第110話 第三次アフラ会戦1
王歴34年(帝国歴1195年)5月10日
タブリの街に続々と帝国軍が集結している。
人が動けば物が動く。
物が動けば金が動く。
タブリの街はロマ商人の、そしてバルト商人の稼ぎどころとなっている。
そんな中、一人の行商人がタブリの街を去ろうとしていた。
「もう去るのか、タブリを」
行商人に声をかけたのはタブリに店舗を構える中堅商人。
「はい、いろいろとお世話になりました」
「まだまだタブリで稼げると思うが」
「もうすぐ軍はシバスに向けて出発するでしょう。そうなれば商いの機会が減ります。それにもう十分に儲けさせていただきました。しばらくは骨休みをしようかと」
「おいおい、そんな欲のないことで商人が務まるのか」
「いや、実は---」
行商人はあたりに人がいないことを確認した後、中堅商人に顔を寄せ、小声で
囁いた。
「ちょっと良くない噂を耳にしましたので---急ぎタブリから離れようかと」
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ロマ帝国シバス遠征軍(在タブリ)総司令部、会議室
「諸君、いよいよシバスに攻め込む時がきた」
シバス遠征軍15万を率いるのは 元帥 キリアン・コスター。カタゴ戦線からの転戦である。
「それでは、あらためて作戦計画について説明する。総参謀長」
「はっ。軍は明日早朝にタブリを出発する。出発は第一軍団、第二軍団、第三軍団の順とする。
第一軍団 5万のアフラ平原入り口の狭隘地に到着する日時は本日より三日後の5月13日午前中を予定している。
おそらく敵はそこで防御線をはっているはずだ。第一軍団は展開が終了次第第二軍団、第三軍団の到着を待つことなく攻撃を仕掛ける。
第二軍団 5万ならびに第三軍団 4万の到着予定日時は5月14日。到着時に第一軍団が狭隘地を突破していなければ、ただちに迂回路に進む。ああ、迂回路といっても、良くて獣道がある程度の山中突破だ。
2日かけて山中を突破し、敵の背後に進出。敵を包囲する。ここまでで質問は」
質問者はいない。
「次に敵が狭隘地で防御戦を張らず、第一次・第二次アフラ会戦と同様にアフラ平原で会戦を挑んできた場合、第一軍団は第二軍団・第三軍団の到着を待つことなく兵を展開、敵に攻撃を仕掛ける。ただし、攻め急ぎはせず、持久戦に持ち込む。第二軍団・第三軍団は会戦地に到着次第、敵側面もしくは背面を伺え。ここでも敵を包囲する戦法を取る」
「そして、第四軍団 1万については兵站部隊として行動する。敵は必ず補給線を狙ってくる。逆に言えば補給線さえ途絶えなければ、この戦いは必ず勝てる。第一軍団・第二軍団・第三軍団は、仮に第四軍団からの何らかの要請があった場合には、最優先でそれに応じること」
「他に何かあるか、なければこれで会議を終了する」
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ロマ帝国シバス遠征軍(在タブリ)総司令部執務室
「お忙しいところお時間をいただき誠に恐縮です、コスター元帥」
「いや、構わぬ。第四軍団を率いるハラン少将から内密の話しがあるとのこと。時間を割くことはやぶさかではない。総参謀長も同席させるがかまわないな」
「もちろんでございます、元帥。それでは早速ですが---」
ハラン少将は淡々と語った。
・商人の一部にタブリを去る動きがある。
・奇異に思い調べたところ、バルト商人の間でタブリが重大な打撃を受ける
という噂が広がっている。
・この噂は商人の間に留まらずタブリ住民の間にも伝わり出している。
「些細なことで恐縮ですが、妙に気になるところがございまして、念のため
元帥のお耳に入れておこうと考えた次第です」
「なるほど---」
元帥と総参謀長は顔を見合わせた。
「何か心当たりでも---」
「総参謀長、説明をせよ」
「はっ。少将、今から言うことは内密にしてくれ。万一、兵が動揺しないとも限らないのでな。
先日、バルト王国の外交ルートを通じてシバスからの書簡が届いた。内容
は、タブリの住人を至急退去させよ、とのことだ」
「住民を退去?どういうことですか」
「シバスの三聖女、ああ、聖女と称している輩に神託が下ったとのことだ。タブリに星が落ちるとな」
「---そう言えば商人の間にも似たような話が伝わっております」
「同じ話がシバス教会からロマ教会総本山にも伝えられたらしい」
「教会は何と?」
「もちろん取り合っていない。異端教会が戯言を言っているという扱いだ。
我々参謀本部の見方としては、敵のディスインフォメーション、すなわち住民と兵を惑わせるために流している偽情報と考えている」
「それではシバス侵攻は予定どおりで」
「当然だ。このようなあからさまな偽情報に引っかかることはない。軍は予定どおりの行動をとる」
「承知しました」
「さて、私も幕僚とともにシバスに向け出発する。ここ、タブリに残る最高位は少将である君だ。相手はあのトールだ。タブリに何かを仕掛けてくるかもしれん。その際の対応は頼んだぞ」
「承知しました」
「まあ、星が落ちてくることなどないだろうがな」
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翌日の日没後、タブリに星が落ちた。




