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I'll  作者: ままはる
第四章
42/59

空洞の獣


⭐︎


「ラリィ先輩。なんでリズ先輩置いて来たんですか? なんか、意地悪してるみたいで感じ悪いですよ」


樹海の中を移動しながら、ウィルがラリィに尋ねた。

ラリィは頭を掻きながら、言葉を選ぶ。


「だってさぁ……なんか、アレだよ。こう……何て言えばいいのかなぁ? 上手く言えないんだけど……」


「海斗とくっつけたいとか?」


「違う違う! それは全然違う! リズは嫁にはやらねーよ!」


「はぁ……?」


ラリィの中でのリズの立ち位置がよくわからず、ウィルは曖昧に頷いてからセイルを振り返った。


「セイル先輩は?」


「あんな顔してたら、面倒臭いだろ」


「あんな顔って?」


ウィルにはいつもと変わらないように見えたが、ラリィはそれそれ! と大きく頷く。


「女の顔」


「それ! オレが言いたいのもそれだ!」


「……リズは女だと思っていたが……?」


ゼンも意味がわからず、首を傾げる。


「いつものリズは可愛いんだけどカッコいいって言うか、ちゃんと芯があって、魔物なんか余裕で倒しちゃうだろうなって安心感があるんだよ」


「今は失恋したただの女だ」


「あんな感じで剣持たせたら危ねーな、って思って」


「なるほど……?」


意味がわかるような、わからないような、微妙なゼン。


「俺が言うのも、説得力がないかもしれないが……二人とも、言葉が足りなかったと、思う」


「ですよね。リズ先輩、可哀想でしたもん。傷付いてるかも」


セイルとラリィは、気まずそうに視線を彷徨わせた。


「今頃、海斗が慰めてるかもな……」


「だったら昨日の賭け、俺たちの勝ちですね」


「やめろよ。リズはそんなーー」


ラリィが何かを言いかけた時、近くの茂みが揺れた。

反射的に身構える四人。

しかし現れたのはーー


「キュゥ……」


金と黒の毛並みをした獣。それも手のひらに乗るサイズで、子猫のようなおぼつかない足でよちよちと歩いている。


「何だこれ? ネコ?」


「ネコ……とは違うようだが……」


「野生動物ですか?」


「いや……」


セイルは獣の顔をよく見た。長い毛で覆われた顔には、大きな目が一つだけしかない。


「魔物だろう」


鞘から剣を抜くセイル。


「魔物ったって、赤ちゃんじゃねーの?」


「お前は今まで、魔物の赤子を見た事があるのか」


魔物がどこでどうやって繁殖しているのかは、誰も知らない。ただ卵や赤子は発見されたことがないことから、そのままの姿で、どこからか湧いて来ているのだろうと言われている。


「ちょっと可愛いんだけどなぁ。殺す?」


「当然だ」


セイルが剣を振り上げた時、獣の独眼が薄暗い光を帯びた。かと思えば獣は低い唸り声を上げ、体が一回り大きくなる。


「セイル、待て……!」


ゼンの制止と、セイルの剣が獣の独眼を貫いたのは同時だった。

だが。


「なんだ……!?」


獣の目だと思っていた場所は、空洞だった。ぽっかりと空いた穴に刺さった剣は、強い力で穴に引き摺り込まれる。とても柄を握っていられず手を離すと、剣はすっぽりと穴の中に消えていった。


「は……? こいつ、剣を飲んだ……?」


ウィルは獣から一歩退がる。


「その魔物……弥月(みづき)のものだと思う……」


獣の体が大きくなった時に、弥月の魔力に似た力を感じた。


「ってことは、なんか厄介な魔物ってことか……?」


ラリィも鞘から剣を抜き、構える。

獣は四人を観察するように、じっとその空洞を彼らに向けている。

そしてまた、光を発したと思えば体が大きくなった。


「これ、どこまで大きくなるんですかね……?」


「まずいな……」


大型犬ほどの大きさになった獣に、ゼンは魔法を放つ。


「【hyou】」


鋭利な氷柱が、獣に降り注ぐ。

しかしその全てを、顔の穴で受け止め飲み込んでしまった。


「ブラックホールだな……」


「斬る!」


巨大な守護剣ヴァルキリーで背後から斬りかかるウィル。

獣はくるりと回転し、剣の切先を飲み込もうと前のめりにウィルに向かってきた。


「気持ち悪ぃ奴だな! これって守護剣飲まれたらどうなんの!?」


「試したくもない……」


下手な斬撃は繰り出せない。


「とにかくその穴に触れなきゃいいんだろ? 挟み撃ちすれば……」


ウィルに気を取られている獣の背後を狙うラリィ。

そして剣を振り下ろそうとした時、獣の咆哮と共に黒い火花を纏った雷撃が現れ、ラリィの鼻先を掠った。


「何だよコイツ!」


雷撃はランダムに落ちてくる。避けるのに精一杯で、攻撃を仕掛ける余裕がない。

そうしているうちにも獣は成長を続け、大人の獅子や虎ほどの大きさになった。


「どこまで大きくなるんだよ……」


獣が唸る。

しかしそれはウィルたちへの敵意や警戒の声とは、少し違うような気がした。


「ガアァァア!」


頭を振り乱し吠える。黒い雷が落ちて、地面に穴を開けていく。


「苦しそうだな」


剣を失ったセイルは、代わりの短剣を握りそう呟いた。

悲鳴のような咆哮。助けて欲しいと叫びながら、ウィルの剣を躱し、手足の長い爪で襲いかかった。


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