第34話 シバス孤児院
「それでは些少ではありますが、これをお布施としてお納めいただければ」
クレアが布袋を差し出す。
「失礼」
受け取った聖職者は、布袋の口を開いて中身を改める。
中には10枚ほどの金貨。日雇い労働者の3~4ケ月分の収入といったところか。
なお、出所はクレアの護衛兵士、分隊長と言われていた者の懐にあったものである。
「大変失礼ながら、いささか額が少ないのですが」と聖職者。
「そう言われましても---」戸惑うクレア。
「先ほど申し上げたとおり」とトールが聖職者に話しかける。
「僕はすでに10歳。再来年の正月には孤児院を出ることになります。つまりこちらには1年半もいないことになります。それに---」と話を続ける。
「姉は冒険者として活動し、僕はその補助者として働く予定です。実際に孤児院のご負担になることはないかと考えます」
「ふむ、それでは孤児院に入る---シバス孤児院の孤児として登録する必要はないのではありませんか」
「いえ、登録することが重要なので---」
「そういうことですか」
「はい、そういうことです」
「お若いのによくご存じで」
「養父と母から聞き及んでいましたので」
シバス孤児院。一部貴族の間ではこう言われている。
「貴族子弟の最後の逃げ場所」と。
犯罪(含む冤罪)等により一族の処刑が免れない状態になった時、成人前の子弟をシバス孤児院に預ける。すると、孤児院はその子弟の身分を隠し、孤児として12歳まで育てる。
12歳になり、孤児院を出る際には「シバス孤児院出身」という身分が与えられ、実家のくびきから解放されることとなる。
また、反乱等よほどの重大犯罪でなければ、王家・辺境伯家等の行政機関も、「孤児」たちの過去を追求することがない。
幼い子を処刑するのははばかれるという行政側の意図もあり、この「シバス孤児院」のシステムが成立している。
あの紋章はイズミール伯爵家のものではなかったか?
少女が手にしているレイピアをちらりと見て、聖職者は心の中でつぶやく。
イズミール伯爵家で代替わりがあったと聞いている。
正式には兄から弟へ禅譲したことになっているが裏ではなにがあったかわからない。
まあ、いい。余計な詮索はするものではない。
「よろしいでしょう」と聖職者。
「トール殿を孤児として登録いたしましょう。そちらのお方は登録不要でよろしいですな」
「はい、私はすでに15歳になっておりますので」
「承知しました。では、トール殿。せめて今晩の夕餉を共にし、一泊していかれなさい。よろしければそちらのお方もご一緒に」
食事と宿を提供するのは今回限り。暗にそれを匂わせながらトールたちを夕餉に誘う聖職者であった。




