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I'll  作者: ままはる
第一章
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02.西ってどっち?

⭐︎


「こっちの正門じゃねぇのか?」

「いやぁ、デリックは西の方だと言ってたんだけどなぁ」

「西? 西ってどっちだよ」


 翌朝の早朝訓練の後、アイザック、カスト、ウィルの三人は揃って道に迷っていた。


 眼前に広がるのは白亜の城、グリーンヒル城。アイザックの指差す正門には鎧に身を包んだ兵士の姿があり、城壁に沿って等間隔に警備の兵が立っている。


 ウィルたちが目指しているのは、グリーンヒル専属剣士隊の訓練場だ。来週の実技試験で使う真剣を借りてくるよう、師範から使いに出されたのである。


 練習生の訓練場は丘の下、街の中にある。対して剣士隊の訓練場は丘の上、城の近くだ。


「城壁の中に訓練場なんかあるわけねぇだろ、馬鹿じゃねぇの」

「これだけ広いんだ、何があるかわかんねぇだろうが、クソチビ」

「デカけりゃいいってもんじゃねぇぞ、ハゲ」

「まだハゲてねぇわ、殺すぞ」

「喧嘩しないでくれよ……とにかく西だよ、西」

「だから西ってどっちだよ」


 城壁の周りを賑やかに騒ぎながら歩く三人。


「人に聞いた方が早いね。あの警備兵に聞いてくるよ」


 カストが歩き出そうとするのを、ウィルが片手で制した。


「どうせ聞くなら、女の方がいい」


 少し離れた場所を歩く女に向かって、ウィルは小走りで駆けていく。


「おねーさん」

「ん?」


 長いツインテールの女が振り返った。ウィルがニコニコと笑うと、女もまたニコリと笑い返す。


「あら、可愛い子ね。どうしたの?」

「剣士隊の訓練場ってどこか知ってる?」

「ええ、わかるわよ。案内しようか?」

「ホント? 助かる!」


 その様子を、少し離れたところからアイザックとカストが眺めていた。


「……ウィルのあんな顔、今まで見たことねぇぞ、俺」

「末恐ろしいね……」


 歩き出したウィルたちの後を、二人もついていく。


「俺はウィル。おねーさん、名前は?」

「キリーよ。ウィルは、訓練場に何をしに行くの?」

「ちょっと剣を借りに」

「剣を?」


 キリーはチラリと後ろの二人に目をやり、カストがウィルの父親なのだろうと推測した。


「お使い、偉いわね」


 父親の手伝いとは感心なことだ。それにしても似ていない親子だな、とも思う。


「キリーは? 城の人?」

「まぁね。時々こうやって、道に迷ってる人を案内してるの」

「ふーん?」


 よくわからないが、これだけ大きな城なら色んな仕事があるのだろうとウィルは勝手に納得した。


 キリーに先導され、城の横手の道を歩いていくと、やがて新たな建物が見えてきた。


「あれが剣士隊の寮とグラウンド。その横にあるのが訓練場よ」

「ありがとう。本当に助かったよ」

「どういたしまして」


 礼を言うカストに、キリーはヒラヒラと片手を振る。


「じゃあね、ウィル」

「またな、キリー」


 歩くたびに揺れるツインテールを見送り、その姿が見えなくなったところで、ウィルは小さく首を傾げた。気づいたカストが尋ねる。


「どうしたんだい?」

「いや、なんか……変じゃなかった?」

「変とは?」

「……なんだろ」


 具体的な言葉が出てこない。十八歳くらいの、ウィル好みの可愛い顔立ちの女だった。ただ、微かな違和感が胸の片隅に残っている。


「変なのはてめぇの頭だろ。女の前でだけヘラヘラしやがって、発情期か」

「発情期とか……きもっ」


 アイザックを軽くあしらい、訓練場へと歩き出すウィル。キリーへの違和感は、もう忘れていた。


「おい、カスト。あんた、よくこのクソガキと同室で過ごせるよなぁ?」

「うちの娘も、ウィル君と同じくらいの歳でね」

「なんだ、結婚してんのかよ」

「バツイチだよ。娘は元妻の方にいるんだ」

「養育費を払うために、より良い給料を求めて?」

「ははは。ベタだろう?」


 アイザックは何とも言えない表情で頭を掻いた。自分も含め練習生のほとんどは、学はないが体力には自信があるとか、剣技に覚えがあるとか、中には国を守るためという立派な志を掲げてとか、そんな十代後半から二十代の男ばかりだ。若すぎるウィルも特異だが、これから体力が衰えていく四十代のカストもまた目立っていた。


「さすがにもう歳だからなぁ。今回の試験に受からなきゃ練習生ではいられないし、剣士は諦めるつもりだよ」

「あんた、筆記は問題ないだろう。実技だって勝敗は合否に関係ないって話だし、大丈夫だろ?」

「勝敗は関係ねぇっつっても、そもそも剣の素質がなけりゃダメだろ」


 二人の会話に、ウィルが横から割って入る。


「おっちゃん、下半身が弱ぇんだよ。腕だけで振ろうとするからすぐバテる。真剣持って魔物とやり合ったら一発でヤられるだろうな。まぁでも、剣士になれば保険に入れるって言うし、そしたら保険金で養育費も払えるか」

「おい! 黙れよ、クソガキ!」


 アイザックはウィルを怒鳴りつけながらも、その指摘の的確さに内心驚いていた。何度か木剣でカストと打ち合ったことがあるが、アイザックも同じ印象を抱いていたのだ。


 そして、ウィルと打ち合ったこともある。あの時は――


「エロガキ。お前、ここに来る前は誰に稽古をつけてもらってたんだ?」

「エロガキって誰だよ。人の言葉を喋れ、クソジジィ」

「ウィル=レイト! ホントにてめぇは人を馬鹿にするのが上手いなぁ!? で!? 誰に習ったんだよ!?」


 ウィルの足がピタリと止まった。無意識に、首から下げたネックレスの鎖に指先が触れる。鎖の先には、銀のリングがひとつぶら下がっていた。


「……ウィル君?」


 カストが声をかけると、ウィルは小さく息を吐き、アイザックを見上げた。


「教えねぇよ、ベロベロバー」

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