第35話 冒険者活動
辺境伯領都であるシバスの町北門、夜明け前。
冒険者ドロシーは、すでにトールとクレアが門の前に立っているのを認めた。
「うん、時間前に集合しているのは感心---え?ちょっと待て!」
クレアは腰にレイピア1本を差しているだけ。トールに至っては完全な手ぶら。
ドロシーは二人の前に歩み寄り話しかける。
「途中一泊する、と言ったよな」
「はい」トールがニコニコしながら答える。
「薬草を採取する、とも言ったよな」
「はい」
「野営の準備はないのか。薬草を入れる袋もないのか。食料は?水筒も持たないのか。私はおまえたちの従者ではないぞ。全部私たちに頼るつもりか」
「いいえ、そういうわけでは」
「ドロシー、置いていこう」
ドロシーの後ろを歩いていたミリアム、スザンナ、エリー。
「だから言ったのよ。足手まといになるって」
エリーがここぞとばかりに言い放つ。
「大丈夫です」トールはあいかわらずにこにこしながら応える。
「あんた、何言ってるの!何が大丈夫なのよ!」
エリーは切れかかっている。いや、すでに切れている。
「だから貴族のおぼっちゃんとお嬢ちゃんなんかと---」
「収納なの~?」ミリアムがほんわかと問う。
「はい」トールがうれしそうに応える。
「クレアちゃん?トールちゃん?」
「僕です」
「なるほどね~」
言葉少ないが、ミリアムは完全に納得した模様。
「ちょっと持ちな」とドロシー。
「トール、あんた、収納持ちかい?」
「はい」
「二人分の荷物を収納できるのか---そこそこの容量があるな。
なぜ冒険者に?商家にいけば重宝されるだろう。食うのに困らない」
「単なる運び屋としてこき使われたくないんです、それに---」
とトール。
「嫉妬に狂った僕は奥さんを殺して自分も死ぬことになるので」
その設定、まだ生きていたようだ。
「なあ、ミリアム。この子の言っていること、理解できるか」とドロシー
「運び屋さんでこき使われるのは嫌みたいね~。奥さんと心中するって、どういうことかなあ~、おねえさん、ちょっとわからないかな~」
ドロシーがクレアを見る。クレアは困ったように首を横にふる。
その設定はクレアに共有されていない模様。
「とにかく」とトール。
「一応の準備はしています。経験が少ないので完全かどうかはわかりませんけど」
「そうか」
「あと、少しだけ収納に余裕があります。ミリアムお姉様、よろしければ荷物、預かりましょうか」
「うん、お願いしちゃおうかな~」
ミリアムは背負っていた荷物をトールに渡す。トールはそれを収納。
「よろしければドロシーお姉様、スザンナお姉様も」
「助かる」
二人の荷物も収納。
「じゃあ、行きますか」
「ちょっと待てい!」とエリー。
「なんで私だけ荷物を持ったままなのさ!」
「え~、エリーさんもですか」
「だから何で私だけお姉様じゃないのよ!」
ぷんすかしながら荷物と武器の槍をトールに差し出すエリー。
「武器はダメですよ、手元に置いておかないでどうするんですか」
バカなの、という目つきでエリーを見るトール。それでも素直にエリーの荷物を収納するトール。
出発して2時間ほどたった時、ドロシーが小休止をとる旨を皆に伝えた。
「いや~、荷物がないって、こんなに楽だったのね」とエリー。
「トールちゃん、すごいね。おねえさん、うれしいよ」
「すごい手のひら返し」クレアがつぶやく。
「まあ、そう言うな」ドロシーが苦笑しながら言う。
「根は悪いやつじゃないんだ。ただちょっと、素直すぎるというか考え無しに言ってしまうというか---」
「う~ん、つまりはお子ちゃまということですね」とトール。
ドロシー、ミリアム、スザンナの3人はうん、うんと首を縦にふる。どうやら的確な表現だったらしい。
「お子ちゃまって何よ!トールちゃんよりずっとおねえさんなんだからね!」
「年上であることは承知していますが、断じてお姉様ではありません」
「何でよ!?ドロシーも、ミリアムも、スザンナもお姉様って言っているのに。何で私だけ」
トールはふっと笑い、エリーから目線を外す。
「何よ、その笑い方!まるで私がだだをこねてるみたいじゃない!」
みたい、じゃなくてだだをこねてるんだよな~。
「荷物を返してくれるかなあ~」とミリアム。
「おねえさん、お水が飲みたいの~」
「あ、給水ですね。もしよろしければ」とトール。
収納から大きめのカップを取り出し、各人に渡す。その数は人数分の6個。
「(クリエイトウオーター)」
水魔術初級のクリエイトウオーターを無詠唱で発動、すべてのカップに水を注ぐ。
「どうぞ」
促されたが先輩冒険者4人は固まったまま。
トールとクレアが水を飲むのを見たあとに、おそるおそる口をつける。
「おいしいね~」
「うわ、冷たくておいしい!」
「クリエイトウオーター---なのか?これがあれば水場に寄る必要がないか」
「すごい!すごい!トールちゃんすごいよ!おねえさん、感動しちゃう!」
トールはにこにこしながらも
「エリーさん、あなたは僕のお姉様ではありません」
なぜかそこは譲れないらしい。
夕方、というよりも早い時間。わずかに太陽が西に傾いた時に一行は宿泊を予定していた空き地に到着した。
「ここで野宿の準備をする」とドロシー。
「荷物を持たないですんだからかなり早く着いたな。予定どおり宿泊の準備が終わったら、薬草の採取をする」
今日は軽く採集、翌日早朝から本格的な採集を行いシバスの町に夕刻に帰還というスケジュールのようだ。
ドロシーはトールに4人の荷物を出すように要求、トールは荷物を4人に返した。
「うちらはテントを張って宿泊、といってもまあ仮眠をとる程度だが、おまえたちもテントを張るのか。
うちらのテントはぎゅうぎゅうにつめて3人がやっと入るだけ。あとの一人は交代で見張りをするのだが」
「僕たちは小屋で寝ます」
「小屋?」
「はい、今から作ります」
土魔法発動。床を作った。壁を作った。屋根を作った。小屋の完成。
「---」
『百合の乙女』の4人は再び固まる。
「ちょっと大きめに作りましたから、全員入れますよ。テントよりは快適だと思いますが」
「土魔法---なのか。中に入ってみてもいいかな」とドロシー。
「もちろんです」とトール。
中はおおよそ8畳ほどの広さ。詰めれば6人が入れなくはない。
「結構頑丈なんですよ。見張りはいらないですよ。
僕たちも旅の途中で野宿をしたけど、見張りは立てていませんでした」
「入り口が開いたままね~。危険じゃないの~?」とミリアム。
「塞ぎます」
「え~?」
「寝るときには入り口を塞ぎます。ほら、今塞いだら出入りができないじゃないですか」
「---何でもありだな」
「じゃあ、これで野宿の準備が終了ということで。薬草の採取をしましょう!薬草の採取をするのは初めてなんですよ、ああ、楽しみだなあ」




