第28話 ナオさん独白2
B級パーティ「暁の星」メンバー、スカウトのナオ。
そんな私の弱点は火力不足であった。
戦闘時、私は後衛として魔法使いアリスを守り、弓やタガーで魔物を排除する役割を担っていた。
しかし、その排除に手間取ることが徐々に増えていった。
魔物の排除が遅れた場合、中衛の僧侶カヤパが後衛のポジションまで下がり、アリスの護衛にまわる。
必然的に中衛からの攻撃が減り、前衛の負担が増す。
当然のように前衛2人から「強い指摘」があった。あったが「まあ、仕方ねえか」という空気が勝っていた。
理由はいくつかある。
私がスカウト任務をそつなくこなしていたこと、遊撃のアベルの力が強力で中衛の攻撃手数が減ったことが致命的なものではなかったこと。
そして何よりも、私がパーティの「運営」を一手に握っていたからだ。
獲物の売却交渉、必要物資の購入交渉、資金運営管理、ギルドとの交渉、そして時には貴族との交渉まで。
商家としての教育を受けていた私はこれらの業務を何とかこなすことができた。
ベテランの前衛二人も、これらの業務の重要性を理解し、多少の火力不足を容認していた。
---あれほど嫌っていた商家の修行がこんな形で役立つとは思ってもいなかった。
今から思えば、この時期が私の人生の絶頂期だったのだろう。
私の火力不足という弱点はあれど順調なパーティ活動。
女性がパーティの交渉窓口であることが稀であり、多少、いやかなりの手加減をしてくれたことによる順調なパーティ運営。
時には若い貴族との浮名が立つこともあった。
そして---
「暁の星」はA級に昇格、若干お情けがあったが私もB級スカウトに昇格した。
その結果---
私は「暁の星」での居場所を失った。
A級パーティになると、貴族・国との交渉・調整事項が格段に増える。
そのためにギルドから事務員がパーティに派遣されパーティ運営を一手に引き受けることとなる。
つまり、私の運営に関する仕事はなくなる。
さらに、事務員はパーティ構成にも「アドバイス」をする。
火力不足のスカウトを入れ替えることを強く勧めるのは当然だった。
ある日、リーダーのアベルが告げた。
「ナオ、君には3つの選択肢がある。一つ目は、『育成パーティー』で活動すること」
A級パーティは、下部パーティ、いわゆる2軍を運営することが義務付けられる。
要は、ガキどもの面倒を見ろということだ。
「二つ目は、事務方に専念すること」
つまり冒険者から引退しろということだ。
運営はギルドから派遣された事務員が仕切っている。彼らは事務処理のプロだ。
私の役割はよくて彼らの下働き。遠からず私は役立たずとして解雇されることになるだろう。
「三つ目は、このクランから離れること」
引き続き暁の星で活動することはできないのか?
「無理だ」
火力不足は認める。ただ、今までもなんとかやっていけたではないか。
「俺は、いや『暁の星』はS級パーティを目指す。君の実力でこのまま続ければ---死ぬぞ」
返事を渋っている私にアベルが言った。
「次の活動が終わるまでに結論を出してくれ。私としてはどんな形でもいいからクランに残ってほしいと思っている。それと---次の活動の際には任務に集中しろ。今まで以上に慎重にな」
「ナミ」
リーダーのアベルが立ち去りった後も呆然として椅子に座っていた私に魔法使いのアリスが声をかけてきた。
「ちょっと飲みに行こう、まあ、あれだ、女子会ってやつだ」
私はアリスに引きずられるように居酒屋に入った。
店はかなりにぎわっていた。20人前後はいるだろうか。
「おっ、二人かい。珍しいな」
「ああ、ちょっと二人だけで飲みたいんだ。奥の席は空いているかい」
「おう、空いちゃいないが、空けるぞ。それと---」
居酒屋の亭主は私の顔色を見て言った。
「あんたらに近づかないように言っておく」
「ああ、すまないね」
ほら、どいたどいた、暁の星のきれいどころに席を譲れ、と
亭主が無理やり作ってくれた席に私とアリスが座る。
「エール2つ。つまみはテキトーに。今日はとことん飲むぞ」
乾杯の後でアリスは私に顔をぐっと近づけて言った。
「話は聞いたよ」
私は黙ってうなずく。
「あんたの人生だ。あんたが決めればいいことだ。ただ、あたしとしては
事務方になってほしい」
新しい事務官の下で働くなど無理だ。
「ああ、確かにあいつは優秀だ。書類を作ったり、計算したりするのはな」
それだけではない。交渉もプレゼンも私とは格が違う。
「だけどあいつは現場を知らない。冒険者の本当の気持ちも理解できない。いつかは現場と事務方との間に齟齬が出る」
アリスは続ける。
「ナオ、あんたはB級冒険者。現場を知っているし、冒険者の気持ちもわかる。その上、事務もそこそこできる。現場の意見を事務に反映させるには、あんたがうってつけさ」
私に現場と事務方との板挟みになれと言うのか。
アリスはニイッと笑った。
「ああ、そうだよ。あたしの都合で、あたしのわがままで、あんたに苦労しろと言ってるんだ」
それは---ひどい話だ。
「決めるのはナオ、あんただよ。あたしはあたしの気持ちを伝えただけだ」
うん、あなたの気持ちはわかった。まあ、なんだ、とりあえず気にかけてくれてありがとう。
「よし、この話は終わりだ。ぱーっとやろうや」
野郎ども!と、アリスは大声で叫ぶ。
「今日はぱーっとやるぞ、あたしのおごりだ!!」
うおう!と店の客たち。
あわてて私はおごりは一杯だけだ!と叫ぶ
ぶう~!店の客からのブーイング。
わかった、わかった。酒一樽だ!一樽おごるぞ!!つまみも少しは付けてやる!!
うおう!!先ほどの歓声よりも一段と大きな歓声。
飲み食い含めて全部おごるよりはよほど安くなるのに、こいつら、何でそんなに喜ぶんだ?
「そういうところだよ、あんたの能力は」
アリスはニイーっと笑って杯を掲げた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
任務は盗賊の征伐だった。
辺境伯領都と辺境伯商業都市間をつなぐ街道で盗賊被害が頻発。
辺境伯軍による大規模な掃討作戦が実施されたがあっさりと逃走を許してしまったらしい。
このため、辺境伯からギルドへ「暁の星」への指名依頼が来た。
少数先鋭による討伐が有効であると判断したことと「暁の星」S級パーティー昇格の価値判断があったのだろう。
この活動での私のスカウトは冴えていた。あっさりと盗賊の拠点をつきとめたのだが---
「隙はないのか?」とリーダーのアベル
ない。おそらくは傭兵崩れの盗賊団であろう。警戒態勢がしっかりととられており、奇襲は困難と考えられる。
「人数は?」
二十名弱。目撃情報とも一致する。。
「傭兵崩れ二十名か---いけなくはない。強襲する」
対するこちらの戦力は、前衛2・中衛1・後衛2・遊撃1のわずか6名。
普通であればこの戦力での強襲は無理だ。だが---私たちはAランクパーティ、暁の星。
私がパーティを先導し、敵拠点を目視できる位置までたどり着く。
予想どおり敵は既に隊列を組み、迎撃態勢を整えていた。
「よし、行くぞ!」リーダーのアベルの呼びかけと同時に前衛2名とアベルが敵隊列に向かって突進、そして---
「火よ集いて敵を打て!ファイアボール!!」
魔法使いのアリスがファイアボールによる支援攻撃を実施。ファイアボール着弾と同時に前衛二名+アベルが敵隊列に飛び込む。
敵隊列はあっけなく崩れ、乱戦へ。
このような状態になると正にアベルの独壇場。槍を持つ敵の懐に飛び込み、剣で敵を各個撃破していく。
前衛2人もツーマンルールを確実に守り手堅く敵を排除。
さらに中衛の僧侶カヤパが槍で敵を牽制、後衛の魔法使いアリスのファイアボールによる支援攻撃、私も弓での支援攻撃を実施。
順調に敵を削っていきほぼ勝負が決したと思われたその時---
『つツ!』
別方向から槍兵四名が私たち後衛に突進してくる。
敵兵4名、後衛に接近!
私は大きく叫び支援を要請しつつ弓を放ち一名を無力化。
アリスもファイアボールで一名を吹き飛ばす。残り二名。
距離が詰まり、弓は使えない。弓を投げ捨てタガーを抜きアリスの前に立つ。
僧侶カヤパの支援が遅れている!
槍兵2対タガー使い1---数的不利。
上段から振り下ろされる槍をかいくぐり懐に飛び込み、首をタガーで掻き切る。残り1名。だが---
『!!』
左膝に強い熱、いや、痛みを覚える。槍の攻撃をくらってしまった。
『アリス!』
敵兵は私にとどめを刺すことなくアリスに槍を繰り出す。
魔法攻撃、間に合え!
アリスがファイアボールで敵を吹き飛ばすと同時に、槍がアリスの胸を貫いてしまった。




