第40話 ドロシー家
「ドロシー、ちょっと話があるんだが、今、いいか?」
「珍しいな、あんたが私に相談なんて」
「あんたはやめろ。親に向かってあんたっていう奴があるか。お前、一応は貴族令嬢なんだからな」
「それは、あんた---父さんが勝手に出世して勝手に貴族になっただけだろう。私は貴族令嬢なんて柄じゃない」
ドロシーの父、ロトは平民でありながら辺境伯軍第一大隊第一中隊長の職にある。
これは実力主義がモットーである辺境伯軍においても異例の出世であった。
辺境伯軍、というよりバルト王国において、将校は騎士爵に叙爵される。
ロトが小隊長に任官した際、この騎士爵となり、一代限りとはいえ、貴族の末端に叙することとなった。
さらに中隊長に任官した際、準男爵に昇爵。同じく一代限りではあるが男爵と同等の扱いを受けることとなった。
「お見合いの話なら断ってくれ。あと、冒険者活動は続けるからな。そもそも私が小さいときには父さんは冒険者だっただろう。なんでまたお貴族様になんかになっちまったんだい」
「見合いじゃねーよ。誰がこんなガサツな娘を紹介するか。
で、話だが、その冒険者活動に関することだ」
「やめろ、というのか」
「違う、好きなだけ続けろ。ただ、ちょっと手を貸してほしいと思ってな」
「手を貸す?軍にか?私たちが?」
「ああ、おまえのパーティに新しいメンバーになった奴、クレアとかいう娘っ子とトールとかいう坊主の手を借りたい」
「---ギルドマスターから聞いたのか」
「ああ、古くからの付き合いだからな。正式にはギルドを通じて依頼するが、まあ、その意向打診という奴だ。ギルドマスターはお前が了承すれば、この話を受けると言ってくれている」
「トールの収納が欲しい、ということか。あいつ、運び屋にはなりたくないと言ってるぞ。
なんでも運び屋になると嫁さんと心中するはめになるんだとさ」
この設定、いつまで生きているんだろうか。
「なんじゃそりゃ?なんで運び屋が嫁さんと心中しなきゃいけないんだ」
「知るか、本人がそう言ってるんだ。とにかくトールが運び屋になることは---」
「違う」と食い気味にロト。
「収納もまあ、魅力的ではあるが今回期待したいのはスカウト能力だ」
「スカウト能力?」
「ああ、あの二人が参加してから、お前のパーティ、魔獣の獲得数が格段に増
えただろう」
「---まあな」
「そのせいで、お前のパーティの娘っ子たち、この冬はうちで面倒を見なくて
もすんだな。
それはそれで少しさびしい気もしたが、まあ、それはそれとしてだ」
「エロおやじ」
「エロ?おい、あの娘っ子たちをそんな目でみたことはないぞ。ただ、ちょっと家が賑やかになるというか、華やかになるというか」
「父さん、早く再婚しろ。副官のアンナさんなんかどうだい。ちょっと年が近すぎてお母さんと呼ぶのははばかられるがな」
「な、何を言ってるんだ!アンナとはそんな仲じゃない!大体お前のような娘がいるとこにアンナに来てもらうことなんて---」
「---そこまで動揺するなんて、まさか図星か?娘とたいして年が違わないのに」
「お前が言い出したことだろうが!ちょっと待て、話が盛大にそれた。ちょと落ち着こう」
「父さんが落ち着け」
「ああ、わかった。今、落ち着いた。今の俺は氷のように冷静だ」
「---本当に落ち着いたのか」
「氷のように冷静な俺は話しをもとに戻す」
「---どうぞ」
「クレアとトールがパーティに参加してから魔獣の獲得数が格段に跳ね上がった。OK?」
「---OK」
「魔獣を倒す力があることもさることながらだ、まあ、倒すことならば俺たちにもできる。OK?」
「まあ、軍隊だからな、力があるに決まっている。OKだ」
「ただし、魔獣を見つけるのは軍ではむずかしい。ギルドマスターに言わせると、あの二人は魔獣の探査能力が格段に高いとのことだ。そうでなければあのペースで魔獣は獲得できないと。OK?」
「マスターの奴、余計なことを---OKだ」
「ということでその探査能力が欲しいということだ。ところで、そんなに探査能力は高いのか?」
「ああ、高い。なんでも母親が腕利きのスカウトだったらしい。その母親に教えを受けたと言っていた」
「母親が冒険者だったのか。どこで活動していたのか聞いているか」
「ここで。シバスで活動していたと言っていた。たしか、ナミとかナオとかいう名前だったか」
「ナミ---ナオ---ナオ!?『暁の星』のナオか?」
「そんなパーティ名だったような---知り合いか?」
「直接話をしたことはないがな。冒険者仲間では有名だった。A級パーティ暁の星。魔術師のアリスとスカウトのナオ。あこがれだったなあ」
「---遠い目をするな」
「いかん、また話がそれた。で、だ。俺としてはクレアとトールを軍に同行させたい」
「トールはまだ成人していないぞ。クレアだって、今年16歳になったと言っているが本当のところは怪しいもんだ。そんな子供に力を貸せなんて---ギルドマスターも良く承知したもんだ」
「そう言うな。二人の安全は保証する。優秀なスカウトが必要なんだ」
「そこまでしてなぜスカウトを---魔獣の探査?まさか---」
「---」
「スタンピート?」
「その調査だ。ちょっと魔獣の動きが怪しいという報告があってな。ギルドマスターも最初は渋っていたが、スタンピート対応であれば、やむを得ない、とな」
「わかった。トールたちに話をとおして見る」
「ありがたい。トールたちはこの依頼、受けると思うか?」
「金次第だな。あいつ結構がめついところがあるぞ」
「そうか、まあそれについてはアンナに交渉させるとしよう」
「それとだ。もしもトールが受けたらば私も同行する。それが条件だ」
「---まあ、いいだろう。そのほうがトールたちも安心するだろうからな」
「あと---」
「まだ何かあるのか」
「驚くなよ、もれなくちびっ子がついてくるからな」




