第14話 開拓村7
「それでは、今日からこの家で——まあ、寝るときはナオさんの家だけど---一緒に暮らさせていただきます。あらためてよろしくお願いします」
「うむ」
「ああ、こっちこそよろしくね、サブロー」
サブローは追放に先んじて、トーマスさんとナオに同居することの同意を得ていた。
もっともこの同意を得るのに一苦労だったが。
村の掟により追放された場合でも、トーマスさん・ナオさんと同居したい。サブローがそう話したとき、真っ先に反対したのがトーマスさんであった。
「村から追放されたのに村で暮らすのはおかしい」と。
「ばれなきゃいいんだよ、ばれなきゃ」というナオさんの言葉には耳も貸さず、
「村から追放されたのだから、もう村人ではなくなる。従って、村の掟には従う必要はない」
というサブローの謎の理屈(屁理屈とも言う)にも同意せず。
「トーマスさんとナオさんは村にいるけど村人ではない。ということは、一種の治外法権にある。従って、治外法権にある人の住居も同じく治外法権にある」とサブロー。
まあ、オリジナル世界の大使館のイメージだ。
「治外法権にあるということは、この住居は村に属していない。すなわち、この家は村ではない」
ふむ、これは一理ある。だが、この家に入るためには村の敷地に入る必要がある。それはどうするのだ、とトーマスさんに言われ---。
これに対して無害通航権の理屈で説得をしようかと一瞬思ったが、あまりの面倒さに
「ハイヒール!」
さあ、ハイヒールをかけたぞ。この対価を払え。お前の持っている知識を洗いざらい掃き出し、俺のことを教育しろ。そのためには、俺はこの家に居座るぞ。そうでもしなけりゃ、ハイヒールの対価が受け取れないからな。
という趣旨を極めて丁寧な言葉でトーマスさんに伝え、ようやくトーマスさんの同意を得たのであった。
「さて、一緒に暮らすにあたり、一つ提案というかお願いがあります」
「む、一体なんだ」
「私の教育の中で一番の問題は貴族語の習得であると認識しています」
「うむ、サブローの貴族語のイントネーションはひどいものだ」
「そうかい、わたしには十分に貴族語に聞こえるけどねえ。まあ、わたしはお貴族さまではないからわからないのかもしれないけど」
どうやら、サブローの貴族語は関東人がしゃべるえせ関西語のレベルのようだ。
「そこでお願いです。家の中では貴族語を使うことにしていただきたい。
語学を極めるには、日常的にその言葉を使用するのが早道ときいていますので」
「うむ、筋がとおっている。ハイヒールの対価を支払うために、常に貴族語を使うことに同意する」
「わたしもかまわないよ。貴族語をしゃべるのはあまり得意でないけど、聞くのだったら問題ないからね」
「ありがとうございます。さらに提案があります。ナオさん、あなたのことを母上と呼ばせてください。これも貴族語習得のため、私とナオさんは親子関係であるという設定で暮らしたいので---」
「ああ、しっかりしているようだが、まだ母親が恋しい年ごろだからね。いいよ、お前のおっかさんになってやるよ」
「いや---あくまでも貴族語習得のためでして」
「ああ、わかったわかった、そういうことにしといてやるよ」
全然わかっていない。
「母上---か、あの時のタネがついていたらば、サブローくらいの年ごろだねえ」
ナオさんがぼそっともらす。
子供の前でそういうことを言ってはいけません。
「えっと、ちょっと反応に困るけど---まあいいや。それで、次にトーマスさん、あなたのことを父上と言わせてください。父親が恋しい年ごろとかではなく、あくまでも貴族語の習得のために---」
「冗談じゃないよ」食い気味にナオさんが反対意見を述べる。
「なんでわたしがこんなじいさんと夫婦にならなきゃいけないんだ」
「いや、あくまでも貴族語習得を目的とした設定上の話でして---」
「うむ、確かに私とナオとは年が離れすぎているな、この設定に無理がある」
と、トーマスさんが参戦。
「それにナオの母親とわたしはそういう関係であったからな。ナオが妻になることはありえんだろう」
そういう関係って、どういう関係だ?やはりそういう関係のことか。
「---初めて知った」
ナオさんはショックを隠せない模様。
「まあ、話す必要がなかったからな。言っておくが、ユキからせまってきたのだぞ。私は『そんなことをする契約にはなっていない』と言ったんだが、ユキが『うるさい、黙れ、私がしたいんだ。文句あるか』と、私の上に乗っかってきて---」
だから子供の前でそういう話をしてはいけません。
「僕は子供だから、よくわからない! とにかくナオさんは僕の母上。トーマスさんはユキさん——ユキさんってナオさんのおかあさんのことだよね! あってる? あってるね!! トーマスさんとユキさんはご夫婦みたいなものだから、トーマスさんはナオさんの父親! だから僕のお祖父さん! で、僕の父親はその種とやらをぶん撒いたヤツ!! その父親がいないので、トーマスさんが孫である僕を養子にした! だからトーマスさんは僕の養父上! いいね!! この設定でいいね!!」
めずらしくものすごい剣幕でまくりたてるサブロー。
「う、うむ」
「あ、ああ、わかったよ」
勢いに押され同意する二人。
「あと、これから僕のことをトールと呼ぶこと!」
「え、何で---」
「いいね!いいよね!!」
どさくさにまぎれて、サブローはトールと名乗ることとなった。




