第120話 ロマ軍無名兵士の証言
あるロマ軍無名兵士の証言
ああ、その時、俺は負傷してアフラ平原入口付近の救護所にいたんだ。
救護所といってもただ負傷者が集まっていただけだ。
治療師はいない、看護兵もいない。
テントもない。
食い物もない、水もない。
そう、俺は---俺たち負傷兵は見捨てられていたんだ。
聖女様のご神託のとおりに星が落ちた後、俺たちはタブリに向けて逃げ出したんだ。
最初のうちは分隊の仲間と行動していたんだが、途中ではぐれてしまった。
いや---はぐれたんじゃないな。見捨てられたんだ。
俺はアフラ平原入口の迂回行動中に足をひねっていたんだ。
大した怪我じゃないが歩みは遅くなる。
そうしたら分隊長が、俺たちは先に行く、お前らは後から追いかけてこい、と言って、俺とバディを置いていってしまったんだ。
それでも何とかアフラ平原入り口近くまでたどり着いた。その時に、あいつらに襲われたんだ。
あいつらは誰かって? ロマ軍兵士さ。1個分隊ほどの兵が俺たちを取り囲んで、糧食を寄越せって言いやがった。
冗談じゃない、こっちの糧食もあとわずかだ。お前らに渡す糧食はないって言ってやったさ。
そうしたら、俺のことを槍で突きやがったのさ。胸をやられた俺はその場に倒れてしまったんだ。
それを見たバディは何も言わずに、あいつらに荷物を渡したんだ。
あいつらは俺とバディの荷物を奪い取って去って行ったんだよ。
バディはしばらく倒れている俺を見ていたが、無言で立ち去ったのさ。
そう、俺はバディからも見捨てられたんだ。
胸当てに遮られたおかげで、胸の傷はさほど深くはなかった。それでも出血は続いていたがな。
俺はなんとか救護所までたどり着いたんだが---
救護所は負傷兵が寝転がっているだけだった。地面に直接、何百人・
何千人の負傷兵が寝転がっているだけだった。
治療師はいない、看護兵もいない。
テントもない。
食い物もない、水もない。
ただ、負傷兵だけがそこに寝転がり、死ぬのを待っていただけだった。
俺もそこに倒れ込んだ。意識を失ったのさ。
そこにどのくらいの間いたのか覚えていない。
何日もいたような気もするし、一昼夜しかいなかったのかもしれない。
賛美歌が聞こえたのさ。
歌声の方を見ると天使様が、天使様がたが、朝日を浴びながらこちらに歩いて来られたんだ。
ああ、美しい天使様がお迎えにきてくれたんだ、と思ったよ。
銀髪の天使様が何やら祈りを捧げたんだ。そうしたら、俺の体が温かい何かに包まれた気がしたね。
胸の傷は治っていた。
俺だけじゃない、辺り一面にいた者たちの傷も治っていたんだ。
そうとも、銀髪の天使様は『氷の聖女』ユメ様で、天使様がたはシバス衛生隊の方々だったんだ。
でもな---
俺はユメ様と衛生兵の方々は天使様だと思っているんだ。
あれだけの数の負傷兵を、それも敵の負傷兵を癒やしたんだ。
神の御印だとしか、考えられないだろう?
いや、ユメ様は天使様ではなく女神様なのかもしれないな。
それからのこと?
知っての通りさ。炊き出しで体力を回復した後、シバス軍に護衛されながら
タブリに戻ってきたのさ。
ああ、そう言えば---
行き交うシバス軍の兵士様たちは、必ず俺たちに声をかけてくれたな。
がんばれ、もうすぐタブリだ。タブリまで戻ればロマに帰れるぞ、って。
大丈夫だ、ロマに帰れるぞ。家族のもとに帰れるぞって。
俺たちは、そんな方々を異端だといって滅ぼそうとしたんだぜ。
そりゃ、神はお怒りになるさ。




