第30話 旅の途中
第2章です
辺境伯領にほど近い中堅都市エルズム。真夜中の街路を、ひとりの少年が歩いていた。
年の頃は10歳くらいか。こざっぱりした服を着ている。
裕福な商家の子弟か、それとも貴族の子息がお忍び出歩いているのだろうか。
そのような者がこの時間に出歩くはずはないのだが。
少年は、何かの気配をふと感じ、ニャッと笑い独り言を言った。
「金の気配がする」
少年は気配のもとに駆け出した。
そこで見たのは剣を持って対峙している一人の少女と二人の男。
少年は迷わず声を上げる。
「おねえさん、助太刀しましょうか」
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追いつかれてしまった。
クレアはやむを得ず剣を抜き、男二人と対峙した。
相手は正式な訓練を受けた兵士。12歳の少女であるクレアは圧倒的に不利であるが---
勝てない相手ではない。
クレアも剣の訓練を受けた身。道場では兵士を相手に何度か一本を取ったことがある。
クレアは相手一人のふところに飛び込むように急接近。
あわてて突き出された相手の剣を跳ねのけ剣で相手の腹を薙ぐ。
抜き胴。
道場であれば、鮮やかな1本と判定されたであろうが---
『クッ!』
剣が何かに跳ね返された。相手は鎖帷子を着込んでいたのか。
ダメージをあたえた様子は全くない。実戦経験がないことが災いしたか。
「おいおい、なにやってるんだよ」
「あ、ああ。ちょっと油断した」
再び二人と対峙するクレア。
一人がクレアの正面に立ち、もう一人がクレアの側面から後方を窺うかまえ。
『これは勝ち目がないか』
クレアが絶望に呑まれかけた、その瞬間だった。
「おねえさん、助太刀しましょうか」
突然、声をかけられた。
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「逃げなさい!」叫ぶクレア。
「逃がすか!」クレアの側面に回りこもうとしていた男がトールに駆け寄り剣を構える。
「悪いな、坊主。死んでもらう」
少女を襲ったことを目撃されるわけにはいかないということか。
「おじさんたちが悪者だということだね」
トールはにこにこしながら言った。
「あ~、よかった。おねえさんは悪者じゃないんだ」
まあ、おねえさんが悪者だとしても、多分、おねえさんのほうに助太刀したんだけどね。と、のほほんとしながら言い放つトール。
あの子を殺されるわけにはいかない。
そのためには、この相手を一撃で倒し、あの子のもとに行かねばならない。
クレアは対峙する相手だけに意識を集中させた。周りの景色も、音も、気配も遠のいていく。
代わりに相手の息遣い、筋肉の動きが手に取るようにわかる。
明鏡止水---。
対峙する相手はトールがいるほうをチラッと見る。そして、何か驚いたような
表情を浮かべ、二度見する。完全なまでの隙。
クレアはその隙を逃すことなく突きを繰り出す。
剣は過たず、相手の喉笛を掻き切った。
『よし!』
間に合え!とトールの元に駆け寄ろうとした瞬間、クレアは驚きのあまり動きを止めた。いや、動きが止まってしまった。
「お見事!」
クレアが見たのは、にこにこと笑う無手の少年と、その足元で仰向けに倒れている男の姿だった。
「どうやって?いや、そんなことより早く逃げなさい!」
「え~っと、おねえさんはどうするの?」
「私も逃げる!逃げるから早く!」
「そのかっこうで逃げるのはお勧めしないなあ」
クレアは寝間着姿。貴族が身につけるような高級品であることが一目でわかる。
足は裸足。靴を履く間もなく逃げたしたということか。
その格好と、手にした剣。その取り合わせは、どうにも場違いだった。
「荷物はどこに?」
「宿に、でも宿には敵が」
「何人?」
「え?」
「敵は何人?」
「8人、8人もいるんだ!全員兵士だ!」
とクレアは叫び返したあと、
「いや6人、今2人減ったから6人」と訂正。
「6人とも宿にいる?」
「いや、私を探しているはずだから、多分残っているのは2人。でも、すぐに戻ってくるかも知れない!荷物を取りにいくことなんてできない!」
最悪でも兵士6人か。まあ、問題ないな、とつぶやいたトールは
「ちょっと待ってて、あ、剣は鞘に納めといてね」
トールは倒れた男を収納し、さらにもう一人も収納した。
「え?」
「失礼しまあす」
クレアのもとに近づくとそのままクレアを抱き上げる。いわゆるお姫さま抱っこというやつだ。
「ええ?」
自分よりも小さい少年からいきなり抱きかかえられて戸惑うクレア。
「ごめんなさい、このほうが早く動けるから」
セクハラじゃないよ、と訳の分からないことを言ってからトールは重ねて尋ねた。
「宿はどっち?」
あっち、と宿の方向を指さしたクレアは自分の体が宙に浮き、急激に動き出すのを感じた。
「ええ~!」叫ぶクレア。
「お願いだから静かにして」と言うトール。
クレアから荷物がおいてある部屋は二階の角部屋であると聞いたトールは、クレアを抱えたまま、その部屋の窓に重力軽減を使い飛びつく。幸い窓に鍵はかかっていない。
そっと部屋に侵入した二人。
「早く着替えて。靴を履くのを忘れないで。僕は下を見てくる」とトールがささやく。
着替えているところをのぞき見しないから安心してね、とウインクをしてから部屋を出るトール。
クレアは先ず、靴を履く。
次に、動きやすい騎士服に着替える。
着替えている途中で一階からゴトン、ゴトンと何かが倒れるような音がする。
着替えの最中に部屋を飛び出すわけにはいかない。まずは着替えを終えるべきだ。
着替えを終え、剣を手に部屋から飛び出そうとしたその時、
「おねえさん、着替え終わった?」と、どこかのんびりした声をかけるトール。
クレアはうなずき、「下の様子は?」とささやくように問いかける。
「二人いたけど、もう大丈夫。じゃあ、逃げる前に---」
クレアの荷物を『収納』するトール。
「このベッド、なかなかよさそうだね。もらっていっちゃおう」
ベッドを収納するトール。
「---」クレアは無言。
「それじゃ、逃げるよ」クレアをお姫様だっこするトール。
「窓から?」
「うん、窓から」
「飛ぶの?」
「飛ぶよ」
「---わかった」
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「ダメだ、見つからん」
兵士二人が宿に戻ると、そこには同じく少女を探していた二人が立っていた。
「見つかったか」
「いや---」
「分隊長は?」
「---いない」
「いないって---エズラ達は」
「わからん、戻ってない」
ということは---。
「あいつら!とんずらしやがったな!!」
その後、宿の主人から宿泊代はもちろんのこと、消えたベットと、消えた朝食の仕込み(朝食はパンとスープの予定であった。スープは鍋ごとなくなっていた模様)の代金を請求されることを男たちはまだ知らなかった。
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「このあたりで一休みしようか」
重力軽減で窓から飛び出し、その勢いで城壁を飛び越え、さらに街が見えなくなるまで跳んでいたトールは、お姫様だっこをしていたクレアを地面に降ろす。
「ちょっと待っててね。今、小屋をつくるから」
「---小屋、作る」と無表情でオウム返しをするクレア。もう、驚くという感情はどこかに行ってしまったようだ。
トールは土魔法で、地面を平にする。いや、床を作ったと言う方が正確か。
続けて、四方の壁。さらに屋根。小屋の完成。
「できたよ。さあ、入って」
クレアはトールの後に続き小屋の中に入る。部屋は六畳ほどの広さ。
トールは部屋の隅に収納したベッドを出す。
「そこに座って、あ、その前に---」
トールはクレアと自分にクリーンの魔術をかける。
クレアは言われたままにベッドに腰掛ける。
「先ずは食事にしようか。あ、しまった!失敗した!!」
何事かとクレアは目を瞬かせる。
「テーブルとイスももらっておけばよかった」
まあ、しょうがないかあ。と言いながら、トールは大きな鍋を出した。中には二十人前ほどのスープが入っている。
『マイクロファイア』トールは豆粒、いや、米粒程のファイアボールを鍋の中に入れる。
鍋からは湯気。トールは取りだした椀にスープを入れる。
「ううむ、スプーンが---ない」
トールは悔しそうに言いながらスープと、どこからか取り出したパンをクレアに渡す。
「いろいろと足りないけど---まあ、食べて食べて」
こうやってパンをスープに浸して食べるといいよ。このパン、少し、いやかなり硬いから、とトールはパンを食べる。
クレアもトールを真似てパンを食べる。
小屋の中に入ってから、クレアはずっと無言のまま。
「それで、おねえさん」2人が食事を終えたとき、トールがクレアに話かける。
「クレア」
「え?」
「私の名は、クレア」
「うん、わかった。クレアお姉さん」にっこりと笑い言うトール。
何故かクレアの胸がきゅっと締め付けらた。
「で、クレアお姉さん、いったい何があったの」




