第19話 論文集1
さて、本件の結末については周知のとおりであるが、以下、その経緯と結果を要約する。
1.辺境伯家から伯爵家への謝罪要求ならびに補償要求は王家の仲介により取り下げられた。
2.これにより戦乱の危機が回避されたとの見方が広がり、小麦価格は暴落した。
*通常時の5倍程度(一時的には7~8倍)となった小麦価格が通常時の8割程度まで落ち込んだ。
3.伯爵家と伯爵家から小麦購入を要請された寄子である子爵家は高値で購入した小麦在庫を大量に抱え込むこととなった。
なお、この余剰在庫は2,400トンと推定される。この量は、仮に戦乱が起こった場合に必要とされる量の3倍程度に当たると推測される。
4.さらに伯爵家ならびに子爵家にとって悪いことに、当該年の小麦収穫が豊作となった。このため、小麦価格の低迷が続いた。
5.伯爵家ならびに子爵家は、小麦購入の債務を不履行とすることをもくろむ。しかしながら、債務の大半が辺境伯家に移転していたことから、この履行をせざるを得ない状況に陥る。
このため、伯爵家ならびに子爵家は財政破綻の危機に陥る。
6.辺境伯家は、一部債権の放棄の条件として、子爵家を辺境伯家の寄子とすることを提示。
伯爵家ならびに子爵家はこの条件をのまざるを得ず、子爵家は辺境伯家の寄子となった。
7.辺境伯家は、寄子となった子爵家の農地拡大に投資を実施した。これにより、辺境伯家の長年の懸念であった「食料不足」は完全に解決され、同家は王家に対抗しうるとされる力を持つこととなった。
<本件に関する考察>
本件が、辺境伯家によって伯爵家に仕掛けられた経済戦争であったことは間違いない。しかし、その全容については、なお不明瞭な点が残されている。具体的には、
①本件に関する王家の関与について不明瞭であること
②伯爵家ならびに子爵家が何故、必要とされる小麦量の3倍もの量を購入した(しかも高値で)のかが不明瞭であること
③本件で重要な役割を担ったブルック商家と辺境伯家との関係性が不明瞭であること
これらについては、次回提出予定の論文に記述する予定である。
文学部史学科論文集から抜粋




