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I'll  作者: ままはる
第一章
7/114

07.入隊試験

 翌日は、打ち上げで酒を飲んでいたほとんどの男たちが、二日酔いでベッドに沈んでいた。


 酒を飲まなかった者たちは、明日の試験に向けて最後の追い込みをしたり、ゆっくりと休息を取って過ごしている。


 ウィルも今日一日は何もしないと決め、昼過ぎに目覚めてからはダラダラと時間を持て余していた。


「あれ? おっちゃん、まだ寝てんの?」


 遅い昼食を終えて部屋へ戻ってきたウィルは、カストがまだベッドから出てきていないことに驚いた。


 彼は昨夜酒を飲んでいないはずだし、普段から訓練の休みの日でも決まった時間に起きるタイプだ。こんな時間まで寝ているのは珍しい。


「あぁ……ちょっと頭が痛くて……気を抜きすぎたんだな」


 ゆっくりと体を起こしたカストの顔色は冴えなかった。


「誰か呼んできた方がいい?」

「いいや、やめてくれ。大丈夫だから」


 万が一、明日の試験は受けられないなどと言われたら、すべてが水の泡になってしまう。


「熱もないし、本当にただ頭が痛いだけなんだ」


 血管が脈打つたびにズキズキと痛む。痛みは頭の中を絶えず移動していて、一所に留まらない。まるで頭の中を虫が齧りながら這っているような、そんな感覚だった。


「大丈夫ならいいけど……」

「悪いけど、なるべく静かに寝かせておいてくれないか。明日のために、体調を戻さないといけないからね」


 そう言って頭まで布団を被り、カストはきつく目を閉じた。


 早く治さなければ。試験をクリアして、剣士にならなければ。


 痛みを紛らわせるように、繰り返し心の中で唱える。娘のために、元妻のために、剣士になって少しでも豊かな暮らしをさせてやりたい。そのためなら、これくらいの痛みは耐えなければ。



 入隊試験当日を迎えた。


 試験会場は剣士隊の訓練場。練習生たちは揃って会場へ向かうため、宿舎の前に集まっていた。


「ウィル。カストさんはどうしたんだ?」


 イアンがウィルに尋ねる。カストだけが、まだ来ていない。


「昨日から頭が痛いんだってよ。何度も声かけたんだけど、すげぇ剣幕で『静かにしろ!』って怒鳴られたから、もう放ってきた」

「仕方ねぇな……俺が引きずってでも連れてくから、お前らは先に行ってろ」


 アイザックが宿舎の中へ引き返していく。


「どうする? もう少し待つか?」

「アイザックもああ言ってたし、俺たちは先に行こうぜ」


 バラバラと、練習生たちが移動を始める。ウィルとイアンも顔を見合わせ、試験会場に向かって歩き出した。



 あぁ、頭が痛い。

 結局一睡もできなかった。

 どうしよう。試験は今日なのに、こんなにも頭が痛くて、試験に受かるだろうか。

 それにしても身体がだるい……寝ていないからか?

 どうしよう。こんなにも重い身体で動けるだろうか。

 あぁあ……それにしても喉が渇いたな。なんだろう、喉の奥が焼けるように熱くてカラカラだ。

 ……そうか。昨日から水も飲んでいなかった。

 あぁ、頭が痛い。

 頭が痛い。

 あぁああぁぁぁ! うるさいなぁ! 誰だ、頭が痛いから静かにしろと言っただろう!?

 俺は! 頭が! 痛いんだ! それに喉が渇いたんだよ!!

 水をくれよ、ミズ、ミズ、ミズ……

 ア ア ア タ マ ガ イ゛ タ゛ イ゛



「アイザックとカストはまだ来ないか……」


 時計の針が試験開始時刻を指した。訓練場に整然と並べられた机と椅子に、今期の受験者たちが着席していく。


 部隊長は痛ましい面持ちで二つの空席を見やり、筆記試験開始を言い渡した。


(何やってんだよ、あの馬鹿ども)


 姿を現さなかった二人に、ウィルは内心で毒づいた。あれだけこの試験に賭けていたくせに。自信満々に連れてくると言ったくせに。二人とも来ないなんて、どうかしている。


(……くそっ!)


 今のウィルにできることは、目の前の筆記試験の問題を解くことだけだ。


 もしかしたら、何かやむを得ない事情があるのかもしれない。だとしたら、後から二人も試験を受けられるかもしれない。できるだけ楽観的に考えることにした。


(っ! マジかよ……)


 問題を目でなぞりながら、ウィルの口元に思わず小さな笑みが浮かんだ。


 この国の歴史。グリーンヒル専属剣士隊について。一般教養――筆記試験対策にと、繰り返しカストが教えてくれたことばかりだ。


(おっちゃんが教えてくれたこと、そのまんまじゃねぇか)


 ペンを走らせながら、ウィルは再びカストとアイザックのことを考えた。


 あの二人と一緒に入隊できるなら、剣士になるのも悪くはない。

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