17話 トーマスさん独白2
とある場所・とある人物の会話
「これでいったん小麦とライ麦の購入は終了だな」
「はい、予定数量は確保できました」
「それにしても、値上がりのスピードが想定よりも早かったな」
「はい、許容範囲ではありますが、想定よりも購入価格が高くつきました」
「商家の能力を甘く見ていたということか」
「そのことですが---準大手のブルック商会がいち早く、しかも大量に小麦購入を行っています」
「ブルック商会?マーク外だったな」
「はい、堅実な運営をしているとの評判です。このような博打じみた動きをするのは完全に想定外でした」
「まさか、情報が洩れているというわけではあるまいな」
「それは無いかと---実はブルック商会を少々調べてみたのですが—-」
「どうだった」
「現当主、先代当主とも堅実な運用との評価ですが、実は先代が過去1回だけ博打じみた投資を行い、それがあたり現在の準大手にのし上がったようです」
「過去1回?」
「はい、1回のみです」
「普通、大博打に成功を収めたものは、2回・3回と同じような行動を取るものだ。1回のみというのはきわめて異例だな」
「今回が2回目ということでしょう。つまり、今回の小麦値上がりに相当な自信があるのかと」
「う~ん---とりあえずやれることをやろう。今後の行動は予定どおりとしブルック商会を最重要マーク先とする。それで良いか」
「妥当なところかと存じます」
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小麦の値段が3倍になった。
想定よりも早いペースで値が上がったがこれは当家が大量に買い付けたせいであろう。
値崩れの兆候はない、ないのだが---何か、こう、しっくりとしない違和感がある。
「トーマス様、至急ご主人様のお部屋に」
ヨシュア氏に呼び出された。
父の執務室にヨシュア氏とともに行くと、執務室には父のみがいた。いわゆる「お人払い」だ。
「トーマス、この相場を見ろ」
まさか値崩れしたのか---いや、相場が跳ね上がり5倍の値をつけている。
「これをどう見る」
当初から3倍から5倍の値になると言っていただろう。想定の範囲内---いや、少し待て。
以前から感じている違和感がさらに強くなった。
よくわからない。
「わからない?いや、質問を変えよう。値崩れの兆候はないのか」
それはない。
「これ以上暴騰する兆候は?」
それもないが---あれ?
これが違和感の正体なのか?
なんか、しっくりこないというかモヤモヤした感じがする。
「そうか---ちょっと状況を整理しよう。なぜ、ここにきて5倍の値をつけたのか、なぜ暴落も暴騰もないのか、いくつかの仮説を作成し、それを検討することから始めるか」
「---」
「いや、トーマス、お前はこの作業に関わる必要はない。お前の役割は相場を読むことだ。下がってよろしい。ヨシュア、早速仮説を策定するぞ」
翌朝。またも父の執務室に呼び出された。
「戦だ。辺境伯がタブリ伯爵家に謝罪と賠償を求めている。
ああ、先般のスタンビートの際に、タブリ伯爵軍が辺境伯領で行った略奪に対する謝罪と賠償だ。略奪は兵のならい。辺境伯の言いがかりであるとタブリ伯爵家は考えるであろう、これは戦になる」
「はい、小麦の値があがったのは、辺境伯家と伯爵家が小麦購入をすすめたため、そして昨日の高騰は、この情報がいち早く大手商家に流れたためかと存じます」
「ああ、これはさらに小麦が暴騰するぞ」
そうか、違和感の正体はこれだったのか。
いや、暴騰はしない。
「---なぜだ」
なぜって---この相場で暴騰はしないからだ。
「だから何故暴騰しないかを問うている!」
なぜ暴騰すると思うのか、それが私にはわからない。
「何を!!」
「ご主人様、落ち着いてください。トーマス殿、誰もが小麦購入に走っています。それで暴騰しないということはどのようなことでしょうか」
誰かが小麦を売っているからだ。
「この状況で小麦を売るやつがいるか、誰が小麦を売っているんだ」
さあ?小麦を持っている人だろう。
まあ、持っていないものを売るやつはいないよな。
「ふざけるな!戦になるというのに辺境伯家や伯爵家が小麦を売るわけがない!」
「裏売り」
ヨシュア氏がぽつんとつぶやいた。
「ヨシュア、貴様まで、何をふざけたことを、裏売りなど---あ」
「はい、裏売りしか考えられません。そもそも今回の件についてはトーマス様の見立てが全て正しいことを前提としておりました。現時点でその前提を変えるべきではありません。そうなると---」
「裏売りか?」
「はい、裏売りです」
「トーマス、感情的になった、許せ。そして重ねて問う。暴騰の兆しはないのだな」
ない。
「裏売りだな」
「はい、裏売りです」
「ヨシュア、それでは裏売りであることを前提に今後の行動をとる。トーマス、下がってよろしい」
これ以上怒鳴られるのはごめんだ。とっとと退出しよう。
「トーマス」
まだなにかあるのか?
「よくやった」
なぜほめる???
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とある場所・とある人物の会話 その2
「ブルック商会が売りに転じました」
「早い、早すぎる!これはすこし、いや、かなりまずいぞ」
「幸い少量のみの放出です。マークしていなければ気が付かなかった量です。相場は崩れていません」
「こちらに配慮したということか—-とにかく危険すぎる、ブルック商会は。
ブルック商会に使いを出せ。私が直接出向くと伝えよ。秘密裏にな」
「面談して、どうするおつもりで?」
「決まっている、味方になれと勧誘するのだ」




