第38話 冒険者活動4
シバスの街、冒険者ギルド。
夕刻というにはまだ早い時間に一つのパーティが帰ってきた。
「よう、ドロシー。随分と早いご帰還じゃないか」
中年、というには若干若い男性冒険者がドロシーに声をかける。
男性冒険者はドロシーの後ろを歩くパーティメンバーをちらっと見た。
「ガキどもの面倒をみるのも大変だな」
「---まあな」
苦笑しながら答えるドロシー。こっちが面倒を見てもらった、と言っても信じないだろうと思いながら。
「ご苦労なこって」
そう言いながら去って行く男性冒険者。
「随分と早いお帰りだね、ドロシー」と受付嬢。クレアの冒険者登録をした、確かアンナと呼ばれていた受付嬢だ。
「買い取りだよね。薬草?」
「ああ、それとちょっとした大物だ。奥に直接持っていくよ。空いているかい?」
奥には買い取り専用の窓口がある。薬草などの小物はアンナたちのいる通常受付で引き取るが、大型の魔獣は専用窓口で査定を受けることになる。
ドロシーたち一行は、奥にぞろぞろと進んでいく。
「ドロシーじゃないか、珍しいな、こっちに来るのは」
買い取りカウンターにいるのは、がたいのいい初老の男性。冒険者あがりのようだ。
「おひさしぶり、グレックさん。早速だけど、いいかい」
「おう、ものはなんだ?」
「先ずは薬草」
ドロシー、ミリアム、スザンナ、エリーの4人は、それぞれの荷物から薬草を取り出し、カウンターの上にのせる。
「おい、結構な数だな。連泊したのか」
「ちょうど60本、群生地を見つけたからな」
連泊したともしないとも答えないドロシー。
「それで?」買い取りカウンターの受付、グレックが促す。数が多いとはいえ、薬草の買い取りだけなら通常受付のカウンターで対応できる。買い取り専用カウンターに来たということはそれ以外の買い取り品があるはずだと。
「ボア」とドロシー。「ここに出していいかい?」
「ボア?どこにある---おい、まさか」
グレックがクレアとトールを見る。
「ああ、収納持ちだ。男の子のほうがな。結構な大物だが---ここに出していいのか」
「出してみろ」とグレック。
ドロシーがトールに目で促す。
「はい」トールがにこにこしながらボアをカウンターの上に出す。
「ちょっと待て!いったん収納できるか!?」
予想よりもはるかに大きなボアに驚くグレック。トールは素早く収納。
「こっちで解体する、ということでいいな。じゃ、解体場で出してくれ」
今度はグレックを先頭にぞろぞろと進んでいく一行。
トールはグレックに促され、ボアを解体場の一角で出す。
「---かなりの大物だな。200kgはある。毛皮は---無傷か。どうやって仕留めた?」
グレックがドロシーに問う。
ドロシーは目線をトールに向ける。
「この坊主が仕留めた---ということか」
「はい。ストーンバレットです」
トールがボアの眉間にあいている穴を指さしながら答える。
「中級の石魔術か。たった一撃で。それにこいつ、グレートボアだろ。魔獣だろ。おい、坊主。おまえ何歳だ?」
「10歳です」
「10歳でグレートボアを収納できる容量をもった収納持ち、その上、一撃でグレートボアを倒せる石魔術使い---」
「ああ、規格外だろう」とドロシー
「どうするんだよ、この坊主」
「うちらのパーティの補助者---ということにするつもりだが」
「どっかの商家に売り込めば、楽して稼ぐことができるぞ」
「単なる運び屋になるのは嫌だそうだ。それに---何やら嫁さんと心中することになるらしいぞ」
「なんだそりゃ?」
「知らん。トール、この子の名前だが、トールがそう言ってるんだ」
「まあ、冒険者を続けるのならば、ドロシーに面倒を見てもらうのがいいだろうな。いろいろな意味でな。あと、悪いがこのことは上に報告するぞ」
「まあ、仕方ないな。なるべく情報は広めないように頼んどいてくれるとありがたい」
査定が終了し、報奨金を受け取った一同はギルド通常受付の隅にある打ち合わせコーナに集った。
ここでは夜になれば酒を提供されるが、まだ早い時間なので酒は出されていない。
「さて、精算だ」とドロシー。
「先ずは薬草60本。1本が銀貨3枚だから全部で金貨1枚と小金貨8枚」
「おお~」と『百合の乙女』の一同。
「これについてはクレアとトールに半分、残りを私たち4人でわけることとしたい。
トールは荷物もち、水の供給、宿泊場所の確保、夕食と朝食の供給。さらに薬草の群生地まで見つけたんだ。少し私たちの取り分が多いかもしれない---」
活動の2日目、トールは魔力感知により薬草の群生地を見つけていた。
当面、薬草採取は相当楽になりそうだ。
「いや、それはダメです」とトール。
「やはり私たちの取り分が多い、ということか」
「いいえ、契約に違反しています」
「契約?」
「最初の取り決めでは人数割り、ただし僕は人数にカウントすることはない、と決めたはずです」
「ああ、そうだ。だがな、取り決めた時にはトールの力を知らなかったから」
「契約は契約です。薬草60本を5人で割り一人12本。1本あたり銀貨3枚だから銀貨36枚。つまり小金貨3枚と銀貨6枚。
これを僕以外の方々が受け取るべきです」
「随分と計算が速いな。おまえ、商家の出なのか?てっきり貴族家だとばかり思っていたが」
「義父が商家に連なるものでした。契約遵守も義父の教え。万一、僕が契約違反をしたことが義父に知れたらば一体どうなることか---とにかく、これだけは譲れません」
「なにやらすさまじいお父上だな」
「はい、本当にすさまじいものでした」とトール。
「義父と変な契約を結んだらばそれこそ取り返しがつかなくなるのですよ。一番の犠牲者は母でしたが」
「---おまえの家が複雑だということはわかった。いいだろう、トールのお父上の教え通り契約遵守でいこう。クレア、お前もそれでいいな」
「もちろんです」とクレア。
「では次にだ、ボアの報奨金が金貨6枚と小金貨4枚。解体費を差し引いたあとの金額だ」
「すごい、私たちの半月分以上の稼ぎだ---」とエリー。
「ああ、毛皮の状態が良かったのと魔石がかなり大きかったらしい。で、だ。これは全額クレアとトールのものだ。私たちが全く知らないうちにクレアとトールが狩猟したのだからな」
薬草の群生地を見つけた後、トールは、ちょっとその辺をぶらついてきます、とクレアを伴い別行動。
1時間もたたずに帰ってきた時、大物を仕留めました、とドロシーに報告しつつ収納からボアを出した。
ドロシーたちが絶句したのは言うまでもないことだ。
「でも契約では---」
「契約、まあ口約束だが、そのときの取り決めは薬草採集を行うということだったよな」
「はい」
「薬草の群生場を見つけたあと、クレアとトールは別行動をとったよな。あれは一時的にパーティ活動を離脱したと考えられるが、どうだ?」
「そのように解釈することも可能かと」
「であれば、お父上に知られたとしても叱られることはあるまい」
「承知しました。それではお言葉に甘えてそのように」
「では、これで解散だ。予定通り明日は休み。あさっての夜明け前に北門に集合。クレアとトールも集合しろ。途中まで同一行動とし、町を出てから別行動とする。私たちのパーティ『百合の乙女』を離脱したと思われたらば、余計なちょっかいを出す奴らが出てくるからな。
私たちは当面、群生地での薬草採取を行う。2日目の午前中、なるべく早い時間に合流し、帰還時は同一行動、ということでいいか」
「はい、わかりました。ご配慮、感謝します」
「なあに、3回に1回は同一行動だ。そのときは儲けさせてもらう。その報酬だと思ってくれればいい」
「それでも感謝しかありません」
「ところで」とドロシー。
「とりわけた肉のかたまり、そう、今収納しているやつ、それどうするんだ?二人で食べるには多すぎると思うが」
トールは、査定の際、ボア肉の上質な部分5kgほどをとりわけるように依頼し、それを収納していた。
「餌付けです」
「は?餌付け?」
「はい、餌付けです」




