第114話 第三次アフラ会戦5-クレアの訴え-
5月14日7:00
ロマ帝国第一軍は、アフラ平原入口の狭隘地でシバス軍と対峙していた。
そこに防衛線が張られることは、事前の想定どおりである。
しかしながら---
「総参謀長、あの城壁を如何見る?」
「はっ、元帥殿。一週間前の偵察ではあのような城壁の報告はなし。
おそらくはそれほど堅固ではなく、いわゆる張りぼてではないかと推測します」
アフラ平原入口の狭隘地、狭隘とはいえ山峡は3km程の幅がある。
この3km全てに高さ5m程の城壁が築かれていた。
「張りぼてであったとしても、あの城壁は厄介だ。敵の銃と組み合わされれば、攻め手は一方的に撃たれることになる。さすがは土魔法のイスタンと言われるだけのことはある。とはいえ、ここで動かないわけにはいかない」
昨夜の物資集結所の被害により保有する食糧はおおよそ10日分に減少。
現在地からイスファまでの距離は馬車で3日、15万の大軍であれば、最低6日は必要。決して余裕のあるものではない。
「よし、第一軍団戦闘用意!強行突破する!!」
第一陣 歩兵1,500。1m間隔での横隊。
同様の横隊で第二陣 弩部隊 1500。
第三陣から第三十三陣まで 各部隊歩兵1,500。
「全軍前進!」
第一陣、城壁までの距離300mに迫る。
そこから匍匐前進に切り替え。
第二陣以降も同様に300m地点から匍匐前進に切り替え。
第一陣、城壁までの距離200m、その時。
シバス軍 一斉射撃開始!
「弩部隊です!敵の狙いは我が軍の弩部隊!!」
「弩部隊!斉射せよ!曲射だ、当たらなくてもかまわん!敵を牽制せよ!!
歩兵!全軍突撃!!神は偉大なり!!」
「「「神は偉大なり!!!」」」
第一陣、城壁まで100mの地点で全滅。
第三陣、城壁まで70mの地点で全滅。
第四陣、城壁まで50mの地点で全滅。
「怯むな!進め!!城壁は張りぼてだ!!一気に押しつぶせ!!」
第五陣、城壁まで20mの地点で全滅。
第六陣、城壁に到達---できず。
「城壁前面に深さ・幅とも3m程の堀あり!城壁まで到達できません!!」
ロマ軍は混乱を極めた。前方の兵は堀に阻まれて進めず、後方の兵は状況を知らないまま押し寄せる。狭い戦場で行き場を失った兵たちは、城壁からの射撃にさらされ続けた。
シバス軍は淡々と射撃を続けた。兵が密集しているため、一発の銃弾が複数人を傷つけることも珍しくない。
後退しようにも後続部隊が押しかけるため後退出来ず。それどころか後続の兵に押し出されて堀に転落する兵が出る始末。
「全軍退却!城壁から離れろ!!」
9:00 ロマ帝国軍 突撃を中止
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シバス軍本部
「城壁と堀がなければやられていたな」とサムエル。
「はい、城壁だけでも危なかったかもしれません。あの勢いで突っ込んできたらば、城壁を乗り越えられる可能性がありました」とトール。
「敵の士気、衰えておらず、か。怖いねえ、宗教は」
「怖いですね。本当に。それじゃ、少しはその宗教を利用させてもらいましょう。 姉上、予定通りでお願いします」
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9:30 城壁の上に一人の人影が現れた。
長い黒髪が僅かに風にそよぐ。遠目にもシルエットから女性であることがわかる。
「ロマ帝国軍キリアン・コスター元帥殿、聞こえているか」
女性の声が響き渡る。風魔術を使っているのか、ロマ軍ならびにシバス軍の全軍に声が届く。
「私はバルト王国子爵、征夷大将軍トール・イスタンが第一夫人『炎の聖女』クレア・イスタンである」
ウォーッという爆発的な歓声が、シバス軍兵士から発せられた。五年前の第一次アフラ防衛戦以降、『炎の聖女』の名はイスタン・イスファ軍だけでなく、シバス軍にとっても女神の名のように称えられている。
ロマ帝国軍の兵士にも『炎の聖女』の名は広まっているとのフェリシア顧問からの情報を受け、あえて『炎の聖女』というワードを入れた。本人は自らの二つ名を名乗ることを、とてもとても嫌がったが。
シナリオになかったシバス軍からの歓声に若干とまどったものの、クレアは右手を挙げ、その歓声を抑え、ロマ帝国軍コスター元帥への呼びかけを続ける。
「我々シバス軍は、現時刻から停戦を行う。そう、一方的停戦だ。
停戦期間は本日日没、もしくは貴軍が我々に対して攻撃を仕掛けるまで。
いいか、これは人道的配慮に基づく停戦だ。停戦期間中、ロマ帝国軍が城壁近辺にいる負傷者の救出ならびに遺体の回収を行うことを一切妨げない」
いったん言葉を切った後、クレアは続ける。
「ただし、条件がある。救出部隊は武器を携えないこと。救出部隊は武器を回収しないこと。
条件はその2点だけだ」
さらにクレアはロマ帝国軍に呼びかける。
「城壁近辺にいるロマ帝国軍兵士諸君、自力で動ける者は武器をおいて撤退せよ。我々は諸君の撤退行動を妨げない。
堀の中にいるロマ軍兵士諸君、今から縄ばしごを投げ入れる。これを使って堀から出ろ。
ああ、縄ばしごは持って帰るなよ。シバス軍の資材だ。持って帰られたらば私が資材管理担当者に叱られてしまうからな」
ちょっとしたユーモアを入れるのもプレゼンには必要。とはいえ、ロマ軍に笑う余裕などなく、そもそもプレゼンではないのだが。
「コスター元帥殿、貴軍がこの停戦を受け入れるのであれば、我が軍は重篤者に対して救命治療を行う用意がある。
コスター元帥殿、そしてロマ帝国軍兵士諸君。重ねて言う。これは人道的配慮に基づく措置だ。
いいか、我々シバスの民もロマ教徒だ。同じロマ教徒が、いわば同胞が徒に命を喪うことを看過することはできない。
残念なことに貴国と我が国は戦争状態にある。同じロマ教徒同士が争うことはとても悲しいことだが、これは仕方のないことだと割り切ろう。戦争事由についてお互いの言い分があるからな。
ただ、だからといって負傷者を、助かる命を救わないのは違うと思う。
同じロマ教徒として、そして同じ人間として、貴軍がこの停戦を受け入れることを切に願う」
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「姉上、ご苦労さまでした。とても素晴らしかった」
「クレアお姉さま、本当にすばらしかったです。私、聞いていて涙が出そうになりました」
「ん、胸が小さいからとグシグシ泣いていた人とは思えなかった」
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「くそう、悪辣な奴らめ!何が人道的配慮だ!!」
コスター元帥は怒り狂っていた。
「奴らの狙いは何だ? 決まっている。戦力にならない負傷者を、我が軍に抱え込ませることだ!
負傷者を抱えれば食糧は減る、軍の行動速度も落ちる! それを人道的配慮などと言いおって。
おまけに同じロマ教徒だと!?奴らは異端者ではないか!!!」
「それでは元帥、停戦は受け入れず、救出部隊も出さないということで---」
「馬鹿者!そんなことをしてみろ、兵の士気が保たなくなるだろうが!」
「し、失礼致しました」
「まずは速やかに救出部隊を出すよう第一軍団に伝えよ。ああ、丸腰で行かせろ。
停戦についての回答は---くそ、どうするべきか---」
「元帥、敵に新たな動きが---」




