第11話 エルザ独白2
そんなある日、そう、サブローが4才になって間もないころのこと。
「母さん、ウサギ捕まえた。料理して」
サブローがウサギをつかまえてきた。
いや、ウサギではない。これは一角兎の子供だ。
一体どこで、どうやってこれを捕まえてきたのか。
「あっちのほうにちょっと行った先で」
ちょっと行った先に魔物が出るわけがない。森の中に、しかもかなり奥まで入ったのであろう。
「石をぶつけた」
四歳児が石をぶつけて魔物を倒せるわけがない。何かの魔法を使ったのであろう。
とりあえず一角兎を受け取り調理することとした。
胸の奥がざわついたまま、私はその日の夕方を待った。
夫のジローが仕事から戻ってすぐに、子供たちに聞こえない場所でジローにこのことを報告した。
「焦げてはいないのか、ということは火魔術ではない」
ジローは一角兎を見てそう言った。
「石をぶつけたと言ったのか。ということは土魔術か。まあ、何であれ、この年で魔物を倒せるとは---」
じゃあ、サブローは村から出されても一人で生きていけるのか。
「あと10年、いや、5年もすれば十分に生きていけるだろう」
5年---短いようで長い。今後5年間、飢饉にならなければいいのだが。
「厳しいことを言うが、この肉、サブローにはあまり出すな。」
え?サブローが捕ってきたのに---。
「村の掟のことを知らせるよい機会だ。あいつは聡い子だ。多分わかってくれるだろう。
そして、あいつなりにこれからどうすればいいか考えるはずだ」
・・・・・・・・・・・・・・・
それからというもの、サブローは朝食をとった後、夕食の時間になるまで家にいることはなくなった。
どこで何をしているかわからなかったが、1週間に1~2匹一角兎を家に持ち帰ってきた。
また、サブローの顔色が良くなり体つきも良くなった。おそらくは家以外でも食事を摂取しているのだろう。
そんなある日のこと、めずらしくナオさんとすれちがうことがあった。
ナオさんとその雇い主のトーマスじいさんは「村にいるが村人ではない」という特殊な人たちだ。
このため、村人との交流はほぼなく、二人の顔を見ることはほとんどない。
このため、顔をあわせても挨拶らしい挨拶はしないばかりか、視線を合わせることもしないのだが、その時だけは違った。ナオさんは一瞬、咎めるような目つきで私を見た。
この時に私はわかった。ああ、サブローはナオさんにお世話になっているんだと。
ナオさん、と私は立ち去っていくナオさんの後ろ姿に思わず声をかけた。
ナオさんが振り返る。
私はナオさんに何を言えばいいのだろうか。
その言葉が見つからない私は、ただ、ナオさんに深々と頭を下げた。
頭を上げてナオさんを見る。
ナオさんは少し、ほんの少しのほほえみを浮かべ、私にうなずいた。
それを見た私はもう一度ナオさんに深々と頭を下げた。
再び頭を上げたときには、立ち去っていくナオさんの後ろ姿がそこにあった。
ナオさんは足を引きずっていなかった。
そして---
5年はもたなかった。
サブローが7才の時に、開拓村は冷害に襲われてしまった。




