第32話 旅の途中2
「私の事情は以上のとおりです」とクレア。
「ふ~ん、大変だったねえ。で、これからどうするの。何かあてがあるの」
「---全くありません」
「そう。僕はこれから辺境伯領に行く。もしよかったらクレアお姉さんも僕と一緒に辺境伯領に行かないかい」
「ありがたいお言葉ですが---私はあなたのお名前も、あなたがどのような方なのかも存じていません」
トールがどこかの貴族子弟であると思い込んでいるクレアはトールに対して丁寧な貴族語で話をしている。
「あ、ごめんなさいクレアお姉さん、僕の名前はトール。出自は開拓村の三男だよ」
両親のこと、トーマスさんとナミさんのこと、飢饉のこと。
トールは嘘偽りなくクレアに語った。ちなみに転生者であることは話していない。
「---トール様がそのようにおっしゃるのであればそういうことにしておきましょう」
クレアはトールの言葉を全く信じていない模様。
「いや、本当のことなんだけど---」
「はい、承知しました」とクレア。やはり信じてはくれないようだ。
「ところで、何故あのようなところにおひとりでいらしたのですか」
「それはねえ」正直に言うから僕のことを嫌いにならないでね、クレアお姉さん、とトール。
「僕のような10歳の少年が、あ、僕10歳だよ。クレアお姉さんの2つ下。で、10歳のいい服を着た少年が夜中に歩いていたとしよう」
実際に歩いていらっしゃいましたよね。
「そこで、悪い人に出くわしたとしよう」
ふむふむ。
「悪い人は何をするかなあ」
まあ、身ぐるみ剝ぐか、拐かすかのどっちかですね。
「そうなんだよ。結構、世の中には悪い人がいっぱいいてねえ。本当に治安が悪いんだから」
で?
「途中まで無抵抗のままでいて、それから反撃する。僕、こう見えても結構強いんです」
存じています。戦士を簡単に、あっという間に倒すのですから。それに私を抱えたまま宙を跳べるし。
「そして慰謝料を請求する」
は?
「強盗未遂あるいは営利目的の誘拐未遂により被った精神的な負担に対する慰謝料請求です。正当な請求です」
精神的負担---ですか。
「そう、か弱い少年が襲われたことにより生じる恐怖、それによって生じるかもしれないトラウマ。それに対する慰謝料請求」
かよわい---ですか。恐怖---ですか。請求とおっしゃりますが、要するに---ですね。
「そう。作戦名はおぼっちゃまがら---」
「お待ちください!そのお言葉は危険です!!」
「え?タヌキじゃなきゃ大丈夫じゃない?それに多分わからないよ、もとね・・・」
「元ネ・・・などと口に出してはいけません!!」
これからのことは、明日になってから話し合うことにし、先ずは寝ることとした。
当然のごとく、僕は寝袋で寝るだのそういうわけにはいきませんわだのという
お約束のやりとりがあったが、結局はお約束どおり2人ともベッドで寝ることとなった。
翌朝
クリーンをかけてからの朝食の後。
「トール様、辺境伯領に行った後、どのようにして過ごされるのでしょうか」
「うん、冒険者になるつもり」
「さようですか。私はトール様と違い魔術を使うことができません。辺境領で トール様をお助けすることはできませんね」
「クレアお姉さん、魔術を使っているじゃない」
「え?」
「身体強化。そうじゃなきゃ12歳の女の子が剣で兵士に勝つことなんてできないよ」
「---そうでしたか」
「クレアお姉さん、結構な魔力量があると思うよ。多分、少し訓練すれば魔術の発現、つまり火魔法を使ったり水魔法を使ったりすることができると思うよ」
「それでは、私も辺境伯領で冒険者になれると」
「なれるなれる。一緒にパーティを組もうよ」
「承知しました。それではご一緒させていただきます。ふつつかものですがよろしくお願いします」
「え~と、少し言いにくいんだけど、クレアお姉さんにお願いがあります」
「何なりとお申し付けくださいませ」
「クレアお姉さん、15歳ということにしてくれないかなあ」
この世界での成人は15歳。男女にかかわらずだ。15歳にならないと結婚ができないし、冒険者として登録することができない。
「クレアお姉さんが冒険者として登録してくれれば、僕はクレアお姉さんの補助者としてパーティ活動ができる。大丈夫、クレアお姉さんは大人っぽいから、15歳で通じるよ」
「大人っぽい---大人の女---」
この言葉がどういうわけかクレアの琴線に触れた。にまにましてしまいそうなのを無理やり抑えるクレア。
「承知いたしました。私は今、この時をもって15歳になりました」
「あと、クレアお姉さんは僕の姉ということにしたいと思う。ほら、赤の他人
である10歳の子供を補助者にするのは少し無理があるから」
「承知しました」
「僕はクレアお姉さんのことを姉上と呼ぶね。クレアお姉さんは僕のことをト
ールと呼び捨てにすること。もちろん敬語はなしで」
「承知いたしかねます。トール様のことを呼び捨てなどできません」
「---」
「では、このような設定はいかがでしょうか」
・表向きは開拓村出身。近所に住む血縁者(はとこくらいの設定がよろしいかと存じます)で幼いころからトールはクレアのことを姉として慕っていたこととする。
・裏の設定を以下のとおり設ける。
1)血縁者であることは表向きと同様。ただし、出自は某貴族家(伯爵家くらいが妥当かと存じます。具体名を取り決める必要はございません)とする。
2)トールの家が主筋にあたるので、クレアはトールのことを様付けで呼び、敬語も使っている。
3)トールは兄弟に女性がいないためか、クレアに甘えることが多く、そのせいでクレアのことをクレアお姉さまとよんでいた。トールが長じると大人っぽい言葉使いをするようになり、「姉上」と呼ぶようになった。
4)ある時、とある事情(私が意に沿わぬ結婚---父親よりも年上の方の第三夫人になりそうだったという設定は如何でしょうか)から、私は家から飛び出し、トール様が私を慕ってついてきた。
・常日頃は表の設定で取り組む。これに怪しまれた際には裏の設定を念頭において対応するが決して裏の設定を話さない。なお、裏の設定に誘導することは可。
「如何でしょうか」
「---」
「ダメ---ですか」
「---クレアお姉さん、いや、姉上。あなたは天才だ!それでいきましょう!!」




