第108話 ロマ帝国会議
帝国歴1195年(王歴34年)4月
ロマ帝国皇帝会議室
「それでは、カタゴ諸国との講和内容について報告致します」
外務卿が内容要旨についての説明を行った。
・ロマ帝国とカタゴ諸国とは戦闘を終了する。
・ロマ帝国は、カタゴ諸国が独立した国家群であることを改めて認める。
・ロマ帝国はカタゴ諸国との国境10km以内には軍を駐留しない。
・ロマ帝国はカタゴ諸国の復興支援のため、大金貨1,000枚の基金を設立し、その運用をカタゴ諸国に委任する。
・ロマ帝国とカタゴ諸国は両国間の貿易を拡大するものとし、両国は貿易に支障が生じる事象を排除する。
・カタゴ諸国は自国内にロマ教を布教することを許容し、教会ならびに信徒を保護するものとする。
「以上が講和内容になります」
「大金貨1,000枚の基金か。これは実質的な賠償金ではないか」と軍務卿。
「全く問題ありません」と商務卿。
「我が帝国にとって大金貨1,000枚など微々たる金額。それに、この金額は いずれ我が帝国のものになります。自由貿易を行うことにより、カタゴ諸国を経済的に支配することができる。すなわち、いずれは大金貨1,000枚を含めてカタゴ諸国の全てを我が帝国が手中に収めることになる」
「自由貿易---関税の廃止は謳われていないが」
「『貿易に支障が生じる事象を排除する』という条項です」と外務卿。
「関税は貿易に支障を生じさせるものです。この条文があれば関税をかけることができない。まあ、カタゴ諸国としては盗賊の排除程度のことを考えているのでしょうが」
「あと、ロマ教会と信者の保護を入れたのが大きい。この条文があれば
カタゴ諸国に対する宣戦理由を作るなどいくらでもできる」
「おっしゃるとおりです、宰相閣下。ただし、カタゴ諸国のことは、まずはバルト王国を、いや、シバス辺境伯領を手中に収めてからのことです」
「そのどおりだ。それでは次の議題に入る。対シバス辺境伯戦についてだ」
「先ず、我が軍の動員数について報告します。
カタゴ戦線を始め各戦線で停戦・休戦を実施、兵数の余力を生み出したことによりシバス戦線に15万の兵を投入することが可能です」
会議参加者の間にざわめきが広がった。15万の兵は、ロマ帝国始まって以来の動員数である。
「それだけの大軍、補給は大丈夫か」
「問題ありません。既に十分な食糧をロマ本国ならびにバルト王国諸侯からタブリに集めつつあります」
「それについては私から」と外務卿。
「バルト王国ならびに諸侯は我が帝国に好意的中立の立場を取ることを表明済みです。シバス辺境伯領を制圧・占領した暁には、バルト王国ならびにその諸侯に対して自治権を付与することを条件として、食糧の供出にも応じています」
「奴らに兵を出させないのか」
「我が帝国軍は15万、その必要は全くありません。それに」と軍務卿が苦笑しながら付け加える。
「第二次アフラ会戦の二の舞はごめんですので」
「シバスの状況はどうか、商務卿」と宰相。
「シバス辺境伯領ならびにその諸侯領について、実権はトール・イスタン子爵が握っております。
幕府なる臨時政権のもと、シバス全土を中央集権化した上で、富国強兵のスローガンのもと経済活動を活発化させております。特に粗鉄生産量について、人口が我が帝国の50分の1程度であるのに対し、粗鉄生産量は我が帝国と同等もしくは上回るものと推測されます。決して侮ってはいけません」
「シバスの兵力については私から」と軍務卿。
「シバスでは諸侯軍を解散、幕府のもと、軍の指揮命令系統を統一しております。その数はおおよそ10,000。そして、この兵には全て敵の新兵器である銃が支給されている模様です」
「銃の正体は判明したか」
「遠いトウの国に『てつはう』という兵器があります。これは火薬なるものに火をつけ爆発させるというもの。おそらく銃とは、この火薬を爆発させる力で鉄の筒から弾丸、すなわち石礫のようなものを撃ち出す兵器であると考えられます」
「我が軍で銃は生産できないのか」
「無理です。そもそも火薬の生産方法が不明です。トウの国から情報を得ようとしているのですが何分トウは遠く、かなりの時間がかかるかと。
ただし、銃への対処方法は明らかです。一つは銃に対して身を屈めるもしくは伏せること。弾丸は真っ直ぐにしか飛びません故。
もう一つは、なるべく敵に弾を無駄撃ちさせること。
第一次ならびに第二次アフラ会戦直後のイスタン・イスファ軍の動きは極めて不活発なものとなっており、これは弾丸の補給が間に合わなかったためであったと推測します」
「それでは軍務卿、この戦い、勝てるか」
「勝てます。戦いは数です。15倍の戦力差があれば小手先の戦術は通用しません。唯一懸念されるのが補給の確保ですが、先に説明したとおりこれも問題ありません」
「それでは作戦計画について説明します」
・第一段階 イスファ占領ならびにイスタンの封鎖
・第二段階 シバス占領
・第三段階 イスタンを除くシバス全土の占領
・第四段階 イスタン占領
「第一段階につきましては、従来の対イスタン・イスファ戦略と同様です。この第一段階を突破すれば、後は全く問題なく進行します」
「敵はどう出てくる」
「前々回ならびに前回の侵攻の際、敵はアフラ平原での会戦を選択しましたが、これだけの戦力差があるのでアフラ入り口の狭隘地での迎撃を行ってくると考えます」
「我が軍は力押しをするのか」
「最終的には力押しですが、新たな戦術として弩を使います」
「弩では銃に勝てないのではないか」
「正面から撃ち合えば負けます。弩はあくまでも牽制として使用します。具体的には伏せながら曲射をする。
命中率は落ちますがそこは数でカバーする。そして弩で牽制しつつ歩兵を匍匐前進させ、十分に近づいたところで一斉に突撃する。
敵正面に対してはこの戦術で攻めつつ、別働隊として軽装歩兵が山越えを行い、敵の側面もしくは背後を突く。仮に敵の銃により撃退されたとしても、これを何度も繰り返す。そうすれば、敵は弾丸の補給が追いつかなくなります。味方にもかなりの犠牲が出ますが、最終的には我が軍が勝利します」
「軍務卿、よくわかった。その作戦計画を承認する。
諸君、この戦いで必ずやシバスの、そしてイスタン・イスファの息の根を止める。そのためにも---」
皇帝は一度口を閉じ、その後にこう続けた。
「シバスのロマ教を異端と認定する」




