第106話 イスファ幕府開府
イスタン領の視察を終えたシバス辺境伯とその家宰は、イスタン子爵応接室に案内された。対応するのは、トール・クレア・ティナ・ユメの4名。
「いや、すさまじいものだな、イスタンの栄えぶりは。17年前は住人が100人いるかどうかの寒村だったとはとても思えない」と辺境伯。
「お褒めにあずかり恐縮です。こちらで準備しました視察先はすべてご覧いただきましたが、何かご希望がございましたら、視察先を追加いたしますが」とトール。
「いや、もう十分だ。それよりも折り入って話がある。家宰、頼む」
「はい、それではイスタン子爵殿、話したいことは、今後のシバス辺境伯領のことだ。
その前提として話をしておきたいのだが、我々、バルト国王家と辺境伯家は、いずれはバルト王国はロマ帝国に降伏せざるをえないものと考えていた。
バルト王国とロマ帝国はあまりにも国力が違いすぎる。いたずらに戦いを 続けても民を苦しめるだけだ。
我々は少しでも有利な条件、できればロマ帝国の準州すなわち半独立国として自治権を獲得できないか、その機会を伺っていた。
そして、その機会がきた。先の第二次アフラ防衛戦での勝利だ。
第二次アフラ防衛戦の後、国王は密かにロマ皇帝に使者を送り和平交渉を行った。
こちらの条件は自治権ならびにそれを保証するための軍の保有を帝国が認めること。
それに対する帝国側の条件は以下の二点だった。
一点目はタブリ領ならびにイスタン・イスファ領の割譲。
二点目はイスタン子爵ならびにその妻である三聖女の身柄引き渡し。つまり、卿らを帝国へ差し出すことだ」
「---」
「卿らは勝ちすぎたのだ。ロマ帝国は卿らを警戒、敵視している」
「それで国王はなんと」
「まだ帝国へは回答していないが、帝国の要求を受け入れたいとのことだ。
辺境伯に対してイスタン子爵と子爵夫人たちの引き渡しを要求してきた」
「---」
「ここで辺境伯家としては、二つの選択肢を持つこととなった。
一つはロマ帝国ならびにバルト王国と組んでイスタン・イスファ領を撃つこと。
もう一つはバルト王国と決別することを覚悟の上で、ロマ帝国の要求を拒否すること」
「この話を私どもにしていただいているということは---」
「そのとおり。ロマ帝国の要求を拒否する。正直なところ、イスタンを視察する前までは、どちらを選択するか決めかねていた。だが、イスタンの技術と繁栄ぶりを見てこれならば帝国に抗し得る、と思い決めたのだ」
「しかしながら、私どもイスタン・イスファを含めた辺境伯領でロマ帝国と
対抗するのは、いささか無理があろうかと存じますが」
「そこで、今回の話になる」と辺境伯が話を引き取った。
「結論を言おう。イスタン子爵、いや、『ドラゴンバスター』トール。あなた に辺境伯を禅譲したい。あなたに率いられた辺境伯領であれば、ロマ帝国を退けることが可能ではないかと考えている」
「無理があります。私が辺境伯となるだけのレジティマシーがありません。民衆はさておき、辺境伯軍や寄子の諸侯たちは、血筋における正統性がない私の就任に納得しません」
「むう---」
「ですがお言葉のとおり、寄子の諸侯領を含めて辺境伯領が一丸とならないと
とうていロマ帝国には対抗できません。恐縮ですが、明日の午後までお時間をいただけませんでしょうか。何か上手い方法がないか、考えさせていただきたく」
「承知した。期待しているぞ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
イスファ幕府開府案(概要)
1.辺境伯は、トールを征夷大将軍に任命するとともに、辺境伯領を一体として防衛・統治するため、以下の政治的機能を委任する。
①辺境伯直轄領統治権
②諸侯領代官任命権
2.征夷大将軍は幕府を開府し、辺境伯領の統治を行う。
・幕府はイスファに開府する。
3.諸侯領の統治は幕府の監督の下、征夷大将軍が任命した代官が行う。
4.諸侯は議会に参加する。
・議会は征夷大将軍の諮問機関として、統治全般に関する諮問に応じるとともに、諸侯の意見を幕府に集約する。
・議会はイスファに設置する。
5.辺境伯領内においては、関税を廃止し、人ならびに物資の移動は自由とすることで、辺境伯領全体の産業活性化を図る。
6.軍事力について、軍隊と警察とに機能を分離する。軍隊は国家外部の敵に対応し、警察は領内の治安維持を担う。
・軍隊については以下に鎮台を設け駐留する
①シバス②イスタン③イスファ④ソンダルク
7.征夷大将軍の任命ならびに幕府の開府は、ロマ帝国からの侵略を防ぐために行われる一時的な措置とし、脅威が解消された後には、征夷大将軍は速やかにその任を辞し、幕府を廃して、大政を奉還する。




