第13話 開拓村6
バルト王歴7年8月某日早朝
日の出直後の気温は夏とは思えないほど冷え込んでいた。
これも冷夏の影響なのか。
村は魔物よけの柵に覆われており、出入口としての門扉が数か所ある。
この門扉の一つに村人が十数名集まっている。
「サブロー、くどいようだがこの道を進めば3日ほどでカバラの町に出る。そこで町の人のお慈悲にすがって生きていけ」
サブローの父ジローが、短く言い渡す。
「サブロー---」
次兄のジローが、ためらいがちに声をかける。
「なんか---ごめん」
サブローは兎をとってきてくれた。自分にそんなことはできない。
「なんか---ごめん」
自分が病に伏していた時、急に体が楽になることがあった。その時にふとサブローを見るとサブローはふっ、と目線をはずした。ああ、これはサブローが何かをしてくれたんだな、とその時思った。
「---ごめん」
次兄のジローは知っていた。本当であれば、自分が追放されるべきであると。
自分の代わりにサブローが追放されることを。
「本当に---ごめん」
ジローはそれだけ言うと、うつむいたまま、無言で涙を流すだけであった。
「ジロー兄さん」
サブローはそんなジローをハグすると、ささやくようにこう言った。
「僕は絶対に死なない。何がなんでも生き延びる。もう会うことはないかもしれないけど---兄さんには僕が生きているとずっと信じていてほしい。だから---」
サブローは続けて言った。
「ジロー兄さんも死なないで」
「うっ---」
母親のエルザが耐えかねて嗚咽をもらす。
「サブロー、時がおしい。旅立て」
陽のあるうちにカバラの町までの距離を稼ぐべきだ、と父親のジローがサブローに言う。
「わかりました、行きます」
サブローはそう言うと、門にむかって歩き出した。
「ジローの息子サブロー、悪く思うな。これが村の掟だ」
村長の言葉が聞こえなかったかのように、サブローは歩き続ける。
「今後村に入ること、決して許さず!」
この言葉も無視して、サブローは門から出ていく。
サブローの後ろを、数人の大人がついていく。
彼らは、サブローが村から十分に離れたことを確認する役目を負っていた。これもまた、村の掟なのだろう。
「門番、今後2~3日は十分に見張っておくように。」
村長はそう言うと、村の中心へ戻っていった。他の大人たちもその後を追い、そこに残されたのは門番一名と、父・母・次兄だけだった。なお、長兄のコタローは昨晩のやりとりがあったからか、見送りには来ていない。
「ジローの息子ジローよ、すまないがこれも役目だからなあ」
門番がそう言うと、父親のジローはただ首を横に振るだけであった。
『道中、一角兎を一匹でも狩ることができれば---生きながらえる可能性がぐっと上がるが。こればかりは運だな』
父親のジローはサブローの幸運を祈ることしかできなかった。
・・・・・・・・・・・・・・
「トーマスさん、ナオさん、ただいま。ちょっと遅くなっちゃった」
サブローが村から追放された夜、トーマスの家にひょっこりとサブローが顔を出した。
「いや、もう見届けの人がしつこくて。あの人たち、まだ村に帰ってきてないんじゃないのかな。まさか野宿はしないと思うけど」
「サブローお帰り。先ずは夕食を取りな」と応えるナオさん。
「柵を上手く超えることができたようだな」とトーマスさん。
「はい、重力軽減魔術を使えば、あの程度の柵ならばなんてことはないです。
あ、お土産です。帰りがけに一角兎、捕ってきました」
サブローは収納魔術から一角兎二羽を取り出し、ナオさんに渡した。
「おっと、重いね。それにしても帰りがけに2羽かい。一人前の狩人が1日かけて1羽とれるかどうかというのに---大したもんだね」
「いやあ、まあ、もっと褒めてくれるとうれしいかなあと」
「何を言っているだい、お前さんは」
ほのぼのとした雰囲気で、そして笑顔で話す3人。
いったい父・母・次兄の祈りと涙はなんだったのだろうか—-。




