辺住民への避難命令を発布、住民は避難を開始するがここで問題が発生。避難準備をしていた住民は、可能な限りの家財を荷馬車に詰め込んだ。
その結果、荷馬車は過積載となり、ぬかるんだ道で次々と足を取られ複数 箇所での渋滞が発生。
それに輪をかけるように活性化した魔物の襲来が頻発、避難民に負傷者が発生し、避難速度が著しく低下している。
「避難準備命令が裏目に出たか」
「結果としてはそのとおりです」
「応援要請は?」
「既に要請済みです。明朝には第三中隊が到着予定」
「了解。第三中隊が到着次第、次の行動に移る」
・避難民一人あたりの荷物を手荷物1個に限定し、他の荷物は軍が押収する
・押収した荷物はすべて荷馬車から卸し、この場にうち捨てる
・空荷になった荷馬車に老人、子供、負傷者を搭載する。過積載に要注意。
・第三中隊には活性化するであろう魔物の襲来からの防御に専念してもらい 第一中隊は第二・第三・第四小隊が上記作業にあたる。
なお、上記作業終了後、第二・第三・第四小隊は、第三中隊と連携し、 避難民の援護ならびに護衛を行う。
「第一小隊は?」
「引き返す」
「は?」
「引き返しスタンピートとの遅滞戦闘を行う」
「なっ!無謀です!」
「スタンピート本隊と戦うわけではない。魔物の前哨隊を叩く」
「それでもです!たかが1個小隊では前哨隊に飲み込まれてしまいます!!」
「いや」と第一小隊長のサムエルが発言。
「この作戦が一番現実的かつ効果的だ。ただなあ、一つ前提があってな」
とサムエルがトールを見る。
「よろこんで、とは言えないのですが---まあ、仕方ないですね。僕らも参加します」とトール。
「親父!それにサムエルさん!正気か!?子供をそんな危険な作戦に---おい、まさかティナまで連れて行く気か!?」
「僕たちは3人で1チームですから」
「ふざけるな!」
「ドロシー、気持ちはわかるがこの作戦にトール達の参加は必須だ」
「ならば私も参加する!」
「ドロシーお姉様、正直に言わせてもらいます。足手まといです」
「---」
「それにドロシーお姉様には、いや、『百合の乙女』には他にやるべきことがあります」
「---何だ?」
「避難民の支援です。第一中隊の副官さんは女性ですが、軍は基本的に男世帯
です。女性や子供の避難民をケアすることは、現状、『百合の乙女』にしかできません」
「---」黙り込むドロシー
「疲労度の高い第一小隊ではなく他の小隊を起用するべきではないでしょうか」と副官のアンナ。
「第一小隊の疲労度はそれほど高くない。監視活動の間、複数回の魔物襲来を撃破した経験を鑑み、第一小隊を起用する。第一小隊長、問題はあるか」
「全く問題ありません」
「それでは、第一小隊とクレア・トール・ティナの3名は遅延戦闘を実施する。なお、中隊長も第一小隊に同行し、中隊本隊の指揮は副官に委譲する。
これは決定事項だ。他に質問がなければこれで解散、第一小隊は分隊長を交えて作戦打ち合わせを行うが---」
「質問、ではないのですが」
「なんだ、トール」
トールは副官のアンナを見つめながら言った。
「追加料金について、後ほど請求させていただきます」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
続けて第一小隊での作戦会議。
出席者はロト・サムエル・小隊副官・各分隊長とトール・クレア・ティナ。さらに中隊副官のアンナも同席している。
「地図はありますか」とトール。
「部外者に地図を見せるのは---」とアンナ。
「かまわん、出せ」
ロトの了解を確認後、小隊副官はテーブルに地図を広げた。
「魔物は道を使いますよね」とトール。
「ああ、前哨隊はな。魔物といえども道を使う方が移動が早いからな。ただ、 道を迂回するときの行軍スピードは人間より段違いに早い。うっかりすると 回り込まれてしまうから要注意だ」
「そうすると、ここと、ここと、このあたり」
トールは地図の3地点を指しながら言った。
「魔物の集団から見て登り坂になっているのである程度の見通しがききます。
ここで一当てするというのはどうでしょう。できれば簡易的な陣地を構えて」
「おっ、いいな。だが、ここは遠すぎる。俺たちが到着するころにはスタンピート本隊がこの地点を通過しているぞ。あと、陣地は無理だろう」
「少し考えがあります。小隊の皆さんは弓は使えますか」
「ああ、こう見えても第一中隊第一小隊は辺境領軍最強の小隊だ。弓も一通り使える」
「弓の得意な者を選抜して弓に特化した分隊を編成するというのは---」
「いや、今、編成を変えると混乱する。第四分隊を使う。もともと、第四分隊に弓が得意な者を集めているからな」
「次に弓が得意な分隊は?」
「第三分隊だ。第一と第二は槍が専門だ」
「了解。では、第三・第四分隊の弓と姉上・ティナの火魔術で遠隔攻撃を行い、第一・第二分隊はこれをカバー、ということでよろしいですか」
「了解だ。矢の数がこころもとなくなったらば、第三分隊も槍に切り替えるぞ」
「了解です。遅延の目標日数は?」
「できれば4日ほしいが贅沢は言うまい。3日だ。副官、避難民を4月10日中にはシバスに必着するよう誘導せよ」
「了解です」
「われわれも4月10日中、遅くとも4月11日午前中にはシバスに到着することを目標とする」
「了解です。それでは3日分、いや、2日半分の糧食と可能な限りの矢を大至急集めてください。僕が収納します」
「了解だ。副官、1時間で頼む。それとな、トール」
「はい」
「現時点以降、第一小隊の指揮はお前がとれ。いちいち意見具申だヘチマだと
か言ってる場合じゃない」
「中隊長!何を言っているのですか!そんな子供に---それに兵が納得するわけがありません!!」
アンナが中隊長にかみついた。
「兵は納得するぞ」とサムエル。各分隊長もやや苦笑しながらうなずく。
「各分隊長は分隊員に指揮権委譲について徹底せよ。トール、いいな」
「了解しました。それでは現時点から小隊の指揮は僕がとる。各員、僕のことを指揮官と呼ぶこと。中隊長も例外ではない。よろしいか」
「了解だ」
「あ、姉上とティアはいままでどおりでいいからね。それでは1時間後に集合、出発する。いったん解散!」
唖然とするアンナにトールが話かける。
「こんな時に大変恐縮ですが---後ほど、指揮官手当を請求させていただきます」




