第10話 エルザ独白
私の名はエルザ。開拓村の小作人ジローの妻であり、コタロー、ジロー、サブローの母だ。
思えば三男のサブローは本当に不思議な子だ。
とても手がかからない子だった。赤子の時から。
もちろん、泣いたりぐずったりしたことはある。ただ、それはおむつかおっぱいか、どちらかを欲しているためのもの。
コタローやジローの時のように、「なんでぐずっているかわからない」ことはほとんどなかった。
もちろんそれだけではない。
身ぎれいなのだ。正確には、いつも清潔なのだ。
そのために、おむつかぶれやあせもなどは全くなかった。
極めつけなのは、病気にならないこと。
いや、病気にはなるのだが、すぐに治ってしまうのだ。
これはサブローだけではなく、次男のジローも同じだった。サブローが生まれてから、病気になってもすぐに治るようになっていた。
次男のジローは生まれつき病弱で、とても成人するまで生きながらえるとは思えなかった。
サブローが生まれたあとも、何度かジローが病気で重篤になったことがあったが、いつの間にか、ケロッと回復していた。
今から5年前、サブローが3才の時に、その理由がわかった。
サブローは魔術士なのだ。
5年前の冬、一家全員が冬のはやり病に罹患した。
私も夫のジローもかなり病状が重く、食事の準備をすることができなかった。
もちろん、子供たちも罹患しており、食事の準備をすることができるわけがない。
これはちょっと、いや、かなりまずいと思い、何とか食事の準備をしようと起き上がった時、奇妙な感覚が全身を包み、ふっと体が楽になった。
「あ、この感覚は---ヒールだ」
そう、それは私がまだ幼児であった時、大叔母にかけてもらったヒールの感覚と同じ感覚だった。
私は開拓村の生まれではない。
物心がついたとき、私は旅の途中であった。
私の一族、おおよそ30人くらいの集団での旅であった。
なぜ、旅に出ていたのかはわからない。
今から思うに、政争に敗れたか、飢饉で暮らせなくなったかで、一族で逃亡を図ったのだと思う。
一族が旅に出る理由はそんなものであろう。
私は荷馬車に乗り続けていた。
大人たちは皆、徒歩であった。荷馬車は3台しかなく、大人が荷馬車に乗るスペースがなかった。
唯一、荷馬車に乗っていた大人は大叔母であった。
大叔母は、高齢であったが一族の「支柱」であった。
なぜならば大叔母は魔術使いであったからだ。
強力な魔獣が出ればファイアを放つ。
飲み水が枯渇すればウオータで補給する。
だが、本人が言うには一番得意なのはヒールだとのこと。
けが人や病人が出れば、ヒールで癒す。
大叔母がいたから、旅を続けることができたのだろう。
何故、私が開拓村に居ついたのかは記憶が定かではない。
気が付いた時には、一族とは離れ、私一人が開拓村に残っていた。
一族に売り飛ばされたか。
先の見えない旅を続けるよりは、開拓村に残ったほうが私が生き残る確率が
高いとして、開拓村に委ねられたのか。
おそらくはそのどちらか、または両方の理由で私は開拓村に残ったのであろう。
その後、私は夫のジローに嫁ぐことになるのだが---
話がそれてしまった。今はサブローの話に戻そう。
冬のはやり病の時にヒールを受け、回復したのは私だけでなく家族全員が回復した。
思わずサブローを見つめると、サブローはそっと目線をはずした。
この時に、私はサブローが魔術使いであることを確信した。
その日の夜、私は夫のジローにサブローが魔術使いだと思っていることを話した。
清潔であること。
病気がすぐに快復すること。
今日、快復した時の感覚が、幼児のころにヒールを受けた感覚と同様であったこと。
ジローは黙ったまま私の話を聞いてから、こう言った。
「清潔なのはピュアの魔術、病から回復したのは、お前が言うとおりヒールの魔術だ」
夫のジローは、サブローが魔術使いであることを知っていたのか?
「確信はなかった。ただ、昔、爺さんからピュアとヒールの魔術のことを聞いたことがあり、その状態と一致していた。サブローが生まれてからこんなことが起きるようになったからサブローが魔術使いであるかもしれないと思っていたんだ」
でも、魔術使いはお貴族様が訓練を受けて、ようやくなれるものではないのか。
「いや、お貴族様でも必ずしもなれるものではないらしい」
じゃあ、やはりサブローは魔術使いじゃないのか。
「いや、恐らくは魔術使いだ。お前もそう思っているのだろう」
でも、何故、訓練を受けていないサブローが魔術を使えるのか。
「それはわからない」
「このことは俺とお前の秘密にしておいたほうがよさそうだ。これが村長にばれるとジローに悪いことがおきるかもしれない」
サブローが魔術を使えることが知れたなら、不作になった場合、間違いなく次男のジローは切り捨てられる。つまり、村から追放される。
ジローが村から追放されれば、あの子はまず生きながらえないだろう。
だけど、魔術が使えるサブローであればーーー上手くいけば生きながらえるかもしれない。
ジローもサブローも私たちの子だ。二人とも死んでほしくない。
こうして、サブローが魔術を使えることは二人の秘密となった。




