第26話 開拓村からの旅立ち
トーマスさんの家の入口に、三人の若い男が立ちはだかっていた。
「爺さん、家の中をあらためさせろと言ってるんだ」
そう言い放ったのは、村長の長男であるタローだった。左右には、若い男を一人ずつ従えている。
一人はタローの弟ジロー。もう一人はトールの長兄、コタロー。
「何度も言うが断る。この家は村の中にあって村にあらず。それが村の掟となっている」
対峙するのはトーマスさん。トーマスさんの後ろにはナオさんがいる。
「俺は親父から村の者が食い物を隠し持っていないか調べろと言われている」
「だから私は村の者ではない」
「それに---」タローがニヤッと笑いながら言う。
「サブローがこの家にいると言う者がいるんだ。追放されたサブローが村にいるとなると---」
「そのような者はいない」
「だからそれを確かめさせろと言っているんだ」
「ふむ---仕方ない。では、この家の中にサブローがいないことをその目で確認すればよい」
「では入るぞ」
三人の若者が家の中へ踏み込む。だが、そこにトールの姿はなかった。
「あったぞ!」床下を探っていたコタローが、小麦の詰まった袋を引きずり出して叫んだ。
「サブローという者などいないであろう。速やかに立ち去るがよい」
「わかった。では、この小麦はいったん預かるからな」
とタロー。
「何故だ」
「食糧はいったん村長が預かることにしているんだ。これは村長の命令だ」
「村長はうち、トーマス家の食糧も徴収せよと言っているのか」
「それは---」
どうやら食糧徴収はタローの独断のようだ。
「四の五の言うな!ジローさん、持ち出そう」
食糧を持ち出そうとするコタローとジロー。
「やめろ、お前たちがしていることは盗賊と変わらん。ならばこっちも賊にあったものとして対処する」
トーマスさんはいつの間にか持ち出してきた剣の柄に手をかける。まだ抜剣はしていない。
「じじい!剣を持ち出したな!これでお前を殺る理由ができた!!」
抜剣しトーマスさんに切りかかるコタロー、あわててジローも抜剣する。
「ふっ」
トーマスさんの抜き胴。居合術か?
コタローの腹から鮮血が飛び散る。
「わ、あああ!」トーマスさんに切りかかろうとしたジローの首から鮮血が飛び散る。
そばにはタガーを振り切ったナオさんの姿。
「あ、あああ!!」
一瞬で側近2名を倒されたタロー。身を翻し家の外に出ようとするが。
「!」
前のめりに倒れこむタロー。後頭部にはわずかな大きさの穴があいている。
「ほう、これがストーンバレットか。見事なものだ」
トーマスさんには人を斬ったことによる心理的な動揺は全く感じられない。
「ちょっと面倒なことになったね」苦々しくつぶやくナオさん。こちらも動揺はなし。
軒上の梁からふわっと飛び降りるトール。
「(収納)」そして「(クリーン)」
3人の遺体を収容し、あたりにクリーンを行う。ここで争いがあった形跡は全くなくなる。
「じゃあ、これ、ちょっと捨ててきます」
「うむ」
「ああ、頼むよ」
トールは家から出て、重力低減を使用。あっという間に姿が見えなくなる。
「ふう」
ナオさんはトーマスさんに向き合う。二人はわずかにうなずきあった。
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「ということで、トール。あんたはこの村から出て行きな」
ナオさんがトールに話かける。
村長の息子とその取り巻きが行方不明となった。ひょっとするとトーマス家に向かっていたことを誰かが知っているかもしれない。そのような状況でトールをトーマス家で匿うことは困難であるとの判断だ。
「じゃあ、義父上と母上も一緒に---」
「私は残る。旅には耐えられんだろう。なに、お前に余計に与えられた命だ」
最近はトールがかけるヒールの頻度があがっていた。胸の具合が根本的に悪化しているのであろう。
「あたしも残るよ。爺さんの面倒を見なければなんないからね」
とナオさん。
「---」
うつむいたまま黙りこくるトール。
「この村を出たら、辺境伯領に行きな。あそこは実力さえあれば出自に拘る奴はそうはいない。
あんたが生きやすいところだよ、あそこは。あと---何かあったらA級パーティ『暁の星』スカウトのナオの息子だと言いな。助けてくれる者がいるかも知れない。これでも昔は少しは名を売っていたんだ」
にやっと笑って言ったナオさん。急に真顔になり、こう言い放った。
「あたしはお前のことを本当の息子だと思っているよ」
「この短剣をお前に授けよう」
トーマスさんが紋章の入った短剣をトールに差し出した。
「役にたつかどうかわからんが、なにかあったらば私の名前トーマス・ブルックを出せ。そしてブルック子爵家に連なる者であると言うがいい」
とトーマスさん。
「私もお前のことを義理の息子、いや、本当の孫だと思っている」
「---わかりました」
とトール。
「本当にお世話になりました。この御恩は一生忘れません」
「何言ってんだ。親が子のお世話をするのは当たり前じゃないか」
とナオさん。
「ほら、泣いてないで笑いな---最後にお前の笑顔を見せてくれ」
トールはうなずき、泣き笑いのような表情を作る
「それでは---トール、行きます」




