03.実地訓練
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「これから入隊試験までは、真剣を使った稽古行う。それから近隣の魔物討伐に向かう剣士隊に同行し、実地訓練を行う」
練習生一人に一本ずつ真剣が行き渡ったところで、部隊長が言った。
「当然ながら、真剣での私闘は言語道断。見つけ次第、即刻ここから叩き出す」
視線がアイザックとウィルへ向けられる。二人は示し合わせたように、揃って視線を宙へ逸らした。
「昨今、グリーンヒル周辺に厄介な魔物はほとんど出ないが、油断は禁物だ。魔物に遭遇した場合は直ちに剣士に報告すること。基本的に討伐は剣士たちが行うが、彼らが可能と判断すればお前たちが駆逐してもいい。ただし、間違っても怪我はするなよ」
練習生が怪我を負っても、万が一命を落としても、補助金も保険金も出ない。骨折り損の犬死にだ。
「いいか。些細なことでも、何かあれば必ず同行の剣士に報告しろ。絶対に、だ」
語尾を強め、部隊長は念を押すように繰り返した。
「……やっぱり少し緊張するな」
カストを含め、真剣を初めて握る者たちは、手に伝わるその重みに内心ヒヤリとしていた。木剣とはまるで違う、刃の重さだった。
「二つのグループに分ける。先発隊として、明日さっそく実地訓練に向かいたい者は?」
迷わずウィルが手を挙げる。真剣の素振りを繰り返すよりは、実地訓練の方が絶対に楽なはずだ。
その挙手を見て、アイザックも手を挙げた。他にも続き、計六名。
アイザックはチラリとカストを見たが、さすがにいきなりの実戦は無理だろうと判断したのか、カストは手を挙げていなかった。
「出没する魔物は?」
「スライムとゴブリン。稀にフライスネークが出ると聞いている」
「雑魚ばっか」
「ウィル。そうやって油断している奴ほど、足元をすくわれるんだぞ」
「へいへーい」
部隊長は大きく息を吐いた。本当にこの幼い少年に真剣を握らせていいものか、これまで何度も自問自答を繰り返してきた。そして辿り着く答えはいつも同じだ。自分にはこうすることしかできない。
「それでは、挙手した六名は明朝六時に剣士隊のグラウンドに集合。剣士隊第二部隊、七班と八班とともに現地へ向かってもらう」
「第二部隊?」
ウィルがカストに尋ねる。
「専属剣士隊は第三部隊まであってね。第一部隊はグリーンヒル・シティ内が管轄。第二部隊がグリーンヒル近郊。第三部隊がそれ以外の国内全域だ。各地に支部隊もあるけど、所属としては第三部隊になるんだよ」
「つまり、第三部隊より第二、第一の方が偉い奴らの集まりってことか」
「入隊したての剣士は、ほとんど第三部隊に配属されるらしいよ。同じ第三部隊でも首都本部ならまだいいけど、地方の支部となると……場所によっては辛いだろうね」
「ちなみに、あのオッサンは?」
ウィルが目の前の部隊長を指差す。部隊長は、わざとらしく咳払いをした。
「私は第三部隊の部隊長だ。こうして練習生の様子を見に来るのも仕事のうちだ」
普段、剣技の稽古をつけるのは別の師範であり、基礎知識を教える座学の講師も別にいる。部隊長は月に一度ほど顔を出しては練習生の様子を見て、時にはこの間のように直接稽古をつけることもあった。
「第三部隊って、暇なん?」
「誰が暇だ!」
☆
――明朝。
集まった練習生六人と、第二部隊七班の五人、八班の四人は、二台の馬車に分かれて出発した。
ウィルとアイザック、それからイアンという名の練習生の三人は、八班の四人と同じ馬車に乗り合わせることになった。
特に自己紹介もなかったため、ウィルは心の中で『日焼け』『傷痕』『筋肉ハゲ』『金髪』と、見たままの特徴であだ名をつけた。
「あのぉ……剣士のお仕事って、実際どうですか?」
馬車が走り出してしばらくして、イアンが遠慮がちに、誰へともなく尋ねた。剣士たちは皆鍛え抜かれた体つきで大きい。その死地を潜り抜けてきたであろう雰囲気に、どこか気圧されているようだった。
「どう、とは?」
『日焼け』が眉を寄せる。
「その……思っていたより楽だなとか、逆にしんどいなとか。剣士になってよかったこととか、何でもいいんですけど」
「そうだなぁ……思っていたより死にかけることが多い、だな」
「え」
凍りついたイアンをよそに、剣士たちが次々と口を開いた。
「特に第三部隊にいた頃はきつかったよなぁ。俺は入院二回で済んだけど」
そう言ったのは、『傷痕』だった。
「あれだろ? オークにぶん投げられて粉砕骨折した時」
「俺はウェアウルフ相手に腹から腸を引きずり出された時、さすがにもうダメかと思ったな」
「あと遠征も地味にしんどいよなぁ。馬車で二日、三日ならまだしも、一週間とかザラだし」
「足場の悪い雪山もあったよな」
そんなこともあったなぁ、と『金髪』が笑う。
剣士たちの昔話が盛り上がるにつれ、イアンの顔色はどんどん青ざめていった。
「今回の練習生は全部で二十人だろ? 外部から来る奴も合わせりゃ、入隊試験を受けるのは五十人くらいか。まぁ、少なくとも半数は受かると思うぜ」
「その……根拠は……?」
聞かなくても答えはわかっている。それでもイアンは聞かずにはいられなかった。
「減った駒は補充しねぇとな」
やっぱりか、とイアンは絶句した。
就職活動に失敗し、軽い気持ちで剣士の練習生になってはみたものの、稽古の辛さに二ヶ月で嫌気が差していた。それでも自分を騙し騙しここまで来たが、今この瞬間は猛烈に後悔していた。
「それで、そっちのガキは何の冗談だ?」
『筋肉ハゲ』が、ウィルへ視線を向けた。ウィルは馬車の窓からぼんやり外を眺めたまま、返事をしない。隣に座るアイザックが肘でウィルを小突く。
「おい、クソガキ。指名されてんぞ」
「新人をビビらせて楽しんでるような奴らのことなんか、放っとけばいいだろ」
「おま……っ!」
慌ててアイザックが両手でウィルの口を押さえつけた。
「す、すみません! こいつ、礼儀とか常識を母親の胎内に忘れてきたみたいで!」
「ふぬーっ!」
「ちっ。今年の練習生にガキが紛れ込んでるって噂は聞いてたが、実地訓練までノコノコついてくるとはな」
「ガキのお守りなんかまっぴらゴメンだからな。せいぜい泣き出さないよう、あんたら練習生でおんぶでもしてやれよ」
「あ、あ、あの! でもこの子、一応根性があるっていうか、そこそこ強いんじゃないかなって、俺たち練習生の間では一目置いてるんですよ! な、アイザック!」
「はっ。口の悪さと素行の悪さと不遜な態度には一目置いて……って、でべぇっ! ぐ、首を絞めるな!」
押さえつけた口を放さないアイザックの首を、今度はウィルが締め上げる。
「ごちゃごちゃうるせぇなぁ!」
アイザックの手を振りほどき、ついでに首を絞めていた手も放してやる。
「年なんかどうでもいいだろ。要は魔物を殺すか殺されるか、それだけの話だ」
「肝が据わってやがる」
『筋肉ハゲ』がニヤリと笑った。
「お手並み拝見といこうじゃねぇか」




