第101話 宴会(または捕虜尋問)
「ぶっははは! イ、イタンの野郎が『猛将』だと? クワハハハ! は、腹が痛え! ヒィー!」
アフラ会戦時、帝国軍左翼軍司令官であったカウ・リバルス少将は、腹を抱えて笑った。
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リバルス少将はアフラ会戦終了後に意識不明の重体でイスタン・イスファ軍に発見され、ティナを筆頭とする衛生隊の治療を受け、完治。捕虜としてイスファに連行されていた。
その日、トールは捕虜収容所でリバルス少将を尋問。一向に尋問に応えないため、
「もう、今日はおしまい。飲みに行くよ」と言い、リバルス少将を連れ出した。
当初は街の飲み屋に行こうかとしたが、さすがにそれはまずいです、と収容所長に止められたため、それじゃ宅飲みにしようか、とリバルスを家に誘った。
「ただいま、お客さんを連れてきたよ」
「あらあら、前もって知らせていただかないと。大したおもてなしはできませんよ」
「姉上、ただいま。こちら、捕虜のリバルスさん」
「まあまあ、いつも主人がお世話になっています。妻のクレアです」
「いや、お世話しているわけでは---って、第一夫人のクレア殿ですか?『炎の聖女』の」
「いやですわ、帝国の方にまでそのような名前を。どうぞお上がりください。すぐに飲み物をお持ちしますので」
「じゃあ、とりあえず乾杯!あ、毒は入っていないから安心してね」
「まあ、毒殺するなら家には連れてこないでしょうが、では乾杯っと---うっ!」
「どうしました?」
「なんだこの酒は!?エールか?きんきんに冷えている!旨い!!」
「これ、うちの領で作っているラガービールって飲み物です。まあ、エールの一種です」
「ひとまずこれをつまんでくださいな。すぐにお料理を作りますので」
クレアが持ってきたのは、ハムのチーズ焼き・きゅうりの浅漬け・ちぎりキャベツの酢あえ。
「これ、聖女殿がお作りになったのですか?」
「いやですわ。作るなんてものではありません。あと、『聖女』とか言わないでください。領民が勝手に言っているだけですから」
「あれえ?お客さん?宴会しているの?まぜてまぜて」
「お帰り、ティナ。こちら捕虜のリバルスさん。リバルスさん、妻のティナです」
「ティナ---第二夫人、『風の聖女』」
「いやあ、照れちゃうなあ、帝国の人からそんな言われ方すると。ティナって呼んでよ」
「さすがにそういうわけには---」
「堅いなあ、リバルスさんは。じゃあ、私は『カウ・リバルス少将殿』と呼ぶ?嫌でしょう?そんな呼ばれ方したらば」
「別に嫌というわけでは---」
「じゃあ、こうしよう!私は少将のことをカウっちと呼ぶね。カウっちは、私のことをティナっちと呼んで。
あと、お兄様のことはトールっちって呼ぶこと、いいね。じゃあ、乾杯しよう、かんぱーい!」
「宴会している。私も参加する」
「お帰り、ユメっち!」
「ティナお姉さま、もう宴会モード?」
「ユメっち、駆けつけ三杯ね、一杯目---次二杯目、お、いい飲みっぷり、三杯目っと---わっしょい!!」
「ユメ---第三夫人、『氷の聖女』」
「カウっち、次からはユメっちって言うこと。そうじゃないと罰符だぞ!」
「---子爵殿、いつもこんな感じですか」
「あはは、騒がしくてすみません」
「あ~!トールっちって言っていない!罰符だ!!」
「ティナ殿、バップって?」
「もう!ティナっちって言っていない!罰符!はい飲んで飲んで飲んで♪飲んで飲んで飲んで♪♪♪わっしょい!!」
「ティナ、ユメ、お料理を運ぶのを手伝って」
運ばれてきた料理は、コカトリスのオムレツ、コカトリスの焼き鳥、ラム肉のサイコロステーキ、サーモンのバター焼き。
「---これ、クレア殿がご自分で作られたのですか」
「はい、姉上は料理上手なんです。まあ、一口食べてみてください」
「---旨い、これは何だ?羊か?臭みが全くない」
「ね~え、クレアっち。一緒に飲もうよ!」
「じゃあ、そうしようかしら。リバルス様、お邪魔しますね」
「いや、聖女殿にリバルス様と言われるのは恐縮です、是非、カウっちと呼んでください。俺もクレアっちと呼ばせていただきます」
帝国軍少将カウ・リバルス。既に酔っているのか。風の聖女ティナのペースにはまりつつある。
「ねえ、トールっち、ボトル入れて良い?」
「ボトル?入れる?」
「ああ、リバルスさん、気にしないでください。特別なお酒を出すときの合図みたいなものですから。
姉上、せっかくの機会だ。ボトルを出して。みんなで飲もう」
「わーい、やったあ!」
「じゃあ、先ずはこのお酒を試しに飲んで見てください。酒精が強いから気をつけて」
「おう---ぶふぉ、何だこれは?めっちゃきついな」
「ははは、これ、ライ麦から作ったお酒です。僕らはターキーのライって言っています」
「たーきー?」
「気にしないでください。どうやって飲みますか?このままストレートで飲むか、水で割るか」
「いや、きつい酒だがこの荒削りな味が気に入った。このままで飲ませていただこう」
「おっ、カウっち、いける口だね。それじゃ私もお付き合いしてストレートで飲もう」
「それじゃ僕もストレートにしようかな。姉上とユメは?」
「私は水割りでいただきます。そんなに強くありませんから」
「ストレート」
クレアはぐしぐしと泣いていた。
「だから---だから私はないわけではないんだ。人並みにはあるんだ。このふたりが大きいだけだ。特にユメがおかしいんだ」
「お、おい、トールっち。嫁さんが泣いてるぞ。ほっといていいのかよ」
「大丈夫。クレアお姉さまは最近ずっとこんなかんじ。もうすぐおとなしくなる」
「あ~、ユメ、クレアっちって言ってない!罰符だ!はい、飲んで飲んで飲んで♪飲みたい~から間違えた♪♪」
「なあ、カウっち。見てくれ、私もないわけではないだろう」
「お、お、おい!服を脱ぐな!!やめろ、俺の手を取るな!胸を触らせようとするな!!」
「触らなければあるかないかわからないだろう!」
「あ~、カウっち、本当は触りたいんだ。いやらし~。罰符だ!はい、飲んで飲んで飲んで♪」
「ぶっははは! イ、イタンの野郎が『猛将』だと? クワハハハ! は、腹が痛え! ヒィー!」
「え~、カウっち、そんなにおかしいことなの?」
「だって、あいつは後方勤務が主で戦場に出たことがほとんど無いんだぜ。
それが『猛将』かよ。ありえね~よ」
「カウっちと仲良くなかったの?」
「いいわけねーだろう。あいつ、同期のくせにこっちが飲みに誘っても全部断ってくるんだぜ」
「う~ん、それは人としてやってはいけないことだね」
「そうだろう、そうだろう、いや~、ティナっちはわかっているな。
宴会を断るなんてことは、人としてやってはいけねえことだ」
「じゃあ、カウっちカタゴ戦線にいたんだ」
「おう、あそこはやりづらいぞ。とにかく山・山・山、森・森・森だ。
いつの間にか敵が忍び寄ってきて奇襲してくる。こっちが逆襲しようとするとあっという間に逃げ出す。追いかけようとしても、こっちは山と森に慣れていないから追いつけない。下手に深追いすると逆襲してくる。やってらんねえよ」
「う~ん、正々堂々と勝負しないんだねえ」
「それだけじゃねえぞ。山の中に村があるじゃん。村に入って夜営しようとするじゃん。そしたら、こんな小さな子供が寝首を掻きに来るんだぜ」
「ひえ~」
「カリーのアニキはぶち切れて、全ての村を住民ごと焼き払えって主張する始末だ。さすがにコスターのおやじが止めたがな」
「カリー?コスター?」
「ああ、コスターのオヤジはカタゴ戦線の総司令官で、元帥だ。カリーはナンバー2。
いや、ナンバー2だった。あんな主張をしたせいか、コスターのオヤジから干されて、閑職に追いやられた。こっちの戦線にはパトキンのオヤジじゃなくてカリーのアニキが来ると思ったんだがな。そうなっていたらば、戦局もちったあ変わっていただろう」
「へえ、カリーっちって、優秀なんだ」
「少なくともパトキンのオヤジよりもマシだろう。そういや、カリーのアニキはパトキンのオヤジに似ているな。手堅く攻めるのが得意だ。まあ、パトキンのオヤジみたいに腰抜けってことはないだろう。
なんたって、住民ごと村を焼き尽くせ!っていうくらいだからな」
「だいたいだなあ、俺は、カタゴ戦線にこだわっているお偉いさんの気持ちがわかんねえんだよ。あんなところに10万の兵を張り付けて何がうれしいんだよ。あそこはなあ、2〜3万程度を抑えに置いときゃ、カタゴの野郎どもはな〜んもできんのによう」
「それにしてもだなあ、ティナっちも、ユメっちも酒につええなあ。俺より飲んでるのに全然酔ってねえじゃねえか」
その瞬間、さっきまで陽気に笑っていたティナの目が、酔客のそれではなくなった。
「う~ん、トールお兄様、もういいかな」
「あ~!トールっちって言ってね~ぞ!バップだバップ!!」
「ごめんね、カウっち。実は私たち、全然酔ってないの」
「ん。ヒールの魔術をかけていた。アルコールは全て中和済み」
「へ?」
「カウ・リバルス少将。情報提供に感謝申し上げる。
カタゴ戦線における帝国軍兵力は10万。次にバルト戦線に派遣される司令官はカリー氏が有力。カリー氏は手堅い性格ではあるが冷酷さも併せ持つ。まあ、だいたいこんなものか」
「お、おい、ちょっと待て!全部演技だったのか?」
「クレアお姉さまは演技じゃない。あれは全部本音。ああ、帝国軍捕虜に貴重な情報を与えてしまった」
「第一夫人は胸が小さいことに悩んでおり、ぐしぐし泣いていたってか?
いるか!そんな情報!!」
「それでは少将、収容所までお送りしよう」
「カウっち、また飲もうね」
「誰が飲むか!!」
参考:二瓶 有加さんの飲み会
クレア姉さんは、治癒魔術が使えないため、ベロンベロンに酔ったという設定です。




